株式や不動産といった従来の投資商品ではなく、船舶への投資機会を個人投資家に向けて創出している企業がある。日本初の船舶特化型クラウドファンディングを行う日本マリタイムバンク株式会社だ。同社のクラファンは、世界的な需要が高まる大型タンカーや冷蔵船へ、個人による融資型の投資を可能としている。分散投資の切り札「オルタナティブ投資」として、また夢の大型船舶へ投資を可能とする船舶特化型クラウドファンディングの魅力について、日本マリタイムバンク株式会社 代表取締役の昼田将司氏と、同社 CFOの片座雅志氏に聞いた。
「日本初」船舶特化型クラウドファンディングとは
スーパーに並ぶフルーツや、食パンの原料となる小麦、電気を作る天然ガス、プラスチックの原料となる石油化学製品……。日本はこれらすべてを海外からの輸入に頼っているのだが、こうした輸入物資の実に99.6%が船舶によって輸送されているのをご存知だろうか。
社会生活を送る上で重要なインフラとなっている船舶。この「船舶」自体を投資対象と捉え、一般の投資家に投資機会を創出している企業が日本マリタイムバンク株式会社だ。「日本マリタイムバンクでは、クラウドファンディングにより調達した資金をもとに船舶を担保としたアセットファイナンスを行っています。こうした船舶専門の金融機関は日本初だと思いますね」と同社 代表取締役の昼田氏は言う。
アセットファイナンスとは企業の持つ資産を担保にした融資のこと。日本マリタイムバンクの場合、融資先の外国船会社が所有する船舶から生じるキャッシュフローと、船舶自体を担保とした融資形式を指す。
「船舶は株式投資などと異なり、抵当権を設定して担保を取れます。そのため、万が一にも融資先の船会社が返済できない場合は、日本マリタイムバンクが船舶を差押え、競売にかけて資金回収を図ります」と話すのは同社 CFOの片座氏だ。
一方で、船舶投資において考えられるリスクにはまず、為替リスクが挙げられる。グローバルな海運の基軸通貨は米ドルのため、日本マリタイムバンクから船会社へのファイナンスはドル建てになるが、出資金は円建てのため為替リスクが存在する。
また、船舶は沈没を含む事故を起こす場合がある。ただし、沈没の際に船会社に支払われる保険金は、日本マリタイムバンクへの返済に十分な金額が設定されており、保険金はまずマリタイムバンクへの支払いに充当されるスキームを設定しているという。
日本マリタイムバンクではクラウドファンドという形式を取り、個人投資家にも船舶投資への機会を創出している点が特徴だ。従来、船舶投資ではプロの大口投資家(船主)が資金の90%以上の融資を銀行から受ける場合が多く、一般の投資家には開かれていなかった。
中古船舶のブローカーからスクラップまで……今に活きる多彩なキャリア
なぜ、日本マリタイムバンクは船舶投資への機会創出に注力しているのか。その理由は昼田氏が培ってきた海運市場でのキャリアにある。
昼田氏と船舶事業との関わりは、シンガポールで中古船舶のブローカーとして仲介販売を行っていた20年ほど前まで遡る。当時、2004〜2008年頃は海運バブルのため、売上は右肩上がりに成長。昼田氏は船舶事業の魅力に惹きつけられていく。
その後、海運ビジネスの第一線を学ぼうとギリシャの船舶ファンドで働いた昼田氏だが、折しも2008年にリーマンショックが勃発。海運バブルは弾け、多くの不良債権を抱えてしまったという。
「当時は債権回収のため、船舶の差し押さえに奔走しました。返済でかなり苦しい思いをしたので、二度とあんな体験はしたくないという思いが強いです。その経験は、いま日本マリタイムバンクで船舶投資案件をアレンジする際のリスク検討に活きています」(昼田氏)。
リーマンショックで市場が激しく落ち込むなか、状況を切り抜けるために昼田氏は新たなビジネスに着目する。それが船舶のスクラップ事業だった。
「当時、海運はどうしようもない不況の一方で、発展途上国では建設資材、特に鉄の需要は旺盛でした。運航が難しくなった船舶を買い取り、スクラップヤードに鉄スクラップとして売却する事業に目をつけ、その事業のファンド化に成功しました。その後、インドネシアで自身のスクラップヤードを開設し、船舶の売却だけでなく実際に船舶をスクラップする事業を行っていたこともあります」(昼田氏)。
中古船の売買から船舶ファンド、そしてスクラップまで多様な経歴を積んだ昼田氏。その後は日本に帰国し、船舶のオペレーティングリース事業に携わる。その過程で、ある疑問を抱いたという。
「日本では新造船のオペレーティングリースしか案件として存在しなかったんです。新造船の価格は20〜50億円で、それを10〜15年ほどかけて回収する仕組み。しかし、今は来年に何が起こるか分からない『ボラティリティの大きい時代』です。新造船でのオペレーティングリースはあまりにも長期的な案件で、リスクが高いと思っていました」(昼田氏)。
そこで昼田氏は中古船のオペレーティングリースに注目した。投資期間は3〜5年程度で、短期間で回収してまた投資に回せる。「中古船でも問題なく走りますし、沈没したとしても新品・中古に限らず保険は下りる。オペレーティングリースには新品の船舶でなければいけないという理由はない」と昼田氏は話す。長年船舶の事業に携わっていた昼田氏の目から見れば、より短期間で回収可能な中古船のオペレーティングリースにはメリットしかなかった。しかし、多くの日本の銀行は理解を示さなかった。
「実際に多くの金融機関を回ってみて問題点が見えてきました。日本では中古船(のオペレーティングリース)はやらない以前に、船舶のアセットファイナンスというものがまったくできなかったんです」(昼田氏)。ならば日本初の船舶アセットファイナンスを実現できる金融機関を自ら作るべき。そう考えた昼田氏は、2020年2月に日本マリタイムバンクを創設した。
現在、同社には多数の投資家から引き合いがある、と片座氏は語る。「投資家の方々にはありがたいことに熱狂的なファンが多いです。私はもともと銀行で働いていたのですが、その目線から見ると、弊社の分析はかなり専門的だと思います。日本マリタイムバンクではアセットリスクとマーケットリスクを多角的に精査します。万が一の際に迅速に船舶を差し押さえできるか、占有を取り返せるのか、悪い市況でも船舶を売却して資金を回収できるか、売却だけでなく所有して運航することは可能か、船舶として売却できないならスクラップとして売却して回収できるか。投資家の方々には、船舶を知り尽くしているからこそできる弊社の分析への安心感を感じていただいているかと思います」(片座氏)。
船舶ファイナンスに新たな多様性を生み出す
世界の生産地と製造工場、消費者が1つにつながっているグローバル社会の今、世界情勢は大きく海運マーケットの状況に関わっている。特に、新型コロナウイルスの感染拡大やロシアのウクライナ侵攻等、近年立て続けに起こっている歴史的な事件の勃発で海運事業はどのような影響を受けたのだろうか。
「まず前提として、海運物資はスーパーに並ぶ食料品やエネルギー資源など生活に必要なものが中心。どんな危機が起こったとしても需要がなくなる性質のものではなく、投機的なファイナンスではないと考えています」(片座氏)。
歴史的に見ると海運の運賃は戦争など有事の際に上昇してきた。
「実際、新型コロナの影響やロシアのウクライナ侵攻などで運賃は上がっています。過去にはスエズ運河の通行止めの際やイラク戦争、石油危機が起こったときも運賃は上昇しました。海運のリスクが高まれば運賃は上がる傾向にある、ということは言えるでしょう」(片座氏)。
しかし、今後運賃が下がり、海運業界のプレーヤーの業績が下がったとしても、船舶自体をアセットにした投資では船舶の売却による回収が可能。ボラティリティの高い市場環境を前提に置いており、こうした点が日本マリタイムバンクでの船舶投資の強みだと言える。
周りを海に囲まれた島国である日本は2000年代に中国、韓国の造船が大きく業績を伸ばすまで、長らく世界シェアで1位だった。日本にとって新造船がファイナンスの中心だった背景には、「モノづくりを支えるための金融」という考え方がある。しかし、万が一モノづくりが衰退してしまえば、日本には何も残らなくなってしまうと昼田氏は危惧している。
「モノづくり大国である日本は今でも造船技術において世界一でしょう。そしてお金も持っている国ですが、金融という産業で見るとクリエイティブな力が欠けている面も否めません。バリューのあるところにお金を流さないから金利が1%程度に留まってしまう。今後は金融という産業自体を日本の強みに持っていく必要があると思います」(昼田氏)。
昼田氏が社名にした「日本マリタイムバンク」にもその思いが込められているという。
「わたしたちはクラウドファンドではなく『バンク=銀行』です。船舶のファイナンスに新たな多様性を生み出し、船舶産業を日本に残していく1つの力になれればという思いがあります」(昼田氏)。
日本マリタイムバンクでは、Webサイトのマイページ上で船舶の3D映像が再現されているのも興味深いポイント。クリック・タップ等の操作で自分が投資した船舶を様々な角度から眺められる。写真も豊富で、外観だけでなく、内部の写真も見ることができる上、マップで運航状況を確認できる。
昼夜問わず航行し続ける船舶。GPS情報により、世界のどこで活躍しているのかリアルタイムで把握できるのは船舶好きにとっても魅力的だろう。予測できない将来に備えた分散投資として、船舶の価値に裏付けされた船舶小口投資をポートフォリオに入れてみてもよいかもしれない。