伝説的な米投資会社クォンタム・ファンドを著名投資家ジョージ・ソロス氏と1973年に共同設立して、10年足らずの間に4200%のリターンを叩き出したジム・ロジャーズ氏は2018年10月19日の誕生日に76歳を迎える。資産額については公開されておらず諸説あるが、世界のお金持ちのランク付けを行う『ウェルス・レコード』によれば、9月現在の資産総額は3億4000万ドル(約387億円)とされ、大富豪である。
「商品投資の天才」「金融界のインディアナ・ジョーンズ」「冒険資本家」などと呼ばれ、家族とともにシンガポールに住み、米投資企業のロジャーズ・ホールディングス会長を務めている。第2次世界大戦中の1942年に米南部アラバマ州のデモポリスという田舎町に、5人の男兄弟の長子として生まれたロジャーズ氏は、どのようにしてお金持ちになったのだろうか。
彼の人生を見ると、すべてのことがお互いに益となって働いているようだ。田舎育ちゆえの外部の世界への好奇心と冒険心、母校の米エール大学や英オックスフォード大学で身につけた歴史や政治や哲学の教養に基づく投資観、そしてウォール街で培った動物的な投資のセンス。それらの要素を結び付けたのがたゆまぬ努力であり、ロジャーズ氏の投資を結実させ、お金を呼び寄せている。(執筆=在米ジャーナリスト 岩田太郎)
努力と教養が合わさって富を生む
ロジャーズ氏は、綿花栽培の不況に苦しむ南部で、地域再生のために化学工場を経営する父と専業主婦の母の元に生を受けた。子育てに忙殺される母を助けて、弟たちの面倒をよく見たという。
この頃から、努力家の萌芽が見られたようだ。がんばり屋のロジャーズ少年は幼少時から優等生であり、高校時代もクラスで首席の成績を収めていた。やがてその優秀さは、南部各地を回る名門エール大学のスカウトの目にとまる。人間関係の狭い故郷を抜け出し、広い世界を見たいと願っていた彼は「渡りに船」と、全世界の秀才が集うアイビーリーグ校に進むことになる。
大学では歴史を専攻し、「マネーを生む文明観や歴史観」を身に着けた。これが、経済急成長期の日本や現在の中国への投資の大きな収益性を鋭く見抜く教養として役立つことになる。同時に、ウォール街で夏休みのアルバイトをするなかで投資に興味を持つようになってゆく。
エール大学を1964年に卒業後、英名門オックスフォード大学院の修士課程に進み、哲学と政治と経済を同時に学んだ。のちの投資家としての成功は、この時期に学んだ専門的な知識とグローバル体験から得た投資観抜きには語れない。そしてベトナム戦争が激化して米国内に反戦ムードが高まっていた1968年、軍務を終えて20代後半になっていたロジャーズ氏は見習いアナリストとしてウォール街で働き始める。その後、投資銀行に勤めるなどしたが、お金を増やす仕事が面白すぎて「休みも取らず毎日働いていたい」と思ったほどだという。それほど、投資の世界は彼を魅了した。
ロジャーズ氏の投資センスの良さは、やがてソロス氏の目にとまり、2人は1973年にヘッジファンドを共同設立して、伝説を作り上げてゆくことになる。