営業や出張の多い会社にとって、クルマは必須アイテムだ。経営者ならば、プライベート同様たとえ会社用であってもクルマ選びには悩むものだ。節税を視野に入れるのならばなおさら決めるのに時間がかかるに違いない。

「社用車にするならポルシェがいいなぁ。でも、巷では『ベンツOK・ポルシェNG』『2ドアアウト4ドアセーフ』とも聞くしなぁ。そういうテーマの税金本も目につくからよくわからない」。さて、ホントのところ、税金の世界ではどうなっているのだろう。実は、「ベンツOK、ポルシェNG」「4ドアセーフ2ドアアウト」というのは都市伝説に過ぎない。

仮に、これがまかり通るとなると、実は趣味で買った社用のベンツは経費で落とせるが、クルマ好きの顧客への営業を潤滑に行うために買ったポルシェは100%事業に貢献していても経費にはならないということになってしまう。

しかし、日本には税金に関して租税法律主義という原則があり、「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする」(日本国憲法第84条)と規定されている。つまり、何に税金を課すかについての根拠は、法律によらなければならないということだ。なお、ここでいう「法律」とは、税法だけでなく判例などをも含む。

「クルマを経費で落とす」ということはどういうことか

「クルマを経費で落とす」ということはどういうことかを法律的に考えてみよう。クルマを経費で落とすためには、税法上そのクルマが事業用であることが条件になる。つまり、法律上は、ベンツであってもポルシェであっても、会社の事業用として使用されているのであれば経費になる。

それを証明する事例として、国税不服審判所(裁判で争う前段階の審判機関)の非公開裁決(平成7年10月12日)がある。この事例で取り扱われたクルマはフェラーリである。税務調査が入った当初は、その会社が同族会社であること、フェラーリというクルマの趣味性の高さから、事業性が認められず経費にならないとされた。しかし、国税不服審判所では、この判断について、次の事実を根拠に「事業性あり」と覆したのである。

  • 旅費精算書を含む経費精算書の記録からフェラーリを事業に使っていることが分かる
  • 社長が個人所有している外国車が別に3台あり、それらは会社の経費にしていない(=事業用と個人用とをきちっと区別している)

つまり、フェラーリであろうとポルシェであろうと、記録や状況からみて、事業用にのみ使っていることが推認できる以上、経費で落として良いということがわかる。裏返せば、たとえ30万程度の国産の中古車であっても、プライベートで使っているならば経費として落とすことはできないのだ。

迷ったら、税金本をアテにするのではなく

事業用として使っているクルマでなければ経費にならないのは当たり前である。ただ実際には、クルマの事業用の度合いがあやふやだったり、やましい節税策を考えたりして、つい都市伝説に振り回されがちではないだろうか。

しかし、堅実な経営者ならば、ベンツやポルシェなどの高級外国車を事業の用に供する場合、単に節税策だけを考えてはいないだろう。資金繰りの上で欠かせないキャッシュは莫大な額で出ていくのだから、その投資効果までをしっかりと考えるのが真っ当な経営者なのである。

例えば、「安全性の高さ」、「会社のイメージアップへの貢献度」、「値崩れのしにくさ」といった他の要素も考慮した上で購入するに違いない。なぜならクルマは買った時点では経費にならず、減価償却という段階を踏んだ上で経費になるからである。ちなみに新車ではなく中古で買ったほうが減価償却上のメリットは大きい。

もし会社でベンツやポルシェなどを買いたいのならば、安易に税金本だけを鵜呑みにするのはやめよう。実際の税務は細かい条文や通達、判例を鑑みるものである。なぜベンツやポルシェでなくてはならないのか、専門家を相手に事業上の有用性をきちんと説明できなければならない。その上で、経営者本人と専門家の両者が「資金繰りの上での問題は特になく、投資対効果が見込める」と考えることができ、かつ、事業用として使っていくことに了解が得られたならば、会社での高級外国車の購入に踏み切ってもよいだろう。

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鈴木 まゆ子(すずき まゆこ)税理士
鈴木まゆ子事務所代表。2000年、中央大学法学部法律学科卒業。ドン・キホーテ勤務中に会計に興味を持ち会計事務所に転職する。妊娠・出産・育児をしながら税理士試験の受験勉強を続け09年に合格。12年に税理士登録。現在、外国人のビザ業務を行う行政書士の夫とともに外国人の決算・申告・コンサルティングに従事。14年から国際相続などを中心に解説記事作成業務を行っている。

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