2019年3月31日までの期限付きで導入されている孫などへの教育資金贈与の非課税制度が、2019年度の税制改正で適用期間が2年延長されることになった。ただし、期間は延長されたが適用対象は厳格化されるため、変更点などについて正しい理解が求められる。

特例制度の概要

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(画像=PIXTA)

教育資金贈与の非課税制度は、2013年度の税制改正で導入された。2019年度の税制改正で期間が2021年3月31日まで延長されることになったが、当初は2013年4月1日から2019年3月31日までの期限付きの措置だった。

この制度では、祖父母などの直系尊属から30歳未満の受贈者が教育資金の一括贈与を受けた場合、1,500万円を上限に一定条件の下で贈与税が非課税となる。ただし、学校以外の塾や予備校などへの支払いについては500万円が上限だ。

ここで言う直系尊属とは、本人の祖父母や曽祖父母、父母などのことを指す。原則として受贈者の配偶者の直系尊属からの贈与は、この制度においては非課税対象に含まれない。

上限額に設定されている1,500万円は、受贈者1人当たりの非課税限度である。例えば、祖父と祖母からそれぞれ1,000万円の贈与を受けた場合、計2,000万円のうち500万円はこの制度の対象外となる。

対象となる教育資金は?

教育資金とされる費用は、学校などに支払われるものと学校など以外に支払われるものでそれぞれ規定がある。ここで言う「学校など」とは、幼稚園や小学校、中学校、高校、大学、大学院、専修学校、各種学校のほか、認定こども園や保育園などを指す。

学校などに支払われるもので非課税対象となる費用には、入学金や入園料、授業料や保育料、施設整備や検定料のほか、教材費や修学旅行費、給食費などがある。また、在学証明や成績証明などの取得に必要な手数料も対象となる。

学校など以外に対して支払われる費用で非課税対象となるものは、学習塾やそろばん教室、水泳教室などに支払う指導料や施設利用料のほか、野球やピアノなどのスポーツ・文化芸術活動に関わる指導料などがある。

通学定期券代や留学のための渡航費なども、教育資金として非課税対象となる。ただし、例えば留学では1回の就学で1回の往復分のみが対象となるなど、細かい規定があることに注意したい。

2019年度の税制改正による制度の変更点は?

2019年度の税制改正によって変更されるのは、主な適用期限が2年延長されることのほか、受贈者の前年の合計所得金額が1,000万円を超える場合には特例措置の対象外となる点や、受贈者が23歳になった後は教育資金の一部が非課税の対象外となる点だ。

2018年12月に閣議決定された「平成31年度税制改正の大綱」を参照すると、23歳になった後に非課税特例の対象外となる教育資金については、
(1) 教育に関する役務提供の対価
(2) スポーツ・文化芸術に関する活動等に係る指導の対価
(3) これらの役務提供又は指導に係る物品の購入費及び施設の利用料
と記載されている。

これは、簡単に言えば習い事などは特例の対象外となることを示している。一方で、23歳以上であっても、教育訓練給付金支給の対象となる教育訓練の受講費用は除外しないとしている。

そのほか、この制度の導入当初は「30歳」(受贈者の年齢)を金融機関との教育資金管理契約の終了年齢と定めていたが、2019年度の税制改正では受贈者が在学中であれば教育資金の非課税措置の期間を40歳まで延長できることも明記された。

これらの変更は、文部科学省が金融庁と共同で要望して認められたという。

制度活用の流れは全部で3ステップ

●第1段階——教育資金口座の開設と預入・信託

教育資金贈与の非課税制度を活用するためには、まず「教育資金口座」を開設しなければならない。教育資金口座は銀行や信託銀行などの金融機関で開設することができるが、教育資金口座の取り扱いがない金融機関もあるため、詳しくは各金融機関の窓口に問い合わせるか、Webサイトで調べる必要がある。

教育資金口座を開設した後は、教育資金の預入や信託をする前までに、口座を開設した金融機関経由で「教育資金非課税申告書」を管轄税務署の署長に提出する必要がある。口座を開設する本人が税務署に出向く必要はなく、金融機関側が提出手続きを進めてくれる。

ちなみに、金融機関がこの申告書を受理した日が税務署長に申告書を提出した日とみなされ、以後実際に預入や信託などを行うことができるようになる。

●第2段階——教育資金の払い出しや支払い

教育資金口座に教育資金の預入や信託などを行った後、その口座から教育資金の払出しや支払いをする際には、必要書類をその口座を開設した金融機関の営業所などに提出する必要がある。必要書類とは、支払いの際に受け取った領収書などのことだ。

教育資金の口座からの払い出し方法によって、必要書類の提出期限が変わる。具体的には、「教育資金を支払った後にその実際に支払った金額を口座から払い出す方法を選択した場合」は領収書記載の支払年月日から1年以内、それ以外の方法で払い出しを行った場合は翌年の3月15日までに提出することになっている。

ちなみに領収書などの金額が1万円を超えていない上、1年間の合計支払い額が24万円に達していないケースでは、明細書を提出することで領収書の提出に代えることができる。払い出しや支払い時の手続きでも、贈与者が税務署に出向いて手続きを行う必要はない。

●最終段階——教育口座の契約の終了

金融機関と結んだ教育資金口座の管理契約は、受贈者が30歳に達した場合や受贈者が死亡した場合のほか、教育口座の残高がゼロになった上で口座契約終了の合意が金融機関との間でなされたとき、終了する。ただしこれまでに説明したように、2019年度の税制改正によって、受贈者が在学中の場合には40歳まで契約終了年齢を延長することができるようになる。

金融機関との口座管理契約が終了するとき、口座に拠出資金の残高がある場合は、その残高に対する課税相当額が口座契約を終了した年の贈与税の課税額に合算される。ちなみに教育口座からの払い出しや支払いであっても、それが宝石の購入など教育以外の目的に充てられていた場合は当然非課税の対象にはならず、口座に残っている残高にその金額を加えた額に課税が行われる。

贈与税の合計課税額が基礎控除額を超えた場合には、贈与税の申告手続きをする必要がある。この場合は前述の第1段階、第2段階とは異なり、税務署で手続きをする必要がある。

金融機関との教育資金管理契約について

この制度の下、教育資金口座の取り扱いがある各金融機関では、口座開設について公式Webサイトやパンフレット、店頭などで利用者に案内を行っている。

●三井住友銀行の事例——スマホアプリで簡単に領収書提出

例えば三井住友銀行は、「普通預金(教育資金贈与非課税口)<まなぶ想い>」という名称で教育資金口座のサービスを提供している。主な強みは、全国の支店窓口で出金できることや口座開設手数料が無料であることだ。

また同行では、領収書の提出をスマートフォンのアプリから簡単に行うことができる。教育機関などから受け取った領収書などをスマートフォンのカメラで撮影し、送信ボタンを押すことで提出を完了することができるため、窓口に行く必要がない。また三井住友銀行のアプリでは、過去に提出した領収書データを確認することができるので、提出漏れが起きにくい。

なお、三井住友銀行の教育資金口座ではキャッシュカードの発行ができないことや、預入は1人当たり10万円以上であることに注意したい。

●みずほ信託銀行の事例——口座への信託金額は5,000円以上

みずほ信託銀行は「教育資金贈与信託『学びの贈りもの』」という名称で口座開設の案内を行っている。公式Webサイトでは、図表やイラストで仕組みについて詳しい内容が説明されている。

主な特徴としては、「元本保証」「手数料無料」「みずほ信託銀行、みずほ銀行への振込手数料無料」などが挙げられる。「元本保証」とは、信託金が万一元本割れしても預金保険の対象となるという意味で、「手数料無料」とは、口座管理手数料や契約時の手数料、払い出しの事務手数料が無料という意味だ。

信託金額は5,000円以上だ。三井住友銀行と比較してみると、金融機関によって金額が異なることが分かる。

●三菱UFJ信託銀行の事例——孫との写真を載せることができるオリジナル通帳も

三菱UFJ銀行は「教育資金贈与信託『まごよろこぶ』」という名称でサービスを展開している。三井住友銀行やみずほ信託銀行と同様に、管理手数料などが無料であることをアピールしており、スマートフォンアプリで領収書を提出することもできる。

このようにサービスには大きな違いはないが、「孫との写真入り通帳」を作成できることは、他の金融機関との差別化ポイントだ。教育資金の贈与は、贈与者が孫や子のためを思って行うものである。孫との写真を通帳の表紙に載せたい人は少なくないはずだ。

親族間での調整が必要なケースも

これまで教育資金の非課税制度を知らなかった人も、特例措置の期限が延びたこの機会にぜひ活用してみてはいかがだろうか。受贈者1人当たりの上限金額は1,500万円なので、場合によっては親族間で贈与額の調整を行う必要もある。あくまで期限付きの特例であるため、相談は早めにしておいたほうがいいだろう。(岡本一道、金融・経済ジャーナリスト)