「別荘」なんてごく限られた富裕層の贅沢……、そんな固定観念は崩れつつあります。平日は通勤圏内で暮らし、週末は自然に囲まれて暮らす「二地域居住」や、退職後に備えて早めに老後の住まいを手に入れる、あるいは進学で一人暮らしをするお子さんに提供し卒業後に夫婦で住む、などといった「セカンドハウス」のある暮らしがぐっと身近になっているのです。

セカンドハウスを購入するための手段として注目されているのが「セカンドハウスローン」です。通常の住宅ローンはセカンドハウス購入には使えないため、それに代わるローン商品のニーズが高まっているわけですが、セカンドハウスローンを利用しない方法もあります。どんなメリットとデメリットがあるのかを探ってみましょう。

なぜセカンドハウスローンが必要なのか?

(画像=XtravaganT/stock.adobe.com)

まず「セカンドハウス」の定義を確認しておきましょう。セカンドハウスとは、生活拠点としている自宅ではない別荘、別宅、将来用の住宅のことを指します。通常は生活拠点としている家の居住地で住民票を取得し、諸手続きや納税を行います。

ただし、セカンドハウスのある自治体には税金をまったく納めないかというと、そんなことはありません。まず、セカンドハウスの土地や建物には固定資産税が課税されます。さらに住民税のうち、所得に連動して増減する「所得割」は自宅のある自治体のみに納税しますが、所得額に関わらず定額課税される「均等割」は、住民票の有無に関わらず居住目的の土地や建物がある自治体に納めなければなりません。これは「家屋敷課税」とも呼ばれます。

人気のある別荘地の家屋敷課税を見てみると、長野県軽井沢町と野沢温泉村はいずれも町民税・村民税3,500円、県民税が2,000円です。温泉街として知られる神奈川県箱根町では町民税3,500円に県民税1,800円、同じく温泉街の静岡県熱海市では市民税3,500円に県民税1,900円、アーティストや企業経営者の二地域居住でも注目される千葉県南房総市では市民税3,500円に県民税1,500円でした。

自宅ではないからといってまったく税金がかからないわけではありません。購入時には自宅と同じように不動産取得税、印紙税、登録免許税、消費税など、家屋敷課税よりもはるかに大きな税金がかかることにもご注意ください。

さて、家を買う時にキャッシュで一括、とはなかなかいかないのと同様に、セカンドハウスも多くの場合はローンを組んで購入することになるでしょう。しかし、通常の住宅ローンは「契約者が居住する住宅」への融資であり、それ以外の住宅はローンの対象とはなりません。自宅とセカンドハウスでいわば二重債務となる、あるいは契約者が高齢であることが多いなど、回収リスクがつきまとうからです。

そのため、金融機関などがセカンドハウス専用のローン商品を展開しているわけですが、通常の住宅ローンとはいろいろと異なる点も多く、しっかりと理解した上での活用が重要です。

セカンドハウスローンの特徴

ここからはセカンドハウスローンの特徴を見ていきましょう。

新築物件だけでなく中古物件も、さらに増改築まで融資対象

住宅ローンで担保とされるのは、契約者が購入する物件そのものです。もし契約者が返済不能に陥った場合、金融機関は担保を売却し債権を回収します。当然、住宅の価値が下がりやすい中古物件では十分に債権回収できないリスクが高くなります。そのため新築と比べると中古住宅はローン審査が厳しく、とくにフルローンでの購入は難しいといわれています。

さらに難しいのは、所有物件の増改築への融資です。やはりこれも住宅価値の低下というリスクが伴うからです。リフォームを対象にしたローンもありますが、借入金額は500万円以内と小さくなっています。ただし「リフォーム対応型住宅ローン」の場合は、購入物件価格の130%以内まで借りることができるので、諸経費を抜いた20%程度はリフォームに充てることができますが、あくまでも「自宅」が対象です。

それに対してセカンドハウスローンは、中古住宅の購入だけでなく、すでに所有している増改築やリフォームまでも融資の対象となります。水回りの大規模修繕や、二世帯住宅に改築する際などは、かなり大きな資金が必要となりますが、多くのセカンドハウスローンではこれらも対象となります。

ただし、投資目的の住宅購入はその対象とはなりません。、その点は厳しく審査されるものの、通常の住宅ローンよりも使途の自由度が高いのが大きな魅力といえます。

返済能力が担保となる

セカンドハウスローンの審査基準は各社で違うので一概には言えませんが、通常の住宅ローンよりも収入基準が高くなっていることがほとんどです。これは裏返せば、手元に現金があまりなくても収入が高ければ利用できる可能性が高いということです。さらに金融機関によっては、自宅などすでに所有している不動産を担保にできるローンもあります。

セカンドハウスローンはまだまだ歴史が浅く商品数が少ないので、選択肢は多いとは言えませんが、さまざまなニーズに対応した商品が揃いつつあります。

セカンドハウスローンのデメリット

通常の住宅ローンの審査基準では「回収リスクが高い」と判断される案件を融資する商品である以上、借り手にとっては不利な条件もセカンドハウスローンにはいくつかあります。

ローン金利が高い

相対的なリスクの高さは、金利に上乗せされています。ここ数年の各国中央銀行による超低金利政策の影響で、住宅ローンも低金利が続いています。新規借り入れの場合の適用金利(日本銀行が定める基準金利から金融機関ごとに設定する優遇率を引いた実質的な金利)は0.3~1.5%前後の水準での推移が続いています。

それに対してセカンドハウスローンは、固定金利と変動金利、固定金利の場合は適用期間(3年、5年、7年、10年など期間を選択して同じ金利で返済し、期間終了時に固定金利か変動金利かを再選択する方式)によっても変わってきますが、おおむね2.5~4%前後の設定となっています(2020年3月現在)。

審査が厳しい

これは「返済能力が担保になる」以上は避けられないことですが、通常の住宅ローンよりも収入基準が厳しくなっています。一般のローンが年収250万円あたりから融資可能なのに対し、セカンドハウスローンでは500万円が基準になっているといわれています。

住宅ローンの主な審査基準は「返済負担率」「信用度」「債務の返済状況」「健康状態」「担保評価」などです。

「返済負担率」とは年収に対する返済金の比率ですが、一般に30~35%を超えると審査を通らなくなります。「信用度」には雇用形態や勤務先の経営状況、転職の頻度なども含まれます。「債務の返済状況」はローンやキャッシングの返済だけでなく、クレジットカードの引き落とし日に預金不足となって支払遅滞となるケースの頻度なども審査されます。

契約者の「健康状態」が良好でなければ返済できない状況が起こり得ますので、多くの場合は団体信用生命保険に加入していないとローンを組むことができません。団体信用生命保険に加入できるかどうかで、金融機関は契約者の健康状態を判断しています。

「担保評価」は購入する物件の評価価値です。交通の便や、中古物件の場合は築年数や劣化状態も判断されます。

セカンドハウスローンの審査基準は金融機関ごとに違いがあり、公表されているわけでもないのでここに挙げたすべてが通常の住宅ローンよりも厳しくなるかどうかは定かではありません。

住宅ローン控除が受けられない

ローンを組んで住宅を新築・取得した場合、あるいは床面積50平方メートル以上の増改築やバリアフリー化、省エネ改修工事などのためにローンで借り入れした場合、一定の要件を満たせば「住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)」の対象となります。これにより一定期間、所得税額からローン残高に応じた金額が差し引かれるのです(所得税額よりも控除額が多い場合は、その差額分が住民税から控除されます)。

対象となるのは償還期間が10年以上のローンで、残債の1%(限度額は40万円)が所得税から控除されます。例えば入居が2020年で、12月31日時点で4,000万円の残債が残っていたとすると、2021年の1~3月の確定申告で申請すれば40万円の控除を受けることができます。控除期間は通常は10年ですが、2019年10月から2020年12月までの入居については消費増税への特別措置として、控除期間が13年に延長されています(11年目以降の控除率は変動する場合があります)。

図1:住宅ローン控除

これらの優遇措置を、セカンドハウスローンでは受けることができません。かなり大きな額であり、ほかのデメリットも含めて考えると、セカンドハウスローンは第一の選択肢とは言えないかもしれません。

ではほかに有力な選択肢はあるのでしょうか。その候補の1つとして挙げられるのが、すでに使いやすい住宅ローンとして普及している「フラット35」です。

フラット35でセカンドハウスを手に入れる

通常の住宅ローンはセカンドハウスローンには融資されませんが、広く普及している住宅金融支援機構の「フラット35」の提携ローンであれば、セカンドハウス(投資用物件は対象外)も自宅と同じ条件で融資を受けることができます。

フラット35の利用条件はシンプルで、年収400万円未満の方は総返済負担率(フラット35の借り入れと、それ以外のローンや分割・リボ払い、キャッシングなどすべての返済金が収入に占める比率)30%までの範囲で、400万円以上なら35%までの範囲で借り入れることができます。

また契約者だけの収入では総返済負担率が条件に満たない場合は、配偶者、親、子などの1名に限り収入を合算することができます(ただし合算の割合と合算者の年齢によっては、返済期間が短くなってしまう場合があります)。

フラット35は「フラット」という名称の通り、契約時の金利が変動しない全期間固定金利であることが大きな特徴です。フラット35と返済期間の短いフラット20、長期優良住宅の認定を受けた住宅を取得する場合に利用できるフラット50の金利は下図の通りです。

図2:フラット35、20,50の金利(2020年3月現在)

図中の「新機構団信」とは、住宅金融支援機構による団体信用生命保険(団信)のことです。団信の加入は住宅ローンを組むためにはほぼ必須ですが、フラット35ではローンと団信、もしくは新3大疾病付機構団信との契約をセットで提供しています。新機構団信により、返済期間中に契約者が死亡もしくは身体障害状態となり返済不能になった場合は、以後のフラット35の債務返済は免除されます。

多くの住宅ローンの場合、取り扱い金融機関と契約する保険会社が保証人となるため、契約者は借入額の2%程度の保証料を金融機関に支払う必要があります。しかしフラット35は保証人を必要としないため、保証料も発生しません。

金利水準は住宅ローンと比べるとやや高めですが、大半のセカンドハウスローンよりは低い設定となっています。現在の低水準からさらに金利が下がるという予測をしている人には、全期間固定金利はマイナス要素かもしれませんが、固定金利は金利高騰へのリスクヘッジになっているともいえます。セカンドハウスの購入に、フラット35は非常に利用しやすいローン商品といえるでしょう。

また、住宅金融支援機構は地方公共団体と提携して、子育て世代のマイホーム取得を支援する「子育て支援型フラット35」や、移住を支援する「地域活性化型(地方移住支援)フラット35」も販売しているので、リタイアを期に地方移住やUターンを考えている人には活用しやすくなっています。

さらにリノベーション済み中古住宅や、購入した中古住宅をリフォームする場合に対象となる「リフォーム一体型フラット35」「フラット35リノベ」も、セカンドハウス購入を後押ししてくれる商品ではないでしょうか。

代表的なフラット35商品を比較

現在、ほぼすべての銀行と、多くの信用金庫が住宅金融支援機構との提携でフラット35商品を扱っています。さらに保険会社やモーゲージバンク(住宅ローン専門金融機関)でも扱っており、金利や条件の設定もさまざまです。

2020年3月現在、各社がもっとも低い金利で販売しているのは、省エネルギー性、耐震性などの性能が住宅金融支援機構の定める規格を満たした住宅取得に対して、 借入金利を一定期間引き下げる「フラット35S」の関連商品ですが、フラット35Sは2020年3月31日で受付を終了する予定です。

ここではとくに人気の高い3社の、フラット35S商品以外でもっとも金利の低い商品をご紹介しますが、金利は毎月見直され、加入月の金利が適用されることにご注意ください。

ARUHI~日本初のモーゲージバンクは低金利が魅力

2001年に日本初のモーゲージバンクとして発足したARUHIは、2004年からフラット35商品の取り扱いを開始し、2007年にはフラット35では初の付帯可能商品となる「8疾病保障特約付フラット35」を発売しました。フラット35提携ローンでは業界最大手の1つです。

ARUHIの売りは業界最低水準の金利です。とくに自己資金比率を高く設定することで金利が下げられる「ARUHIスーパーフラット」は金利が低く、自己資金比率4割以上が条件となる「スーパーフラット6」の金利は、2020年3月時点で1.040%です。

ARUHIは先にご紹介した「子育て支援型フラット35」「地域活性化型フラット35」「フラット35リノベ」関連商品も販売しており、メニューの多さも魅力です。

住信SBIネット銀行~低金利とシンプルな商品展開でわかりやすい

住信SBIネット銀行も業界最低水準の金利が売りで、商品展開は「保証型」と「買取型」の2つととてもシンプルです。

通常のフラット35は「買取型」で、住宅金融支援機構が金融機関から契約者の住宅ローンを買い取り、買い取ったローンを担保に債券を発行し、長期の資金調達を行う仕組みになっています。つまり、債権者は住宅金融支援機構です。機構により自己資金比率は9割以下と定められ、金利も機構の基準金利が適用されます。

それに対して「保証型」は、金融機関がローンの債権者となり、住宅金融支援機構は契約者の支払いを保証するという枠組みになっています。金融機関は保険料を機構に支払い、万が一契約者が返済不能となった場合は機構が残債を金融機関に支払うという仕組みです。自己資金比率は金融機関が決められますし、金利も一定の範囲で金融機関が決めることができます。

保証型は金融機関が自己資金比率を高く設定し、その代わりに金利を低くすることが多くなっているので、手持ちの資金がある人にはメリットがあります。住信SBIネット銀行の保証型も自己資金10%以上で年1.16%、20%以上で1.08%と自己資金比率によって金利が変わってきます。

保証型を取り扱っている金融機関は、ARUHIと住信SBIネット銀行以外では、2020年3月時点で日本住宅ローン、財形住宅金融、広島銀行、クレディセゾン、愛媛銀行の5機関だけです。

住信SBIネット銀行は、さらに自己資金が乏しい場合に物件価格1割を貸し出し、自己資金比率を10%以上にして買取型のフラット35を組む「ミスターパッケージローン」も販売しています。

ただしパッケージローンの金利は変動型のみ、フラット35保証型ではパッケージローンは使えません。

住信SBIネット銀行のフラット35商品は、種類を絞って金利を下げることと、自己資金の少ない人でも使いやすくなっていることに大きな特徴があります。

優良住宅ローン

優良住宅ローンが販売するフラット35商品は買取型だけで、金利もARUHIや住信SBIネット銀行よりもやや高くなっていますが、融資手数料の安さに大きな特徴があります。

ARUHIスーパーフラット35の事務手数料は借入額の2.0%、住信SBIネット銀行のフラット35保証型では2.2%ですので、優良住宅ローンの0.8%は際立っています。購入初期費用を抑えたい場合には魅力的なサービスといえるでしょう。

代表的なセカンドハウスローン

ここまではフラット35提携商品を紹介してきましたが、セカンドハウス専用ローンにはどんな特徴があるのでしょうか。イオン銀行とSMBC信託銀行の商品を例に見ていきましょう。

イオン銀行 セカンドハウスローン

イオン銀行が販売するセカンドハウスローンの魅力は、「ローン取扱手数料定率型」での金利の低さです。「イオンカードセレクト」とイオン銀行インターネットバンキングへの加入が条件になりますが、ローン完済まで借入利率は0.7~1.2%程度(2020年5月現在)となっています。取扱手数料は「定額型」の場合は一律11万円(税込)なのに対し、定率型では借入金額の2.2%(最低額は22万円)と高く設定されていますが、定額型よりも金利が0.2%前後低いため、初期費用の差額は1~2年以内で回収できるようになっています。

また、フラット35の借入限度額は8,000万円ですが、イオン銀行のセカンドハウスローンは1億円となっており、金利の面でも限度額の面でも使いやすいのが特徴です。

SMBC信託銀行 セカンドハウスローン

SMBC信託銀行のセカンドハウスローンの金利は、イオン銀行よりもかなり高めです。

ではどこに強みがあるのかというと、最大2億円という借入限度額です。保証料や保証事務手数料も無料です(借入時事務手数料は税抜2万円)。

フラット35商品と比べてみると、資金力のある富裕層に向けた設計になっていることがわかります。自己資金比率や年数の設定次第で総支払額は変動しますが、高価格帯の物件を購入する際には、自己資金が大きいほど支払額を抑えられる可能性があります。

リタイアよりも早めにセカンドハウス購入を計画して夢を叶えよう

いくつかの商品を比較してみると、全体に富裕層向けに設定されているセカンドハウスローンに対して、もう少し手頃なセカンドハウス購入時に利用しやすいのがフラット35ということがわかります。

セカンドハウス購入は夢のまた夢などではなく、二地域居住というライフスタイルも増えつつある昨今、現実的な人生設計に組み込むことができるアイデアとなってきています。リタイアが近づいてから考え始めるのではなく、早い段階からセカンドハウス購入を計画すれば、資金面の選択肢も広がるはずです。

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