およそ25%の人しか知らないとされている住宅瑕疵(かし)保険制度。2009年10月に新しい法律として「住宅瑕疵担保履行法」が施行されたが、まだ広く周知されているとは言い難い。

瑕疵保険って何?

(画像=PIXTA ※画像はイメージです)

住宅瑕疵保険の「瑕疵」という言葉は、本来は備わっているべき機能や性能などが備わっていなかったり、欠陥があったりしていることを指す。住宅の場合は、主に完成した住宅に本来備わっていなければならない耐震性能や耐水性などの欠陥があることを指す。つまり瑕疵保険とは、これらの瑕疵が見つかった場合に欠陥を直すために利用される。

住宅瑕疵担保履行法が2009年10月に施行される前から、新築住宅の場合、住宅品質確保法という法律によって、住宅事業者側は無料でその住宅の瑕疵を補修する義務を負っていた。しかし、その住宅事業者が倒産するなどしてその義務を負えない場合、新築住宅の買主が補修費用を自分たちで捻出しなければならないケースが発生していた。

こういったケースがたびたび起きると新築住宅の購入を検討している人に懸念を抱かせることになり、結果的に新築住宅の販売数の伸びにも影響する。そこで登場したのが住宅瑕疵担保履行法だ。

住宅事業者が住宅瑕疵保険に加入していれば、仮にその住宅事業者が倒産した場合でも、瑕疵の補修費用は保険でまかなわれることになり、購入を検討している人にとっては住宅瑕疵保険に加入している住宅に対する安全度が高まるわけだ。

住宅瑕疵保険には誰が加入する?

住宅瑕疵保険に加入するのは、建設業者や宅建業者などのいわゆる「住宅事業者」だ。買主側が入る保険ではない。そのため、加入手続きなども全て住宅事業者側で行い、買主側に必要な手続きは特にない。

住宅瑕疵保険に住宅事業者が加入していると、仮に住宅に瑕疵が見つかった場合、保険会社から瑕疵の補修費用を受け取って欠陥を直すこととなる。瑕疵が見つかったときにその住宅事業者が既に倒産していることなどが理由となって補修ができない場合でも、瑕疵の補修に必要な費用が買主側に直接支払われる形となる。

ちなみに住宅瑕疵担保履行法では、住宅事業者が保険に入らない場合でも、現金や国債などを保証金として法務局に預ける「供託」という形で、買主が補修費用の負担をしなくてもいいようにする制度がある。倒産したときはこの供託金の中から瑕疵の補修費用が支払われる枠組みとなる。

つまり住宅瑕疵担保履行法とは、この住宅瑕疵保険と供託制度の両方で買主となる消費者を保護する法律というわけだ。

住宅瑕疵保険を提供する保険会社は?

この住宅瑕疵保険は、どの保険会社でも提供できるわけではない。具体的には、国土交通大臣が指定した住宅専門の保険会社のみが、住宅瑕疵保険を住宅事業者に対して提供することができる。

2018年1月現在、国土交通大臣によって指定された保険会社は5法人で、「株式会社住宅あんしん保証」「住宅保証機構株式会社」「株式会社日本住宅保証検査機構」「株式会社ハウスジーメン」「ハウスプラス住宅保証株式会社」だ。

住宅瑕疵保険に申し込みが行われた新築物件の工事・建設に当たっては、建築士の専門検査員が立ち入り検査を行う。この専門検査員は国土交通大臣が指定した5法人にそれぞれおり、この検査に合格しなければ住宅瑕疵保険に加入することはできない。

住宅瑕疵保険の加入状況や内容の確認のしかたは?

住宅事業者は住宅品質確保法によって、10年間は新築住宅の瑕疵に対する補修を無料で行わなければならないという義務がある。一方で、住宅瑕疵保険に必ず加入しなければいけない訳ではなく、新築住宅によって住宅瑕疵保険に加入している場合と加入していない場合がある。

一般的には契約などのときに、住宅事業者側から住宅瑕疵保険に加入しているかどうかや住宅瑕疵保険の内容について買主側に説明がされ、通常は書面で内容が渡される。ここで求められるのが買主側のリテラシーだ。

住宅瑕疵保険の存在を知っている場合は、自ずと住宅瑕疵保険について住宅事業者側に聞いたりすることができるが、知らない場合は説明がないまま住宅の購入契約を結び、あとあと住宅事業者が倒産した後にトラブルに巻き込まれることがある。

販売しようとする新築住宅が住宅瑕疵保険に入っていない場合、住宅事業者側が買主にそのことを説明しないケースもある。そのため新築住宅を購入するときまでには、買主側も住宅瑕疵保険について知っておいた方が良いことは言うまでもない。

住宅瑕疵保険の認知度は25%程度

2009年10月にスタートした住宅瑕疵保険の制度。来年で導入から10年になるが、一方で住宅瑕疵保険に対する認知度は依然として低水準にとどまっている。

全国宅地建物取引業協会連合会と全国宅地建物取引業保証協会が共同で行った「住宅の居住志向及び購買等に関する意識調査」(2018年1月公表)では、住宅瑕疵保険について「知っている」と答えた人は25.8%にとどまった。「聞いたことがあるが内容は知らない」と答えた人も23.1%で、半分以上の人に対する住宅瑕疵保険の存在や内容についての周知が進んでいないことが明らかになっている。

特に若い世代の人気度は極端に低い。例えば20代では住宅瑕疵保険について「知っている」と答えた人は13.8%にとどまり、「聞いたことがあるが内容は知らない」の17.5%と合わせても3割程度にとどまる。

住宅瑕疵保険を「知っている」と答えた人の割合は30代で24.3%、40代で28.4%、50代で30.4%、60代以上で35.0%と上昇するが、新築住宅で瑕疵が見つかったあとに住宅瑕疵保険の存在を知る人も一定数おり、早い内に住宅瑕疵保険の仕組みを周知されることが課題となっている。

周知度や認知度は、地域差も若干ある。例えば関東地域では住宅瑕疵保険について「知っている」と答えた人は28.0%と3割近くに上るが、四国地域では20.6%にとどまる。男女差もあり、男性で住宅瑕疵保険を「知っている」と答えた人が34.6%に上るのに対して、女性は18.2%とかなり低い水準になっている。

住宅瑕疵保険で直してもらえる欠陥は?

住宅瑕疵保険で主にまかなわれる補修費用は、耐震性や防水性などについての部分だ。簡単に言えば、欠陥によって住宅そのものの強度が弱くなってしまう部分と、防水をしないことで雨水などが浸み込んだり雨漏りが起きたりする部分などが対象となる。家が傾いてしまったりしたときも住宅瑕疵保険の対象となる。

具体的に言えば、住宅を支える柱や小屋組み、基礎や土台、外壁や屋根板、窓などの開口部や配水管などを指す。また保険金では、瑕疵を修理するための工事・補修費用のほかにも、欠陥箇所などを調査する費用や補修工事などを行っている期間に住む仮住まいの住宅費用のほか、引っ越しに関する費用も支払われる。

支払われる保険金の上限額は2000万円とされている。保険内容によってはオプションで2000万円を超える額の保険金が支払われることもある。

また、一般的に住宅事業者が保険会社に支払う保険料は、戸建住宅の場合は6〜8万円。しかしこの保険料は買主が払うものではないものの、住宅事業者が買主に新築住宅を販売する場合には、住宅の販売価格や建設代金に含めているのが一般的となっている。そのため、この住宅瑕疵保険の保険料は、最終的には買主側が負担することになることが多い。

「供託」で起きる可能性があるトラブルとは?

住宅事業者が供託金を法務局に預ける形で倒産などの事態に備える場合、住宅事業者は新築住宅の供給戸数実績によって、預けなければならない金額が異なってくる。

例えば実績が1戸の場合は2000万円、10戸の場合は3800万円、100戸の場合は1億円、1000戸の場合は1億8000万円、1万戸の場合は4億4000万円、といった具合だ、この供託金を住宅事業者が途中で引き出したりすることはできない仕組みになっている。

住宅事業者が倒産したなどの理由で供託金を受け取ることができない場合、買主は国土交通省に対して供託金の還付請求を行い、瑕疵の工事に必要な費用を受け取ることができる。手続きには、欠陥に対する調査が行われるほか、債務名義や損害について証明する書面などが必要となっている。

注意しなければならないのが、住宅事業者側が法務局に供託金を預ける「供託時期」だ。

供託は、新築住宅の引き渡し後に行われる。具体的には、新築住宅を買主に引き渡したあと、3月31日か9月30日の基準日に法務局に供託金を預ける形となる。つまり、住宅事業者が買主に新築住宅を引き渡してから供託金が法務局に預けられるまでには一定の期間があり、この間に住宅事業者が倒産した場合には、買主側が供託金の還付を受けられない場合がある。

そのため、買主側は契約の際には供託の時期などをしっかりと確認しておくことが重要だ。

新築住宅以外を対象とした瑕疵保険も

瑕疵保険は近年多様化しつつある。例えば、一定期間を過ぎた新築住宅に対して検査を行い、瑕疵保証を行う期間を延長する保険のほか、リフォーム工事部分の検査を経て瑕疵保証を提供する保険もある。マンションなどの大規模修繕工事を対象とした瑕疵保険も登場している。

中古住宅の売買とした瑕疵保険もある。この場合は売主が宅建業者の場合と宅建業者以外の個人間売買の場合の2ケースがあり、それぞれ手続きの流れや保険内容が異なる。

記事で説明してきたように、瑕疵保険についてはあらかじめ知識を持っておくことが非常に重要だ。「瑕疵」という言葉自体を知らない人も一定数いると思われるが、ぜひ積極的に知識を得ておきたい。(岡本一道、金融・経済ジャーナリスト)

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