ジム・ロジャーズ特集
(画像=ZUU online)

伝説の投資家ジム・ロジャーズは76歳の誕生日を迎えたばかりだが、地上のどのようなものより大切に感じる存在がある。60歳を過ぎてペイジ夫人との間に、人生で初めて授かった子供だ。長女のハッピーさん(15、本名ヒルトン・オーガスタ・ロジャーズ)と次女のビーちゃん(11、本名ビーランド・アンダーソン・ロジャーズ)の姉妹である。

愛娘二人の教育のためであれば、ロジャーズはどんな苦労や手間も惜しまない。現在居住するシンガポールにニューヨークから移住したのも、子供のためであった。彼にとって子供とは何か。なぜ教育に心血を注ぐのだろうか。そして、彼の投資家としての人生と「家族を持つこと」はどのようにつながっているのだろうか。(執筆=在米ジャーナリスト 岩田太郎)

子供嫌いが「デレデレのパパ」に

成人してからのロジャーズの半生は、「ワーカホリック」と呼ばれるほど仕事、特に投資に持てる時間のほとんどを捧げるライフスタイルであった。友人が子育てをしているのを見るたび、「時間とエネルギーのむだ遣いをして、気の毒だ」と憐んだ。子供が嫌いで邪魔に思っていたのである。

だが、ハッピーさんが生まれて、彼は自分の「誤り」に気付く。

「私の考えは全くの誤りでした。2人の娘たちを授かってから、幸福感は高まり、人生の喜びを感じ、涙する機会が圧倒的に増えました」。

価値観の大変化を経験したロジャーズは、一夜で娘への慈愛に満ちたパパに変身する。一番変わったのは、恐らく時間の使い方だろう。彼の投資先がマネーから次世代に移ったかのようだ。あるインタビューで、このように述べている。

「幸い私は今、子供たちと過ごす時間がたくさんある。学校にも毎日のように行ってます。今、父親を楽しんでるんです。子育ては最高の冒険ですよ」。

娘たちが幼いころの幼稚園と小学校の送迎は、ロジャーズ自ら6時に起床して、自転車に乗せて行っていた。ギネス世界記録にもなった2回の世界一周旅行という大冒険をしたロジャーズだが、子供を自転車に乗せて送迎することもまた、楽しい「パパと娘の冒険」であった。

働くこと、貯蓄することの重要さを教える

ロジャーズは世界で最も成功した投資家のひとりであり、子供時代からビジネスを実践してきた。自分で考え、自分の力で独立して人生を切り拓くことに価値を置く彼は、娘たちにも働くことの意義と、それに伴うお金のマネージメントを教えている。親から子に引き継がれる「成功の価値観」である。

ロジャーズ少年は、5歳にして地元アラバマ州デモポリスの野球場で空きビン拾いの「アルバイト」をした。6歳の時には、リトルリーグ開催中にソフトドリンクとピーナツを売る営業許可をもらった。

彼の父親は、ピーナツを炒る機械が購入できるよう、ロジャーズ少年に100ドルを貸した。その後、彼は一生懸命に働き、5年かけて父親に借金を返済したばかりか、100ドルの収益も得たのである。がんばり屋の苦労人だ。

ロジャーズは、娘たちに自分が子供時代に経験したような苦労はさせたくないと言う。だが、「仕事をしなくてはだめだよ」と伝えている。そのため、中国語をネイティブ並みに操るハッピーさんは、時給25ドルという「高給」で、4歳と7歳の西洋人の女の子たちに中国語会話を教えるアルバイトをしている。

ロジャーズは、「彼女はマクドナルドで、時給8ドル(最低賃金)のバイトを見つけてくると思ったんだけどね」と自慢気に笑う。

妹のビーちゃんも、西洋人の男の子2人を相手に中国語会話を伝授する仕事をしている。だが、男の子たちは言うことをきかないため、扱いづらく苦労しているのだという。その意味ではビーちゃんの方が、お姉さんよりロジャーズに近い「人生の苦労」をしているのかもしれない。

こうしてお金を稼がせるだけではない。投資家のロジャーズは、労働の報酬であるお金をどのように管理すべきかを教えており、ここにロジャーズ流教育の真骨頂を見ることができる。