2月25日、富士フイルムホールディングス(以下、富士フイルム) <4901> が一時8.8%高の5890円と上場来高値を更新した。前日のNYダウは新型コロナウイルスへの警戒から1031ドル安と急落、25日の日経平均も781円安となる中で、富士フイルムは逆行高となった。
後段で詳述するように富士フイルム傘下の製薬会社、富士フイルム富山化学が開発した新型インフルエンザ治療薬「アビガン」が、新型コロナウイルスによる肺炎の治療薬としても期待されることから、株式市場で投資マネーを呼び込んだもようだ。
今回は世界的株安でも逆行高を演じた富士フイルムを取り上げたい。
アビガン、政府の要請を受けて増産を検討
2月22日、加藤勝信厚生労働相は日本テレビ系列の番組に出演し、新型コロナウイルスの感染者に対して新型インフルエンザ治療薬「アビガン」の投与を検討する考えを明らかにした。
アビガンは富士フイルムの歴史においてエポックメイキングな薬である。もともとは1998年に富山化学工業(当時)が開発に着手したインフルエンザ等を対象とした抗ウイルス剤で、開発コード「T-705」と呼ばれていた。当時はインフルエンザ治療薬として競合するタミフルやリレンザが発売されたことで、2002年に「T-705」の開発を中止している。
その後、2005年に流行した鳥インフルエンザに「T-705」の効果が確認されたことで再開発が決定した。ところが、臨床コスト等が膨らんだこともあって2007年3月期に富山化学工業は赤字に転落してしまう。ここで救いの手を差し伸べたのが富士フイルムだった。2008年2月、富士フイルムは1300億円を投じて富山化学工業の66%の株式を取得し連結対象子会社とした。現在は100%所有の子会社、富士フイルム富山化学となっている。
タミフルやリレンザは増殖するウイルスを細胞内に閉じ込めて感染を防ぐのに対し、アビガンはウイルスの複製そのものを阻害するのが特徴とされている。米国でもバイオテロ対策の薬剤としてアビガンが指定され助成金が出るなど、抗ウイルス剤としてのポテンシャルは高く評価されている。日本では2014年に新型インフルエンザ治療薬として製造販売承認を取得したほか、2016年にはエボラ出血熱への効果も確認されている。
ただし、アビガンには副作用等の問題もあったため薬価収載して販売されることはなく、緊急時に他の薬が効かないときの抗ウイルス剤として政府備蓄されることになった。備蓄量はすでに200万人分に達しているが、2月25日には新型コロナウイルスによる肺炎の治療薬として、政府の要請を受けて増産を検討していることも明らかにしている。