その昔、貨幣(お金)が一般化する前の交換形態は「物々交換」でした。例えば、日本でも平安時代末期から鎌倉時代に貨幣が広まるまでは、物と物を交換するのが一般的でした。あるいは、生活必需品である米や布、塩などが「物品貨幣」の役割を果たしていたといいます。その後、経済の発達に伴い「便利に交換できるツール」としての貨幣が生まれ、時代が下るにつれて一般化しました。

当然ながら、今ではお金がないと生活必需品すら手に入れることはできません。しかし、インターネットの発達を背景として、交換のあり方にも変化が生まれてきています。

今回は、その変化を「物々交換への回帰」として捉え、解説していきます。もともと貨幣がなぜ生まれたかという歴史的な経緯を簡単に辿るとともに、代表されるCtoC取引に着目して考えてみます。

貨幣はなぜ生まれたの?

(写真=J.Score Style編集部)

貨幣が生まれたのは、交換の公正さとスピードを担保するためではないでしょうか。そもそも、物々交換だとその交換が妥当なのかどうか、経験によって判断するしかありません。例えば、海でとれたアジと山でとれた鹿肉が同じ価値を持つのかどうかを判断するためには、前もってアジや鹿肉にどの程度の価値があるか知っていることが大前提です。

個人の経験に頼らざるを得ない以上、交換する内容が公平なのかどうかを判断するのはなかなか難しいかもしれません。交換をするにしても、相手が差し出す品物の価値が分からないと、本当に交換してもよいのだろうかというおそれを感じることもあったのではないでしょうか。

交換のスピードの面でも、物々交換には難点があります。交換の公正さを担保しようとすれば、話し合いが必要です。自分の品物がどれほどの価値を持つのか主張し、相手の主張を聞き、納得できたら交換に応じますし、納得できなければ応じないのです。これでは時間がかかり、すぐに取引が成立しないでしょう。

こうした物々交換の課題を解決するのが貨幣だったのではないでしょうか。交換価値を客観的に表した貨幣があれば、交換の公正さを担保できます。「この貨幣3枚分だからこれくらいの価値」と人々の間で認識が共有されれば、交換のスピードも飛躍的に向上します。話し合いは必要ありませんし、相手にだまされるリスクも格段に下がります。

初期の貨幣は、米や布などの生活必需品による「物品貨幣」だったとされています。その後、銅銭の普及によって貨幣が一般化しました。江戸時代には伊勢の商人たちの間で「山田羽善(やまだはがき)」という日本で初めての紙幣が誕生したとされます。その後、1968年に日本初、全国で使える紙幣「太政官札」が発行されました。そして現在では電子マネーが生まれ、お金が目に見えないものになっているのです。

CtoCの取引と物々交換の関係

(写真=J.Score Style編集部)

貨幣や交換が先鋭化する現代において、急速に普及したのが「CtoC」とも言える交換形態です。Customer to Customer、すなわち一般消費者同士が、企業を介さずに持ち物を売り買いする市場です。ヤフオク!やメルカリがその代表例ではないでしょうか。

このCtoC取引は、見方を変えれば原始的な経済における交換が現代に蘇ったかのような性質を持っています。最初に行うのは、自分の持ち物を市場に公開することです。品物の専門的・占有的な生産者ではない自分が、見知らぬ相手から声をかけられるのを待ち、見知らぬ相手と品物のやり取りを行います。これは、原始的な交換形態と類似しているところがあると言えるのではないでしょうか。

確かに、CtoCの取引でも貨幣を使わないわけではありません。インターネットテクノロジーに依拠しているため、最先端の経済形態ではあるでしょう。例えばメルカリを積極的に活用する10代の若者は、メルカリの中で必要なものを購入し、不要になったらメルカリで売却して、その売却益で別の品物をメルカリで購入するなどです。

メルカリで「これを売ったら、次にあの品物は買えるかな?」と待っている現代の若者と、山奥の村で「この魚は何と交換できるかな?」と待っている過去に生きた人たちに違いはどれほどあるのでしょうか。

先鋭化した経済形態における物々交換

さらに未来の経済を考えてみましょう。インターネットテクノロジーとバーチャルリアリティによって、距離の壁が著しく薄くなった社会では、交換スピードがますます上がると考えられるでしょう。最近では、仮想通貨などの国を超えた新しい決済手段も生まれています。

また、商品にまつわる情報も、ECサイトのレビューや個人ブログの紹介記事などにより、無料でいくらでも手に入ります。「価値の低い品物をつかまされた!」というリスクも減るのです。そのような場合、あえて貨幣が交換を仲介するより、物と物を直接交換できた方が手間は省けるのではないでしょうか。インターネットで入手できる情報は、交換の公正さを貨幣によって担保する必要性を下げつつあります。

インターネットと情報によって、貨幣の存在価値である「公正さの担保」「交換のスピード向上」の2つとも達成できるのであれば、未来の先鋭化した経済形態において、貨幣はその価値を変えていくのかもしれません。

すなわち、未来の交換形態は、新しい概念の物々交換になるのかもしれません。少し視点を変えると私たちは、進化ではなく回帰する道を歩んでいるという考え方もできるのではないでしょうか。(提供:J.Score Style

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