矢野経済研究所
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外出自粛、テレワークの定着などで「おうち時間」が増加

新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外出自粛要請や「ステイホーム」などの影響により、自宅で過ごす時間が増えたことで、家庭菜園に取り組む人が増えている。もともと2000年代初頭からのガーデニングブームの後を受け、2010年頃から家庭菜園市場は拡大傾向にあったが、今回の「ステイホーム」で外出自粛が続く中、自宅の庭やベランダ、近隣の市民農園などの屋外でリフレッシュでき、さらには各種ハーブや野菜も楽しめるレジャーとしてあらたに始める人が増えてきている。
「レジャー白書2019」(公益財団法人 日本生産性本部)によると、2018年における「農園・市民農園」の参加人口は前年比102.9%の360万人となっている。参加人口を見ると男女共に60~70歳代が占める割合が大きく、約6割をシニア層が占める状況にあったが、外出自粛、テレワークの定着など“おうち時間”が増えたことで、40~50歳代の裾野が大きく拡大している状況にある。

家庭菜園が拡大するベース市場の醸成

手軽に始められる家庭菜園ではあるが、植物を育てたことのないユーザーにとっては、失敗も多いのが家庭菜園の難しさでもある。いかに成功体験をユーザーに提供できるかが、家庭菜園の拡大と定着には不可欠となるが、ここ数年で拡大が始まったマーケットではないため、初心者にも始めやすく、失敗を少なくするベース市場が形成されてきており、これが今回の「ステイホーム」の影響下で始めた新しいユーザーと結びつくことで、マーケットの裾野の拡大が大いに期待できる。
家庭菜園を始めるには、野菜等の種子や苗が必要となる訳であるが、大手種苗メーカーを中心に、病気になりにくく、プランターや狭小地でも育てやすいようあまり大きくならないような品種を選定した家庭菜園苗シリーズが人気を博している。大手のサカタのタネは、オリジナル家庭菜園苗「おうち野菜」シリーズを2015年から販売しているが、初心者でも栽培できる野菜苗として発売以来、売上好調である。同シリーズの最大の特徴は、栽培中の悩みや問題点を電話・インターネット・LINEで受け付けるコンシェルジュサービス「サカタコンシェル」を通じて、気軽に専門家に相談できるサービスまで付いていることにある。
また、自宅の庭やベランダではなく、もう少し広い場所で家庭菜園をしたい場合、市民農園や貸し農園などを利用することとなるが、市民農園の開設数は、農林水産省の調査によると2018年度末(2019年3月末)時点で、全国で4,147農園が開設されており、近隣で貸し農園を探すことは比較的容易な環境となっている。更に、ここ数年、貸し農園事業に参入している企業も増えてきている。民間企業運営の貸し農園は、地方自治体が運営する貸し農園に比べ利用料金は割高であるが、道具のレンタルから栽培指導、収穫後のイベントまで、幅広いサービスを揃えており、園芸ビギナーである30~40歳代、団塊の世代(70歳代)を中心に利用者が増えている。貸し農園事業を展開している企業・団体は、アグリメディアの「シェア畑」、小田急ランドフローラの「アグリス成城」、東邦レオの「まちなか菜園」、マイファームの他、アーバン・ファーマーズ・クラブ(UFC)などのNPO法人など多数がある。UFCでは、2014年から農業体験ができる「ウィークエンドファーマーズ」などのイベントを開催してきたが、その後、口コミでの人気から、ビル屋上にて菜園運営を展開するに至り、現在は、渋谷(渋谷川沿い)、表参道(東急プラザ屋上)、恵比寿(恵比寿ガーデンプレイス屋上、ウノサワビル屋上)の4ヶ所の農園を運営する。UFCの会員数は2019年10月現在で300名以上に達している。貸農園を運営する企業も2020年春シーズンについては、緊急事態宣言を受けて、4月中は新規受け付けをストップした企業もあったが、その後も「ステイホーム」で外出自粛が続く中、屋外でリフレッシュできるレジャーとして、問合せ・契約件数ともに大幅に増加しているという。

「生産緑地」の2022年問題

このように、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外出自粛要請や「ステイホーム」などの影響により、家庭菜園市場は注目度が大きく高まってきているが、それを更に後押しする可能性が高い事情もある。
農林水産省と国土交通省が中心となり、2022年に期間満了を迎える都市部の農地「生産緑地」を維持するための対策として様々な規制緩和がなされてきている。現在の「生産緑地」は、1992年に都市部に農地を残す目的で導入された。地主には30年にわたる税優遇を認める代わりに、営農を義務付けてきた。全国には約1万3,000ヘクタールあり、その内、東京都が約1/4にあたる約3,200ヘクタールを占めている。前述の税優遇措置が期間満了を迎える2022年以降に「生産緑地」の宅地転用が加速することが懸念される中、法改正による地主の相続税の猶予や、硬直的な土地の貸し借りの仕組みを柔軟化させ、自作中心主義から、相続の際に第三者に農地を貸しても相続税の納税猶予が継続することになり、自ら農業をしなくてもNPOや貸し農園を運営している企業に貸して、市民農園などとして活用すれば相続税猶予の対象とするなどの規制緩和が進められてきた。
今後、こうした都市部近郊の比較的利便性の高い「生産緑地」を活用した市民農園が更に拡大する可能性が見込まれており、家庭菜園市場を大きく後押ししていくだろう。

2020年8月
主席研究員 清水 豊