本記事は、山本邦義氏の著書『付加価値経営の教科書』(合同フォレスト)の中から一部を抜粋・編集しています。

コンサルティング
(画像=VideoFlow / stock.adobe.com)

企業再生に大事なのは、ハンズオン型コンサルティング

日本では経済指標をはじめ、数字が重視されています。しかし、こうした価値観も今後は変化していくかもしれません。

毎年、海外へ視察旅行をする知人がいるので、新型コロナウイルスが感染拡大を始めた2020年に行き先を聞いてみました。

ベトナムやタイ、シンガポール、フィリピンなど私が思いつく国は訪問済みです。彼の答えは、意外にもネパールでした。理由は「人権を尊重する国だから」。パンデミックの影響もあったかもしれません。

安全で幸福であることが、満足度につながる。そんなふうに世の中が変わりつつあるからこそ、ネパールに行こうと思ったのでしょう。給料の高さより、家族が安寧で健康なほうがいい。そう考える人が増えていくのでしょうか。

従来のパイに比べれば、5掛け、7掛けくらいの経済規模になるかもしれません。しかし、この変化を前向きに捉えたい。その分、付加価値や社会貢献を重視すればいいのです。

例えば、売り上げの1パーセントだけでも子ども食堂に寄付する。証明書を発行すれば5円値上げしても、誰も文句は言わないでしょう。

東日本大震災の被災地で、電気設備工事の会社を立て直したことがありました。現地を訪れると、まず目に飛び込んできたのがゆがんだ工場です。地震の影響かもしれませんが、精密な機械も使うのでよくありません。

経営者の心も震災ですさんでいたのでしょう。「傾斜が何だ。この作業場でやれ」と従業員に命じていました。

「まずは工場の清掃をみんなでしよう」。私は提案しました。取り掛かってみると、重機や備品の置き場がバラバラです。被災後、心根の良くない社員が電線を横領していたこともわかりました。

施主別、規格別に整理していくと、全てきれいに「見える化」できました。コンクリートの床もバランスを整え、作業しやすい環境にしたのです。休憩室やトイレもぴかぴかになりました。社員が普通に働ける環境を整備する。当たり前ですが、それがクリアされていなければ再生どころではありません。

ようやく工場が始動すると、ある異変に気付きます。社長が会社にいないのです。彼は、社員に何を話せばいいかわからないと言います。私は「大丈夫。いるだけでいい。社員の精神的な支柱になっているのですから」と助言しました。

さらに役員の一部が売り上げを抜いていたり、一部の士業が悪事に加担していたりと、さまざまな事実が判明していきます。私は役員を一新し、後任に生え抜きの社員を昇格させました。

東日本大震災が起きた2011年3月11日以降、月に一度は会社に足を運びました。震災の爪痕も生々しく、遺体が残り異臭が漂っているような現場で、社員は工事に当たっていたのです。彼らの大変さを思い、私はレンタカーで行ける限りの現場を回りました。社員がどんな環境で働いているのか。メンタルケアを考える上で確認したかったのです。

「社員はどんな職場で働いているのか」「どんな思いを抱いているのか」。こうしたことがわかっていないと、企業再生のピッチは決して上がっていきません。

今まで見たことのない現場で働く彼らの姿を見て、私は腹をくくりました。その思いは伝わったようです。

他の会社がしたがらない河川関係の電線・電柱の工事を積極的に受注。土木関係の営業をかけると、仕事が入ってきました。少しずつ仕事が拡大し、収益が上がるようになって借入金返済のめども立った頃、銀行から社債を発行しないかという提案がありました。

私は了承し1億円の環境社債を発行して、そのうち2百万円を地域の学校3校に寄付しました。行政の記録に残り、マスコミも取材に来ました。表彰されたのです。

寄付をした学校には、一部の社員の子どもが通っていました。これは良かったと今でも思っています。

「お父さんの働いている会社は大きくないけど、こんなすごいことをしてるんだ」。子どもたちはそう思ってくれたようです。社員も喜んでいました。

当時の企業活動は、今ほど社会的公正や環境などへの配慮・取り組みを重視する姿勢が浸透していませんでした。それでも私は「社会貢献は大事だ」と推し進めたのです。

宮城県出身のガラス工芸作家は、モロッコの王室に献上する作品を作ったことで知られる大家です。彼を講師に、被災した七ヶ浜町しちがはままちの砂でトンボ玉を作るワークショップを3年間行いました。彼は「おとこ気だ」と言いながら、報酬なしで参加してくれました。人手が足りないので、私も妻子を連れて現場へ行きました。参加する子どもたちにとってかけがえのない時間になり、保護者にも大好評でした。

企業再生では、社員を味方につけることが肝要です。社会貢献活動を通じて、彼らは私の本気に気付いてくれました。

企業再生とは、文字通り会社をよみがえらせることです。社員が自力でできるようにお膳立てできれば、案件はほぼうまくいきます。どこか他人事のように取り組んでいる限り、進捗はおぼつきません。

再生させるべき会社の技術や強みといったところで、本当のところは私にはわかりません。勉強しても限界があるのです。私に役割があるとすれば、彼らをやる気にさせること。その環境づくりをすることぐらいでしょう。聞き取りを続けながら、障害があれば取り除く。彼らが思う存分動けるように舞台を整えるのが、再生のプロである役回りなのです。

=付加価値経営の教科書
山本邦義
中小企業金融円滑化センター株式会社 代表取締役

1954年、愛知県生まれ。1978年、神戸商科大学(現兵庫県立大学)を卒業後、東海銀行(現三菱UFJ銀行)に入行、東京営業部で基幹産業の企業本体およびグループ各社担当課長として、事業再構築を計画・遂行。2004年、退職。
2010年、中小企業金融円滑化センター株式会社設立。代表取締役として現在に至る。企業内外の環境や事情をきめ細かくくみ取り、企業のライフステージ(発展段階)や事業の持続可能性、程度を適切かつ慎重に見極め、最適なソリューションの提案とモニタリングを実行。
アジア中小企業協力機構会員、事業再生研究機構会員、事業再生実務家協会会員。

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