最近は「都市封鎖」のことを「ロックダウン」と呼んだり、「爆発的患者急増」のことを「オーバーシュート」と言ってみたり、日本語で言ったほうが分かり易そうなものを敢えて「カタカナ」で呼ぶのが流行りのようだ。とはいえ、筆者が長年携わってきた金融業界も「カタカナ」を好んで使う傾向が強い。そのほうが賢そうに見えると誤解をしているのか、敢えて分り難くしているのかは不明だが、とにかく金融業界には「カタカナ」が多い。
ちなみに、今回取り上げるテーマ「アセット・アロケーション」とは「資産配分」のことである。「資産の配分」と聞けば少し身近に感じて貰えるのではないだろうか。投資について勉強されている読者の中には「アセット・アロケーションが運用成果の約9割を決める」と理解している人も多いことだろう。一方で「それはバランス型投資信託に関する話でしょう?」と思っている人もいるかも知れないが、それは大変な誤解だ。アセット・アロケーションはどんな運用にも関係する話である。
今回は、新型コロナウイルスの感染拡大で市場が混乱する中、「アセット・アロケーションの重要性」について2つの視点から再考してみたい。一つは「自分自身の全資産が何に、どの位の比率で投資されているか」という視点、もう一つは「投資している金融商品の中身が、どのようになっているか」という視点だ。新型コロナ危機の現下、市場の荒波を乗り越える一助になれば幸いである。
全資産のアセット・アロケーションを考える
実は自分の全資産がどういう資産配分になっているかを正確に把握している人は案外少ない。それは超富裕層と呼ばれる人達も例外ではない。たとえば、富裕層の中には起業家や創業一族も多く、彼らの持ち株が全資産の中で大きな部分を占めることも珍しくない。その持ち株を「株式」という資産クラスとして意識している富裕層は意外と少なく、指摘されて気づくケースさえある。確かに起業家や創業一族の持ち株は「売るに売れない」場合が多いので、金融資産という意識が希薄なのかも知れない。加えて富裕層になればなるほど取引している金融機関の数が増えることも資産配分を分かりにくくしている一因と考えられる。
もし、前述の持ち株が上場しているとすれば、尚更昨今のような市場環境下では「全資産のアセット・アロケーション」として捉えることが重要になってくる。たとえ持ち株でも、株は株であることに変わりない。攻めるも、守るも「株式として認識したポートフォリオ構築」が肝要だ。
不動産も同様である。富裕層の中には不動産を沢山保有している人もいる。それが相続した不動産で「売るに売れない」ものであっても、売買する市場や時価が存在するのであれば「不動産」という資産クラスとしてカウントしておいたほうが良い。だが、筆者がバークレイズ・ウェルスのISSヘッド(インベストメント・ソリューションズ・スペシャリスト)をしていた頃の経験では、そうした「売るに売れない」不動産を資産クラスと認識している富裕層も意外と少ないのだ。