「鉄は国家なり」かつて鉄鋼業界は国力を象徴する産業としてそう呼ばれた。その鉄鋼業界最大手の日本製鉄 <5401> の株価が年初来の安値を更新した。同社は2012年に業界1位の新日本製鐵と同3位の住友金属工業が合併して新日鐵住金となり、さらに2019年4月1日に現在の日本製鉄に商号変更している。ちなみに「日本製鉄」という社名は1950年に解体した「日本製鐵」以来69年ぶりの復活である。
その新生・日本製鉄となって初めての決算は大幅な赤字となる見込みだ。後段で述べるように「中国の粗鋼生産能力増による鉄鋼価格の下落」という構造的問題等が収益悪化の主因と見られている。さらに新型コロナショックが重なり、文字通り「泣きっ面に蜂」とも呼べる情勢だ。
今回は世界の鉄鋼業界のトレンドと日本製鉄の現状をリポートしたい。
鉄鋼株が全面安、解散価値を大きく下回る
先週は鉄鋼株が全面安となった。3月13日に日本製鉄が868円と年初来安値を更新、同日は業界2位のJFEホールディングス <5411> が702円、3位の神戸製鋼所 <5406> も283円の安値を付けた。ちなみに、企業の解散価値に対する倍率を示すPBR(株価純資産倍率)は3月13日の引け時点で日本製鉄が0.29倍、JFEホールディングスが0.22倍、神戸製鋼所は0.15倍となっている。これは企業が保有している土地や設備等を全て売却した解散価値のほうが現在の時価総額をはるかに超えると市場がみなしていることを意味する。
鉄鋼株が売られた背景には「新型コロナショック」もさることながら、業績の低迷が最大の原因と見られている。
2月7日、日本製鉄は2020年3月期第3四半期まで(4〜12月)の決算を発表した。売上は2%減の4兆4760億円、持続的な事業活動の成果を表す事業利益は2793億円の赤字(前期は2633億円の黒字)、最終利益も3573億円の赤字(前期は2066億円の黒字)にそれぞれ転落した。赤字転落の背景には生産出荷量の減少に加え、鋼材価格の低迷、原材料高による本業のマージン低下、さらに期中に発生した災害の影響(君津製鉄所の落雷による停電、 日鉄日新製鋼の呉製鉄所の火災、君津製鉄所の台風15号の被害)等による特別損失や、在庫評価差、グループ会社損益悪化等の減損処理等がある。減損額は今期の合計で4900億円を見込んでいる。