本記事は、山本邦義氏の著書『付加価値経営の教科書』(合同フォレスト)から一部を抜粋・編集しています。

オフィス
(画像=Who is Danny / stock.adobe.com)

あなたの会社の企業風土は正ですか、負ですか?

就職面接を受ける学生の決まり文句です。「御社の開かれた企業風土に可能性を感じて、就職を希望します」。

透明資産の大事な要素である企業風土とは、何でしょう。私は「社会に認知された企業独特の思考・行動パターン」と定義付けています。

例えばトヨタなら「カイゼン」、リクルートなら「独立志向」、ソニーなら「業界の先鞭」といった具合です。堀場製作所(京都府)の「やってみなはれ」は一時期、日本中の企業の手本となりました。

企業風土と企業が発信するメッセージが、「この会社で働きたい」気持ちを起こさせ、人を集めるのです。

ただし、企業風土に正の面、負の面があることは見落としてはなりません。正の面は、顧客志向、社会貢献、人は財産、グローバル視点、異文化の受容など。負の面は、指示待ち体質、派閥主義、批判体質、硬直した組織など。

私は事業再生のプロフェッショナルという立場から、負の面を正に変えていくことを生業にしています。

負を正に変えることは、とても簡単です。次のことを行ってください。

1. 経営者から末端社員までの意識改革

自社の企業価値を再認識し、社員1人1人が会社と仕事に誇りを持つ。これが意識改革の土壌づくりにつながります。

2. 行動パターンを変える

意識を変えると、行動パターンが変わります。

3. 会社が変わると、お客さんが応援するようになる

本気で変革を起こしている会社は、その熱意がお客さんに伝わります。そして、お客さんも会社を応援してくれるようになるのです。

旅館の跡取りは「うちはつぶれない」と思っている

私が事業再生に入った旅館の話です。

1代目が旅館を作り、2代目が大きくしました。跡を継いだ3代目はお飾りに過ぎず、現場に一度も顔を出さないどころか、毎日旅館に入る現金を自分の飲み食いに費やしていました。

私がコンサルティングに入ったとき、旅館はまさに虫の息でした。駅から旅館への送迎ミスが多く、クレームの嵐。料理は作り置きで、連泊する客に同じメニューを出していました。館内の掃除も行き届かず、廊下のゴミは何日も放置されるような状態です。

私は初日の第一声で、「社長、あなたはこんな旅館にお金を出して泊まりますか?」と聞きました。無言で私を見つめる若い3代目に私は旅館ではなく、つぶれるラーメン屋の特徴を話しました。

あらゆる客商売が、リピーターによって売り上げを立てています。つまり、リピーターから見放された瞬間、サービス業としては終わりなのです。

3代目社長は、有名大学出身で頭の良い方でした。このままでは旅館がつぶれるという事態が、やっと飲み込めたようです。

翌日から3代目社長は変わりました。夜遅くまで飲み歩くことはなくなり、朝一番に旅館のカウンターに顔を出しました。さらには、率先してお客さんにあいさつするようになりました。受付や売店のスタッフと話すだけでなく、厨房や仲居さんとも会話をします。

私はこれを「平屋目線」と呼んでいますが、ビルの5階にいた人がやっと1階まで下りてきて、現場の状況を五感で感じるようになったのです。そうなれば、料理がまずいこともわかるし、廊下のゴミにも気が付きます。

社長自らお客さんの送迎を始めると、従業員の意識が大きく変わってきました。上から命令するだけ。相談さえできなかった社長が、旅館経営という仕事を通じて「仲間」になったのです。旅館は、みるみる業績が回復していきました。

私がコンサルティングでやったことは、ただ1つ。経営者のマインドを変えた、それだけです。

透明資産の1つ、「やる気」は目に見えません。しかし、人には伝わるのです。心が燃えている人の情熱が相手の心に火をつけるように、今まで適当に働いていた人たちを刺激しました。

この旅館は草津にある老舗で、業績が回復してからは集客の苦労はありませんでした。それを見届けて私は離れましたが、翌年、旅館は過去最高の収益をたたき出したそうです。

まさに意識が変われば、行動が変わる。行動が変われば、売り上げが変わるの好例です。

実はもう1つ、見えない透明資産が関わっています。それは、細やかさです。人が見ていないところでも細やかに気を配る文化は、実は老舗にこそ色濃く残っているのです。

=付加価値経営の教科書
山本邦義
中小企業金融円滑化センター株式会社 代表取締役

1954年、愛知県生まれ。1978年、神戸商科大学(現兵庫県立大学)を卒業後、東海銀行(現三菱UFJ銀行)に入行、東京営業部で基幹産業の企業本体およびグループ各社担当課長として、事業再構築を計画・遂行。2004年、退職。
2010年、中小企業金融円滑化センター株式会社設立。代表取締役として現在に至る。企業内外の環境や事情をきめ細かくくみ取り、企業のライフステージ(発展段階)や事業の持続可能性、程度を適切かつ慎重に見極め、最適なソリューションの提案とモニタリングを実行。
アジア中小企業協力機構会員、事業再生研究機構会員、事業再生実務家協会会員。

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