米ペンシルベニア大学ビジネススクールのウォートン校の金融学教授であり、ウィダムツリー社上級投資戦略アドバイザーである、ジェレミー・シーゲル氏は、約2兆ドル超に上る経済対策法案を議会が合意したことは、新型肺炎コロナウイルスの危機を米国が乗り切るうえで大いに役立つはずだと述べた。また米連邦準備制度理事会 (FRB) のパウエル議長は、追加支援策を取る余地があるとの見方を示した。
同氏はウィダムツリー・アセット・マネジメント主催の市場動向ウェブキャストで、現在の金融危機が非常に異例である理由について、 投資家が景気低迷を予測し、パニックになるまでに、「通常は何か月もかかる」 と説明し、「このような市場の下落はなかった。6週間前には過去最高を記録していた」 と述べた。
現在の危機と2008ー2009年の危機を比べると、他にも大きな違いがあり、今回は金融機関には 「向こう見ずな」 行動の責任はないという事実や、2009年から学んだこともあってか、金融機関は現在、非常に持ちこたえているように見えることを挙げた。
また、2009年には不動産価格の暴落があり、「基本的に何千万人ものアメリカ人の持ち家が消えた」 と指摘し、少なくとも現時点では 「不動産市場は完全に持ちこたえている」 と述べた。
FRBには追加策の余地
米連邦準備制度理事会 (FRB) は最近、フェデラル・ファンド (FF) 金利を1%引き下げ、0―0.25%のレンジにした。シーゲル氏は、「今回の危機に対応するため、バズーカ砲を取り出した。すぐに理解できた」 と述べた。
しかし、FRBにできることはまだたくさんある。同氏は、1つは 「もし株式市場が手に負えなくなったら、FRBは上場投資信託(ETF)やSPDR(ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズが管理するETF)のようなものを買ってくるだろうし、そうなるだろうと思う」 と述べた。
シーゲル氏は最近の投資家との電話会議で述べたように、住宅ローン債務の支払い遅延や免除期間があることは重要であり、また経営不振の業界を数か月間支援することも重要だと述べた。
同氏は、米国経済が現在の危機から抜け出すと予想しているが、具体的にどのくらいの時間がかかるかは予想しておらず、 「世界不況が近づいている」と見込んでいる。一方、一部の人々が主張するような米経済の完全なシャットダウン(閉鎖)の必要性はないと主張した。
同氏は、投資家らが引き続き株式ポジションを増やしていることに触れ、過去1か月に渡る株式市場の乱高下を踏まえれば 、「苦痛だったことを知っている」 と述べた。
しかし同氏は、「今から2年後、振り返ってみると、株式ポジションを増やしたことに感謝するだろう」 と見込んでいる。
同氏は、株式市場の投資家は 「このような時代を生きていかなければならない」 ものの、 「市場は、直面している非常に恐ろしい時代を乗り切ることができる人々に報いてくれる」 と述べ、常に安全を求めている投資家は、 「債券に行って永遠に0%を稼ぐことができる」 と付け加えた。
同氏は、1802年1月から2019年12月までの過去の実質リターン指数を挙げ、株式の実質リターンが6.8%で、債券の3.5%、短期証券の2.6%、金の0.6%、ドルのマイナス1.4%を大きく上回っていると説明した。
同氏は、株式のリターンは、配当利回り (現在2%以上) と自社株買いの組み合わせだと指摘した。米議会による景気刺激策で、一部企業による1、2年の自社株買い戻しが禁止されたとしても、 「懸念すべきものではない。配当に回るだけで、それが維持されているかどうかは重要な問題ではない」 と付け加えた。
また同氏は、「公衆衛生は最終的に本来の方法で対処されることになる」 と指摘する半面、米国では新型肺炎コロナウイルスが原因で150万人が死亡する可能性があることも認めた。
しかし同氏は、現在の世界的流行のように 「今では将来のためにすべての準備ができている」 との見通しを示した。
シーゲル氏は、金利は下がり続けるため、 ポートフォリオ戦略を従来の60対40から75対25に転換する必要があると改めて主張した。
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