本記事は、山本邦義氏の著書『付加価値経営の教科書』(合同フォレスト)から一部を抜粋・編集しています。

海外進出
(画像=UTS / stock.adobe.com)

中小企業が海外を目指すべき理由

新型コロナウイルス感染症の発生直後に、エージェントからこんなことを聞きました。

「武漢の周辺から来日する人たちは、日本に直で来ようとしない。広州や福州、あるいは香港やベトナム、タイを経由する。山本さん、これは良い悪いの問題じゃない。中国人ならではの発想だ」。

たとえて言えば、関東近郊に住む人が成田や羽田でなく、関西国際空港まで行って海外に飛ぶようなものです。

やや脱線しますが、ユニクロやジーユーを傘下に持つファーストリテイリングのバングラデシュにある縫製工場を視察したときも同じような経験をしました。現地には取引する工場が8つあります。

縫製技術は現在、中国人労働者が最も優れています。なぜなら1970〜80年代に日本で中国人を相手に職業教育を受け持った日本人が、中国へ進出して教えているからです。

中国人技術者のすごいところは、国境をいとも簡単に超えてしまうところ。納得できる条件であれば、彼らは海外で働くことをいといません。

これを踏まえ、私は国内のクライアント企業の人たちに口を酸っぱくして説いています。「海外赴任と思うな。都道府県をまたぐようなものと思え」。

フィリピンには約5時間のフライトで到着します。時差は1時間しかありません。

ゼネコンと取引のある某設計会社は、朝9時始業。フィリピン営業所の出社は時差を考慮し、1時間早めています。東京の本社に合わせた勤務時間で、テレビ会議などで意思決定を図ります。何か問題があれば、現地へ行くこともあります。

『付加価値経営の教科書』より引用
(画像=『付加価値経営の教科書』より引用)

東京からマニラまで、飛行時間は5時間程度と、国内の地方都市に移動するのと同じ肌感覚。経営者は地球儀や世界地図を傍らに置いて、決断していく時代でしょう。

仕事を任せられる人材は正社員に限らない

博多の料亭の大将から、こんな話を聞きました。

新宿店で店長を務めていた外国人留学生が、ある日帰国することになりました。年齢は30歳。貴重な戦力でしたが、仕方ありません。

でも諦めきれない大将は、思わず口にしてしまいます。「故郷で店をやってみるか?」

彼は満更でもない様子。
「私の国でお店を出してもらえるんですか?」
「ただし、君が店長だ。それで家族の面倒も見られるか?」
「はい。わかりました」

こうして料亭は、海外1号店をオープン。これまでにない経験ですから、大きな決断でした。お店はうまくいきました。

そのうち、大将はおかみが必要だと考えます。そこで、アルバイトも含めたスタッフに聞きました。「海外店舗におかみが必要なんだ。行きたい人はいるか?」

パートとして働くスタッフが、手を挙げます。40歳の彼女に、「本当にやってくれるか?」と大将が尋ねると、彼女は前から海外で働いてみたかったと言います。

2人のコンビは今も健在。お店は好調に回転し続けています。

私はここにコロナ以降のビジネスに関する示唆が含まれているような気がします。「正社員じゃなければ大きな仕事は任せられない」という時代は終わったのではないでしょうか。

昨今、テレワークが急速に普及しました。雇用の機会は、以前とは比べものにならないくらい広がっています。地方に住む人や子育て中の人、障害を持つ人も例外ではありません。

私は三井住友海上の取り組みに注目しています。同社は2016年からテレワークを導入。正規・非正規の別なく全員にシンクライアントパソコン(機能を最低限にした端末で、データの保存や処理はサーバーで行う)を貸与し、スケジュール管理はパソコンを通じて行います。

テレワーク導入は、「働き方改革」に伴うものでした。結婚や出産を機に退社してしまう社員をどうにか慰留できないかと始めた施策だったのです。

コロナ禍は大きな危機です。しかし、経営努力によっては何とでもなる側面もあります。確かに経営者にとっては大変な時代でしょう。局面や事態によってきめ細かな対応が求められます。一律に金太郎あめのような舵取りをしていては、たちまち沈没です。

本来、経営は簡単ではありません。戸板一枚下は常に地獄。この覚悟がなくては、社長は務まらないのです。

ワールドワーカーパスポートの衝撃

企業経営における教育の重要性は、どこまで強調してもし過ぎることはないでしょう。

私はミャンマーやバングラデシュ、タイ、シンガポール、フィリピンといった国を見てきました。これらの国では、人材教育を所管する大臣が1時間半以上かけてロードマップを語るのです。

「国力とは人材である」との考えが定着している証左でしょう。演説の最中、大臣は手元の紙に目を落とすことはありません。原稿すら用意していないのです。

日本もかつてはそうだったのかもしれません。田中角栄をはじめ、高度経済成長期の政治家への評価がさまざまあるのは事実です。しかし、彼らには人材の重要性への認識があったのは間違いないでしょう。

私が訪れた途上国では、「ワールドスキルマップ」が用意されています。Aさん、Bさん、Cさんといった労働者ごとに200項目以上の習熟度を記入し、最終的に賃金の額を査定、書き込める書式です。マップは英語で構成されていることから、彼らには英語力も当然求められます。

このマップに併せて「ワールドワーカーパスポート」の制度も整備されています。国際的に通用する人材に発給されるもので、所持していればどの国に行っても所定の技術を生かして英語で働ける。国が保証する仕組みです。

=付加価値経営の教科書
山本邦義
中小企業金融円滑化センター株式会社 代表取締役

1954年、愛知県生まれ。1978年、神戸商科大学(現兵庫県立大学)を卒業後、東海銀行(現三菱UFJ銀行)に入行、東京営業部で基幹産業の企業本体およびグループ各社担当課長として、事業再構築を計画・遂行。2004年、退職。
2010年、中小企業金融円滑化センター株式会社設立。代表取締役として現在に至る。企業内外の環境や事情をきめ細かくくみ取り、企業のライフステージ(発展段階)や事業の持続可能性、程度を適切かつ慎重に見極め、最適なソリューションの提案とモニタリングを実行。
アジア中小企業協力機構会員、事業再生研究機構会員、事業再生実務家協会会員。

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