本記事は、山本邦義氏の著書『付加価値経営の教科書』(合同フォレスト)から一部を抜粋・編集しています。

革新
(画像=Tierney / stock.adobe.com)

日本の百年企業は、伝統と革新を繰り返してきた

TOMA税理士法人の創業者である藤間秋男氏の『どんな危機にも打ち勝つ100年企業の法則』(PHP研究所)によると、世界で一番百年企業が多いのは日本です。

その数、25,000社。イギリスやドイツなどの歴史ある国でも、百年続く企業はほとんどありません。

伝説の名君、黄帝の時代から数えると、4000年の歴史を誇る中国でも5,000社もないそうです。隣の韓国に至っては6社。比較すると、日本の25,000社は断トツです。

なぜ日本には、百年企業がこれほどたくさんあるのでしょうか? 前述の書では「全ての百年企業は『伝統と革新』を繰り返してきた」と結論付けています。

のれんにしがみついているだけでは、会社はつぶれてしまいます。そこで百年企業は時代の変化に合わせて、少しずつサービスを変えてきたのです。老舗企業ほど、のれんの上にあぐらをかいてはいません。通常の企業の数倍、危機感を抱いているのです。

この百年企業の姿勢を、私は「不易流行経営」と呼び習わしています。革命意識を持ちつつも、本質を守り続ける経営を指す造語です。日本人なら誰でも持っている美徳の「信頼」も、同じカテゴリーに入るでしょう。日本人としての精神性は変えてはいけません。しかし、商品の品質、機能性、デザインなどは日々革新していかなければならないのです。

『付加価値経営の教科書』より引用
(画像=『付加価値経営の教科書』より引用)

今、毎年のように新しい通信手段やコミュニケーションツールが生まれています。昔はパソコン回線でつながるニフティの会員が日本中に何百万人もいました。その後、スマートフォンが普及し、電子メール、フェイスブック、ライン、インスタグラム、ユーチューブ、ズーム、リンクドインなど、新しいコミュニケーションツールが生まれています。

それらの多くは隆盛を極めたと思ったら、廃れていきます。昔は1つのビジネスモデルの寿命は30年といわれていました。企業の栄枯盛衰も30年単位で移り変わっていくという「企業30年説」が大勢を占めていたのです。

ところが、今では自動ドアのようにくるくると1年おきに新しい企業、滅びる企業が入れ替わっています。昭和生まれの経営者は時代の変化に頭の回転がついていかず、ビジネスモデルの変化を会社の危機と捉えがちですが、それは大きな間違いです。

新しいコミュニケーションツールが生まれたとき、それは全ての人にとってビジネスチャンスでもあるのです。

愛媛のみかんだいが人気を集めています。特産品であるかんきつ類の皮やオイルを混ぜたえさを食べて育ったタイ。ほのかにかんきつ類の香りがして、魚の生臭さが苦手な人にも好評です。

仙台では、イチゴ農家の男性が編み出したノウハウをIT企業が工業化。湿度や感度、日光などを管理栽培したイチゴのパックの単価は3,000円で、伊勢丹の人気商品です。

長野のリンゴ園には、ヨーロッパ向けの品種しか作らないところがあります。フランス料理やイタリア料理のレシピに合うよう改良され、一般に流通するリンゴと比べるとやや小ぶりなのが特徴です。

土浦(茨城県)にも、輸出に特化するしょうゆ店があります。これらに共通するのは、横並びの発想から完全に抜け出していることでしょう。生き残りの方法は他と同じである必要はありません。自社の経営資源を見直し、唯一無二の方法を導き出していいのです。

消費者のニーズに「合わせる」「カスタマイズする」感覚が大事です。

人材という経営資源を生かしきる

人材育成にコミュニケーションはつきものです。いいえ、人材を育てる上では半永久的にコミュニケーションを取り続けなければなりません。

社員の志向は、ライフステージによって変化します。30代で結婚、出産。40代でマイホームを手にする。50代で子どもが手離れする。こうしたステージの変化によって考え方が変わるのは、自然なことです。

社員の希望を聞き取りながら、「会社としてできることとできないこと」を明確にしていきます。聞き取りの結果は、社員ごとに人事カルテに記載します。そして、「Aさんは当面の3年間はこう使おう。Bさんは……」と適した生かし方を策定するのです。人事カルテに基づいて、パズルを解いていくようなもの。簡単ではありませんが、全社員一律に人事ルールを適用するわけにはいきません。ある価値観を押し付けるより、はるかに社員の潜在能力を生かせるでしょう。

中には「親の介護で辞めざるを得ない」と思い詰める社員もいるかもしれません。しかし、リモートワークをうまく活用すれば、仕事を続けてもらえる可能性はあります。

繰り返しになりますが、社員は経営資源の1つです。資源である以上、生かし切る必要があります。この視点は、恐らく今後の経営で最も重要な要素になっていくでしょう。

=付加価値経営の教科書
山本邦義
中小企業金融円滑化センター株式会社 代表取締役

1954年、愛知県生まれ。1978年、神戸商科大学(現兵庫県立大学)を卒業後、東海銀行(現三菱UFJ銀行)に入行、東京営業部で基幹産業の企業本体およびグループ各社担当課長として、事業再構築を計画・遂行。2004年、退職。
2010年、中小企業金融円滑化センター株式会社設立。代表取締役として現在に至る。企業内外の環境や事情をきめ細かくくみ取り、企業のライフステージ(発展段階)や事業の持続可能性、程度を適切かつ慎重に見極め、最適なソリューションの提案とモニタリングを実行。
アジア中小企業協力機構会員、事業再生研究機構会員、事業再生実務家協会会員。

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