株式投資で最も難しいのは、買う時よりも売る時だと言われます。含み損を抱えた時の損切りも、含み益が出た時の利食い時も、タイミングの見極めには悩まされます。株式の場合、その売り時はどのように判断すればいいのでしょうか?4つの判断方法と、利益を出すための売買ルールを解説していきます。

目次

  1. 大底、天井で売買するのはそもそも難しい
  2. 株を早く売って失敗する3つのケース
  3. 株の売り時を見極める4つの判断方法
  4. 利益を伸ばす売買ルールを押さえておこう
  5. まとめ:自分なりの売却ルールを持とう

大底、天井で売買するのはそもそも難しい

(画像= beeboys/stock.adobe.com)

投資のプロでも、株式売買のタイミングを見定めるのは難しいものです。では、投資ビギナーや個人投資家は、どのようなスタンスや考え方で、株式投資にのぞめばいいのでしょうか?

投資の格言「頭と尻尾はくれてやれ」

投資の格言に、「頭と尻尾はくれてやれ」というものがあります。ここで言う頭とは相場の天井であり、尻尾は相場の大底のことです。現実の投資において、大底で買って、天井で売りきるというのは、ほぼ不可能です。

大底や天井というのは後になって振り返ってから分かるもので、進行中の相場の中で見定めることは簡単にはできません。この格言は、欲張った末に売り場や買い場を見逃して、折角の美味しい身の部分を食べ損ねないように、という戒めの言葉なのです。

同様の意味合いのものとして、「天井売らず、底買わず」というものもあります。こちらも、天井で売ろうとしたり、底で買おうとするのは所詮無理なことである、無理なことをしようとこだわらず、ほどほどのところで良い取引をすればよいという教えです。

売買で失敗するケースを考え、取引ルールを持つことの重要性を知る

もちろん、利益が出たら闇雲に売ればいいということではありません。少しの含み益でも売り急いだり、少し下がっただけでも買い焦ったりするのは、賢い取引方法とは言えません。

買い時については、割安感が強まったり、買いの好材料が出た時など、いくつか判断するタイミングが考えられます。

では、売り時はどのように判断すればいいのでしょうか?賢い売り時を判断する方法を考える前に、まずは失敗するケースを先に確認しておきたいと思います。そうすれば、なぜ自分の取引ルールを持つ必要があるのか見えてくるはずです。

株を早く売って失敗する3つのケース

株式を塩漬けにしてしまうのは投資初心者にありがちなミスです。一方で、拙速な売りによって失敗するケースもよく起こります。株を早く売って失敗するというのは、売却後に株価が大きく上昇して、そこでの利益を取り損ねるということです。そのケースとしては、大まかに以下のようなものが考えられます。

ケース1:現金化する必要が出てしまい、早く売ってその後の大きな上昇を逃す

例えば、思わぬ現金の入り用ができたという理由で売却する、あるいは、他に有望な株を見つけて、乗り換えるために売ってしまうといったことがあるかもしれません。新たな資金の向け先で良い成果が出るのなら、それもよいと思います。

ただ、売ることで取り損ねるかもしれない利益と、新たな資金の用途のバランスは考える必要があります。また、望んでいなかった売りを避けるためには、購入当初から投資期間をある程度想定しておくことも役に立ちます。

ケース2:含み益が減るのが怖いからすぐに売ってしまう

含み益が出ると、せっかくの利益がふいにならないうちに売っておきたいという考えが出てくるかもしれません。もし、それまでに長い間含み損に苦しんでいたとしたら、なおさらそのように感じても不思議ではありません。

ただし、含み益が生じたということは、株価の動きが変わったわけで、そこには理由が存在するはずです。それを見極めずに拙速に利益確定に急ぐと、失敗ケースに直結しがちです。株価変動の理由を明らかにできれば、今後さらに株価が上昇するかどうかを判断することができます。株価上昇が期待できるならば、売却は急がずに、より良い売り時を待つべきでしょう。

ケース3:理由なく利益が出たから売ってしまう(損大利小は利益が増えない)

上記の点と似通うところもありますが、利益が出ればとにかく売るといった投資のやり方は、やはり失敗につながりやすいと言えます。短期売買となりがちで、小さな利益を重ねることができても、大きな成果につながるとは限りません。

逆に大きな損失が出た場合に、小さな利益の積み重ねではそれを相殺することができないことも多いでしょう。少しの利益での売却を急ぐより、なぜ上がっているのか、どこまで上がりそうなのかを考えることが重要です。

売却するのは、売る理由が見つかってからにするべきです。考えずに売買をしていると、いくら利益が得られても、なぜそうなったのかを本当に理解することができません。すると、次の投資にも経験を役立てることができず、分からないままに算段なく売買を重ねることになってしまいます。

株の売り時を見極める4つの判断方法

では、正しい株の売り時の判断方法とはどのようなものでしょうか。実は、絶対の正解というものはありません。しかし、活用すると成果が期待できるいくつかのやり方はあります。下記で紹介する4つの判断方法から自分なりの基準を設定することで、「売り上手」に近づくことができるでしょう。

判断方法1:目標株価に達したら売る

買う時に、売る時の目標株価を設定しておきます。そして、その目標株価に達するまでは、見通しの変更がない限り、株の保有を継続するというやり方です。

目標株価の設定においては、企業の財務や業績に着目するファンダメンタルズ分析が王道です。業績の成長度合いを予想して、それに応じた目標株価を自分なりに設定するのです。

ファンダメンタルズ分析が得意な人はそう多くないかもしれません。その場合は、運用会社や証券会社のアナリストなどが出している分析レポートを参考にしても良いと思います。ただ、精緻な分析ができなくても、売り上げがどの程度伸びそうか、利益はどのくらいかなどのイメージを持ち、自分なりの目標株価を作っておけば、納得のいく売り方ができる可能性が高まるはずです。

判断方法2:テクニカル分析で、過熱感が出てきたら売る

テクニカル分析によって売り時を判断する方法もあります。株価の値動きを示すチャートから、売り時などを判断する方法です。

テクニカル分析にはさまざまな手法が存在します。有名なところでは、「ローソク足」や「一目均衡表」、「移動平均線」、「ボリンジャーバンド」、「RSI(相対力指数)」などがあります。それぞれに、相場の天井が近いことや、相場が反転したことを示すとされるチャートのパターンがあります。
興味がもてるテクニカル手法がみつかれば、それを参考にしてみても良いと思います。ただし、中長期的な運用においては、テクニカル分析はファンダメンタルズ分析と併せて活用するのが基本なので、両方の分析手法を理解しておく必要があります。

判断方法3:トレンドが変わったら売る(上昇中は売らない)

これは「判断方法1:目標株価に達したら売る」の補助的な位置づけで利用するのが良いでしょう。株価が上昇傾向を続けている間は保有を継続し、下落傾向にトレンドが変わったと思ったら、そこで売却するというものです。

実は、この戦略を実践して巨額の資金を運用しているヘッジファンドもあります。トレンド・フォロー型と呼ばれる戦略で、コンピューターで高度なリスク管理を行いながら、トレンドに従った取引を行います。

ただ、トレンドが本当に変わったのかどうかを個人投資家が見極めるのは簡単ではありません。そのため、事前に設定した目標株価に近づいたところで判断に迷う際に使うなど、副次的な判断材料のひとつとして活用するのがよいでしょう。

判断方法4:過去の高値に近い水準になったら売却する

チャートを利用するという意味では、これも広い意味でテクニカル分析のひとつと言えるかもしれません。過去の高値は分かりやすいメルクマールであり、他の多くの市場参加者も意識する指標でしょう。高値を更新するにはそれなりのエネルギーも必要となるため、そこに近づいた手前の水準をターゲットとするのもひとつのやり方となります。

大手ネット証券の分析ツールを活用しよう

先に挙げたテクニカル分析については、大手ネット証券などが便利なツールを提供しています。口座を開設してからでないと利用できない場合が多いものの、口座開設後の利用は無料となっています。

自身でテクニカル分析用のチャートを作るのはとても大変です。ネット証券などのツールを使えば、非常に簡単に、また多種類の分析を比較して見ることもできます。テクニカル分析に興味のある方にとっては、大いに役立つはずです。

利益を伸ばす売買ルールを押さえておこう

ここまで、売り時を判断する方法を4つ挙げてきましたが、株式投資を成功させるための基本的な売買ルールも3つ押さえておきましょう。

売買ルール1:投資する理由を決める

投資する際には、なぜその企業に投資するのかを最初に明らかにしておくことが重要です。その企業の理念に共感し、応援したいと思ったことが理由なら、長期投資が前提となるはずです。また、企業業績の向上を予想したのが理由なら、実際に業績が上がって株価が上昇した時には、売却を検討するタイミングです。

一方、テクニカル分析などで株価の値動きに注目して購入したのなら、売り時のサインが出たり、分析の誤りが明らかになった時には売却すべきです。投資する理由によって売却のタイミングも異なってくるため、その理由は常に意識して、見失わないようにしておく必要があります。

売買ルール2:投資期間の目安を決める

運用期間をあらかじめ決めておくことも、失敗のリスクを軽減させるのに有効です。長期的な運用を想定するなら、理由もなく早めに売ってしまって後悔することも減らせます。売らずにおいて目先の株価が下がったとしても、それは長期運用における想定の範囲内と納得することができます。

短期・中期で結果を出すつもりでいるなら、売買ルール1で説明した「投資する理由」がなくなったり、変化があった時には、売りを先延ばしにする理由もありません。だらだら保有した結果、売り時を逃して後悔することは避けるべきです。

その後株価がさらに上がったとしても、それは運用期間が合わなかったために仕方のないことで、格言「頭と尻尾はくれてやれ」の「頭」をくれてやったと考えればいいと思います。

売買ルール3:市場の見方も鑑みて目標株価を決める

先に、ファンダメンタルズ分析から自分なりの目標株価を決めておくと良いと書きました。これについて、もう少し補足しておきます。ファンダメンタルズ分析にはさまざまなやり方がありますが、よく利用されるものにEPS(1株あたり純利益)とPER(株価収益率)などがあります。

EPSは言葉通り、純利益を発行株式数で割ったものです。PERは、株価が一株当たりの利益の何倍になっているかを示すもので、その株に対する現在の市場の期待度を示していると言えます。この二つの指標と株価には、以下のような関係があります。

株価=市場評価(PER)×企業業績(EPS)

この式から分かる通り、企業業績が今後どれくらい伸びそうかを予想できれば、株価がどれくらい上がるのかも計算できることになります。また企業業績だけでなく、想定する投資期間内に市場評価であるPERがどれくらい高まりそうかも予想して計算に加えれば、より自分の予想を深めることができます。
一般的に、企業業績の拡大が広く市場で期待されているほど、PERはより高い数字となっていきます。ただ、市場の期待度は高まりすぎると、過熱感から逆に大きく反落する可能性も高まります。過去のPERの推移を確認するなどして、割高になりすぎていないかを判断する必要があります。

まとめ:自分なりの売却ルールを持とう

株式投資の成否は、実際に売却した時に決まります。早く売りすぎた結果、より大きな利益を取り損なっても、または、売り遅れて含み益が消えてしまっても、それは成功とは言えません。どちらにせよ後悔の残る結果となります。

そうした失敗を避けるためには、自分なりの取引ルールを設けておくことが重要です。ルールに従って売ることにより、闇雲に取引している時よりも、後悔は減らせるはずです。

ただ、売り時の判断方法はひとつではありません。絶対に成功するというルールもありません。いくつかの方法を試して、また組み合わせて、自分なりのルールの精度を高めていくしかないのです。そのためにも、売る時には理由を明確にしておく必要があります。たまたま絶妙なタイミングで売却できたとしても、理由なく取引をしていただけなら、その経験は次につなげていくことはできません。

失敗した取引も次の教訓として活かせれば、それは本当の失敗にはならないはずです。

文・北垣愛
国内外の金融機関で、金融マーケットに直接携わる仕事を長く経験。現在は資産運用のコンサルタントを行いながら、主に金融に関する情報発信も行っている。日本証券アナリスト協会認定アナリスト、FP一級技能士、宅地建物取引士資格試験合格、食生活アドバイザー2級

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