本記事は、山本邦義氏の著書『付加価値経営の教科書』(合同フォレスト)から一部を抜粋・編集しています。
少子高齢化で日本の産業構造は変化する(医療・介護・観光)
少子高齢化社会が進む中、日本の産業構造も変化は避けられません。医療や介護の重要性は、言うまでもありません。
2025年には団塊の世代が全て後期高齢者になります。東京を中心とする首都圏では、十万床のベッドが不足するとの試算がありました。
東南アジアの人々に向けて、国内の看護師や介護士の資格取得のハードルを下げてはどうか。私は長くそう考えてきました。ただ、時期を逸してしまったかもしれません。
30年間、賃金を上げなかった日本は、外国人技能実習制度で彼らを使ってきました。しかし、今後は日本経済の低迷と諸外国の台頭で、外国人労働者自体が来なくなるかもしれないからです。
観光も含め、産業構造を転換する上で一つの課題があります。日本人、特に高齢者がアジアの人に対して抱いている独特の感情です。上から目線とでも言えばいいのでしょうか。
コンビニエンスストアの外国人従業員を罵倒している高齢者をときどき見かけます。彼らの中には、有名大学や大学院で学ぶ学生も少なくありません。いずれは国へ帰り、大きな仕事を担う人材です。彼らがどんな思い出を抱えて帰国するのか。少し不安になることもあります。
令和時代の経営資源はヒト・モノ・カネ・情報プラス「のれん」
経営資源といえば、「ヒト・モノ・カネ」といわれた時代が長く続きました。高度情報化社会に入り、「情報」が加わりました。令和の時代にはこれらに加え、「のれん」がものをいう。私はそう考えています。
のれんとは、企業がM&A(買収・合併)で支払った金額のうち、買収先企業(被承継企業)の純資産を上回った差額を指します。つまり、買収された企業にとっての「ブランド価値」です。M&Aに用いられる勘定科目の1つで、かつては「営業権」と呼んでいました。
のれんには、承継された企業のブランド力や技術力、人的資源、地理的条件、顧客ネットワークなど、見えない資産価値が集約されています。企業の「超過収益力」と表現することもあります。
のれんが経営資源となる時代とは、もっといえば「日本人そのものを売る」時代でもあります。ただ、最近では日本人の特性がやや劣化しているのが残念です。
情緒不安定で、心理的安全性が保たれていない。そうした人が多く見受けられます。人間関係で悩んでいる人がこれほど多い時代も、かつてなかったのではないでしょうか。
1億総中流時代といわれたのは、はるか昔。今や日本の貧困化は深刻です。経済格差が社会問題である先進国は少なくありません。ただ、子ども食堂が全国にあるような国は恐らく他にないでしょう。
正規・非正規で従業員の待遇を厳格に区別する国も日本くらいではないでしょうか。私が仕事で訪れたフィリピンやミャンマーでは、聞いたことがありません。
人間こそが経営資源。そう考えれば、人に対して優しい世の中にならなくてはいけません。これからの経営者には、人権感覚が何よりも求められます。
私が預かる企業に関しては、外国人従業員を必ず生かすようにしています。国籍がどこであろうと関係ありません。褒めて生かして、収益向上につながるようにしていく。低賃金で単純労働に従事させるようなまねは、決してしません。
考えてもみてください。外国人労働者が日本に来るだけでも大変なことです。自分が外国で働くことを想像してみれば、すぐにわかります。
私も海外に出れば、ホームシックになることがしばしばありました。「日本食が恋しい」と切実に思ったことも、1度や2度ではありません。日本にいる外国人労働者も同じような悩みや苦しみを抱えながら頑張っているのでしょう。
彼らを生かせる企業であれば、日本人従業員はもちろん活躍できる余地はあるはずです。人を生かす企業だけが成長し、生き残っていくことになるでしょう。
1954年、愛知県生まれ。1978年、神戸商科大学(現兵庫県立大学)を卒業後、東海銀行(現三菱UFJ銀行)に入行、東京営業部で基幹産業の企業本体およびグループ各社担当課長として、事業再構築を計画・遂行。2004年、退職。
2010年、中小企業金融円滑化センター株式会社設立。代表取締役として現在に至る。企業内外の環境や事情をきめ細かくくみ取り、企業のライフステージ(発展段階)や事業の持続可能性、程度を適切かつ慎重に見極め、最適なソリューションの提案とモニタリングを実行。
アジア中小企業協力機構会員、事業再生研究機構会員、事業再生実務家協会会員。※画像をクリックするとAmazonに飛びます。