確定拠出年金,掛け金上限
(写真=PIXTA)

最近話題の個人型確定拠出型年金(DC、愛称:iDeCo)だが、何やら難しいイメージを感じる方も多いのではないだろうか。しかし、筆者はiDeCoを最強の運用法と考えている。

ここでは、iDeCoにいくら掛金を拠出することが可能なのかなどを説明する。大前提として、iDeCoに加入するには 20歳以上60歳未満で、国民年金保険料を納付していることが要件である。

1. サラリーマン(会社で企業型DC・DB非加入) 27.6万円

本稿では学術的な正確性よりも読者へ情報が伝わり易いことを重視するため、サラリーマンという表現を使う。会社で企業型のDC(確定拠出年金)や、DB(確定給付企業年金、厚生年金基金)が無い会社に勤務しているサラリーマンは年額上限27万6千円までの拠出が可能である。

2. サラリーマン(会社で企業型DCのみに加入) 24.0万円

会社でiDeCoへの加入を認めている企業で、企業年金等に加入している企業のうち「企業型のDC(確定拠出年金)のみに加入している」場合は年額上限24万円までの拠出がH29年1月から可能になった。1 2 3

3. サラリーマン(会社で企業型DC+DB加入でDC18.6万円以下) 14.4万円

会社で企業型のDC(確定拠出年金)に加えてDB(確定給付年金、厚生年金基金)にも加入しており、企業型DCの事業主掛金が年額18.6万円以下の場合は年額上限14.4万円までの拠出がH29年1月から可能になった。1 3

4. サラリーマン(会社でDBのみ加入) 14.4万円

会社でDB(確定給付年金、厚生年金基金)のみに加入している場合は年額上限14.4万円までの拠出がH29年1月から可能になった。1 3

1 マッチング拠出規定ありの場合はiDeCoへの併用加入不可 2 企業型DCの事業主掛金限度額が年間42万円超の場合はiDeCoへの併用加入不可 3 企業型DCの規約でiDeCoへの加入を認めている場合のみ

5. 公務員、私学共済加入者 14.4万円

iDeCoへの加入を認めている企業で、企業年金等に加入している企業のうち「企業型のDC(確定拠出年金)のみに加入している以外」の場合、例えば「公務員」や、「学校の先生で私学共済にも加入している」場合は年額上限14.4万円までの拠出がH29年1月から可能になった。

6. 専業主婦等 27.6万円

専業主婦等には収入は無いため、所得控除のメリットは無い。しかしながらiDeCoに加入する意味はある。それは「運用益が非課税」というメリットがあるためだ。年齢にもよるが仮に30歳で30年間のパート収入を原資に、年間上限27万6千円を積み立てれば、積立金は828万円にもなる。運用期間中に受け取る配当金や利息に税金がかからない事は十分なメリットだ。(積立金にかかる1.173%の特別法人税は現在課税凍結中。将来的に見直しの可能性がある)基礎年金に加入している専業主婦等は、年額上限27.6万円までの拠出がH29年1月から可能になった。

7. 自営業者、フリーランサー等 81.6万円

個人事業主、フリーランサーなどは年額上限81万6千円までの拠出が可能である。

サラリーマンで企業型DCと聞いて、自身の加入しているものが何かわからない場合もあるであろう。自社の制度を確認する前にiDeCoと企業型DCについての違いを確認しておく。

iDeCoと企業型DCの違い

まずiDeCoであるが、資金の出し手は個人である。個人で掛金を拠出する。加入は個人の自由意思である。制度を利用しないという選択肢もあるが、税制メリット等が充実しているので、利用できる方は利用しないことは勿体無い。そして運営機関である金融機関も個人が自由に選択できる。iDeCoは「老後に備えて個人が自由意思、自己責任で資産形成して下さい、そのために税制メリット等を認めます」という制度といえる。

これに対して企業型DCは資金の出し手は原則会社である。(一部個人の上乗せを認めているケースあり)。会社の制度であるので、企業型DCを導入するかどうかは会社の決定事項だ。加入となれば、原則は全員が加入する。金融機関は会社が決めた運営機関の中から選ぶ。そしてその運営機関の商品ラインナップから各従業員が何に投資するかを選択する訳である。企業型DCは会社が用意している退職金制度のひとつの形態と言える。

企業型DC 商品ラインナップに問題点は

企業型DCの商品ラインナップについて問題はないのだろうか。筆者は外資系プライベートバンクで世界の最先端の運用を取り扱ってきた。しかしその勤務先の企業型DCは「お粗末」としか言えない状況であった。「こんなコスト高の投信、賢い投資家は買わないだろう」と思われる商品がリストの上位に掲載されていた。ラインナップの投信の信託報酬は税抜きで、1.74%、1.53%、1.50%、1.00%といった具合であった。救いは信託報酬0.40%未満のインデックス商品が3本のみあったことだ。海外ETFには現在では経費率0.05%といった商品もあるので、0.25%のインデックスでも依然コスト高の印象はあった。限られた選択肢だが仕方無い。どれも積極的には選ばないが、限られた選択肢の中から決定する状況であった。

企業型DCと経理担当の孤独 救えるのは経営者

企業型DCの商品ラインナップに金融機関としてはできるだけ高いコストの投信を入れたいのが本音であろう。何を選んでよいのかわからない従業員がリストの上の方から選んで、コスト高=金融機関の収益性高の商品を選んでくれれば儲けものである。本来あってはならないことだが、金融機関が融資先に対して「優越的な地位を利用」して、コストが高めの商品中心にセールスしてきたら、経理担当者はNOと言えるだろうか。

融資を受けられないという事が死活問題になる企業であれば、経理担当者は金融機関との関係悪化を回避することが仕事である。従業員のお金で、少額の事でもあるし、「まあ、いいか」として受け入れてしまっていても不思議はない。「もっとコストの安い商品中心にして下さい」とわざわざ火中のクリを拾う必要性は無い。それによって従業員から感謝されることもまず無いであろう。また経理担当者は運用商品のプロでは無いことも多いので、「金融機関の提案通り」であれば自らリスクを負う事はない。

経営者まで意思決定が上がって来ない状況で、従業員の退職金運用は従業員が望まない高いコストにさらされている可能性がある。経営者は従業員の将来の資産形成のために気配りをすべきであろう。従業員のモチベーションが上がる会社を作れるのは、社員想いの経営者なのではないだろうか。(※詳細は勤務先の年金加入状況をご確認の上、専門家にご確認下さい)

安東隆司(あんどう・りゅうじ)
RIA JAPAN おカネ学株式会社代表取締役。CFP®ファイナンシャル・プランナー、元プライベート・バンカー。日米欧の銀行・証券・信託銀行に26年勤務後、独立。お客様サイドに立った助言を実践するためには高い手数料は弊害と考え、証券関連の手数料を受け取らない内閣総理大臣登録の「投資助言業」を経営。著書に 『iDeCo おしえてあげる 1時間でわかる版』 がある。