経団連会長もトヨタグループ総帥も、「終身雇用の継続は難しい」と発言する昨今。ビジネスパーソン個人としても、資格やキャリアを磨いて市場価値を磨かなくてはいけない時代なのかもしれません。何に役立つのか怪しげな資格も多い中で、いわゆる「士」系は独占業務が法律で認められていることも多く、独立・開業も夢ではありません。
ただし、合格までの道のりは平坦ではありません。また資格を取ったからといって安泰ではなく、あくまで独立・開業へのスタートに過ぎません。今回の記事では、士業7選の資格取得難易度・仕事・年収を解説します。
独立できる資格7選
公認会計士
司法試験と並ぶ、難関資格の1つです。証券取引所に上場している企業などは、投資家に業績や財務上状況を開示しなければいけません。その開示資料の適正性を監査し信頼性を確保するのが、公認会計士の役割です。
公認会計士の役割は監査にとどまらず、グローバル経営(海外子会社のモニタリング・現地オーディット等)、M&Aや事業譲渡(のれん減損処理・構造改革費用)などの助言・サポートにまで拡がります。
公認会計士合格者の9割以上は、監査法人に就職します。平均年収は、従業員100人以下の事務所で600万円、4大監査法人なら、各社ばらつきはありますが1,050万円から1,200万円の間といったところです。
4大監査法人の場合、シニアスタッフ(主任クラス)で700万円前後ですが、パートナークラスでは1,500万円を超えてきます。
・数年越しの勉強が必要
公認会計士試験は2006年に見直され、短答式試験及び論文式試験の2ステップへ大幅に簡素化されました。試験に合格すると、2年間の実務経験を経て晴れて公認会計士の資格を取得できます。
それでも、難関資格であることに変わりはありません。簡素化により合格率が15%を超えた時期もありましたが、「会計士濫造」の批判もあってその後は合格率も低下、現在は10%をやや上回る水準で推移しています。
短答式は財務会計論・管理会計論・監査論・企業法の4科目、論文科目は会計学・監査論・起業法・租税法の必修4科目に、経営学・経済学・統計学・民法の中から1科目を選択します。短答式試験および論文各科目合格者は、それぞれ2年間受験が免除されます。
合格までに必要とされる勉強時間は3,000時間ほどといわれています。合格者属性は20代前半が増加傾向にあり、直近では6割に達しています。在学中の取得者も4割に達しています。「公認会計士のを取るなら若いうち、できれば在学中」といえそうです。
弁理士
安倍政権がすすめる成長戦略においても、「知的財産権」は新たなイノベーションを生み出す核として重視されています。知財が注目を浴びている昨今、特許・実用新案の取得代行や訴訟時のサポートをつかさどるのが、弁理士の役割です。ものづくり・ITサービス・化学素材などあらゆる分野で弁理士のニーズは高まっています。
弁理士の求人は年収500万から1,200万円あたりが一般的で、経験によって上下します。開業すれば2,000-~3,000万円も充分到達可能です。
・試験のハードルは高い
弁理士の合格者数は平成30年で260人、ここ数年の合格率は7%前後です。国内出願特許数が減少傾向にある中、特許庁も合格者を絞る傾向にあるようです。ちなみに弁理士の登録者数は1.1万人強といったところです。
合格者のボリュームゾーンは30代で、20代は2割未満です。実務経験を積んでから受験する人が多い実情を示しています。
試験は短答式・記述式・口述式で構成されます。短答式は、特許・実用新案・意匠・工業所有権・著作権法等から出題されます。論文試験は、特許法・実用新案法・意匠法・商標法の必修科目と、選択科目(流体力学・情報工学等)からの選択1科目が出題範囲です。口述試験は特許法・実用新案法・意匠法・商標法から出題されます。
合格までの勉強時間は3,000時間とされ、公認会計士と同レベルのハードさです。
司法書士
司法書士は、不動産の登記(所有権移転・抵当権設定と解除)、法人の商業登記(設立・代表者異動・定款変更等)といった登記代行業務を中心に、成年後見・遺言手続きや債務整理といった業務をカバーします。
登録司法書士数は2.2万人で、ここ10年間で2割ほど増加しています。一方でマーケットは、不動産登記は横ばい、法人登記も株式会社は横ばいで特例有限会社のみ増加が見られる、といった状況です。新規企業数は変わらないにもかかわらず、顧客の奪い合いが激化している状況です。
需給関係が厳しいとはいえ、登記などは法律で独占業務として認められており、一定以上の年収が期待できます。
勤務司法書士業の場合、年収は400万円から800万円と、経験によって差が出ます。実務経験が乏しい場合は、不動産登記業務のヘルプなどに携わり実績を積んでからステップアップを狙った方が良いかもしれません。
開業すればさらに上を狙えますが、やはりカギとなるのは営業力です。また、将来的にスタッフを雇うことになれば、マネジメント能力も求められます。
この他にも、事務所に登録してパートナーとして働く選択肢もあります。その場合、給与体系はフルコミッションで、毎月一定額や売上の数%を事務所に収めるかたちが多いようです。
・試験は狭き門
平成31年度は1万3,683人が受験して合格者は601人、合格率は4.39%でした。合格率はここ数年、4%前後で変わっていません。合格者の平均年齢は約40歳で、働きながら取得する人の多さを物語っています。
司法書士試験は午前2時間・午後3時間にわたり、憲法・民法・刑法・会社法・民事訴訟法・民事執行法・民事保全法・司法書士法・不動産登記法・商業登記法の中から択一式で105問、不動産登記・商業登記の記述式が2問出題されます。
合格対策は、各法規について位置づけ・基本原則・構成・性質(実体法・手続法等)や成立要件等を網羅的に学習しなければならず、勉強時間は専門学校に通学する場合で3,000時間必要とされています。
税理士
・仕事と給料
日本は申告納税制度を原則としており、収入があったら自分で税金を申告・納税しなくてはいけません。その申告・納税を助言・指導し、適正な納税を促すのが税理士の役割です。
日常の仕事は帳簿への記帳や決算処理、申告書の作成といったデスクワークが中心です。顧問先企業と連絡を取り合い、月次の会計処理や年次決算に向けた書類作成などを行うほか、経営者や経理担当者に対しキャッシュフローについてアドバイスをすることもあります。
税理士の登録者は全国に7.8万人います。最近急増して飽和状態にあるといわれる公認会計士の登録者数3.6万人の倍以上です。
登録者数が多いうえに、企業が顧問先の税理士事務所を変更することはあまり多くないため、試験合格者が独立開業して、顧客を獲得するのはいばらの道です。
独立せず税理士法人・会計事務所・一般企業で働く場合の年収は500万円から1,000万円になります。ただし、高年収の募集は一定の実務経験を求める場合が多いようです。
・大手税理士法人の場合
税理士法人の中でも、「ビッグ4」といわれる法人は税理士業界以外でもよく知られた存在で、顧問先も日本を代表する企業や上場企業などが名を連ねています。
「ビッグ4」は日本を代表する税理士法人だけに、国際税務や移転価格税制など高度な業務も経験できますが、求められるスキルレベルも当然高くなります。
年収は、20代のうちは500万円前後ですが、30代でマネージャー(管理職クラス)に昇進すれば1,000万円以上、さらに40代でディレクターなら1,500万円以上になります。
コンサルティングファーム等が募集する税務コンサルタントなどでも、「BIG4に〇年以上の経験」といった条件を掲げているところが少なくありません。
・税理士試験はハードルが高い
税理士になるには、会計2科目(簿記論・財務諸表論)、税法3科目(所得・法人・相続・固定資産等の中から選択)の計5科目に合格しなければいけません。各科目の試験時間は2時間、(簿記論以外)理論と計算問題で構成されています。理論は長文、計算は設問に従い申告書を作成させる形式で、どちらもハイレベルです。各科目の合格率は10-~15%ですから、決してやさしくはありません。
税理士試験の特色は「科目合格制」と呼ばれるところにあります。「科目合格制」とは、一度科目に合格するとそれ以降は「合格」と扱われ、その科目を受験する必要はありません。1科目ずつ合格を積み上げられるので、働きながら資格取得を目指すのに向いている、とされていますが、それは全科目の合格までに数年を要することを意味します。
各科目の必要勉強時間はばらつきがありますが、難関の所得税・法人税の場合は600時間とされています。全科目の合格まで5年、10年かかることも考えられ、悲願成就まで仕事と勉強を両立できるかという忍耐も問われます。
社会保険労務士
社会保険労務士、通称「社労士」は労働、社会保険に関する専門家といわれ、労働・社会保険届出・納付や年金相談を主な業務内容としています。その他、雇用管理や就業規則作成など、企業の組織づくりに携わるのも社労士の仕事です。
開業しての年収は、努力次第で1,000万円も到達可能です。社会保険労務士協会に登録している社労士数は4.2万人、うち独立開業者は2.4万人、事務所勤務が1.5万人、企業に勤める社労士も0.3万人ほどいます。
大手企業は専任の人事スタッフを抱えているケースが多いので、社労士の顧客は専ら中小企業が中心です。
・試験自体のハードルは高くない?
問題自体は選択式・択一式ですのでそれほど難しくはありませんが、試験の範囲は労働基準法・労災保険法・雇用保険法・健康保険法・厚生年金法の他、社会保険や労務管理に関する一般問題と非常に幅広くなっています。合格に必要な勉強時間の目安は、およそ1,000時間です。
学習の要領は「広く浅く」、過去問を徹底的に解きながら全科目を制覇するのが一番の早道です。税理士と同じく、働きながら合格を目指している人が多数を占めています。会社で人事・労務の仕事をするうちに社労士に興味を持ち、仕事のスキルアップと資格取得を目的に勉強をはじめる人も少なくありません。
合格率は6%、広い試験範囲を網羅的に学習するのはそれほど簡単ではないようです。
行政書士
行政書士にだけ認められている業務とは、役所に提出する書類(建設業許可や飲食店の営業許可等)、権利・義務に関する書類(遺言や定款等)、事実証明に関する書類(車庫証明等)の作成代行です。弁護士・税理士などの士業には、こうした書類の代行作成が認められていません。
この他、調停・紛争の協議書類、外国人の帰化申請書、派遣業・介護福祉業の許可申請書も、独占業務ではありませんが行政書士が代行できます。
では、行政書士は安定した仕事なのかといえば、「安定していた」というのが正しそうです。
昔は役所に書類を出すには、まず役所に出向いて用紙と手引きをもらい、手書きで記入して出来上がったらまた役所に出向く……と手間がかかりました。その手間を代行するのが行政書士だったのです。今では公式WEBに作成方法がていねいに説明されており、用紙もWEBからダウンロードできます。さらに営業許可証申請などは、自治体によっては電子申請も可能になっています。
WEBだけでほぼ完結するため、「行政書士に頼まないで自分でやろう」という人も増えてきます。つまり、行政書士は単に書類作成を代行するだけでは生き残れない時代になってきたのです。
行政書士の年収は平均600万円前後とされていますが、中小事業者の承継や外国人受け入れサポートなど時代のニーズに即したビジネスを展開している事務所は1,500万円以上稼いでいるところも珍しくありません。要は知恵と工夫次第で、収入をアップさせることは可能です。
・試験のハードルは比較的低い?
行政書士の合格率は、毎年10%前後で推移しています。合格までに必要な時間は概ね600時間が目安とされており、公認会計士・税理士などと比較するとハードルは下がります。
試験科目は択一式・記述式で出題され、法律5科目(憲法・行政法・民法など)と一般常識が出題範囲です。
中小企業診断士
中小企業診断士は経営のプロとして、中小企業のサプライチェーン・組織・経営プロセスなどを診断し、適切な助言・指導を行うコンサルティングが役割、とされています。
ただし、説得力のある提言ができなければ、中小企業の社長さんも耳を貸しません。つまり、たんに経営体質などを診断するだけでなく、事業の再構築や組織再編など経営改善につながる具体的なアドバイスができる中小企業診断士が求められます。
中小企業に対する求人は年収400万円から1,000万円といったところで、やはり経験がものを言います。
・難関資格の一つに数えられる中小企業診断士
試験は1次試験(経済学・財務会計・企業経営・経営法務・情報システム・中小企業経営)、2次試験(組織・マーケティング・生産・財務会計のケーススタディ筆記試験と面接)で構成されます。1万4,000人の受験者に対して合格者は800人強ですから、合格率は5%強といったところです。
中小企業診断士の勉強時間はおおむね800-~1,000時間、大学の専攻科目によってはさらに短縮も可能とされています。
独立する前にやっておくべき準備
資格に関連する実務経験を積んでおく
ほとんどの求人は実務経験者を優遇します。例えば税理士なら「連結決算業務の経験」「金融機関対応経験」「監査対応経験」を優遇する求人が散見されるので、資格取得前後にかかわらず、実務経験は積んでおくべきでしょう。
仕事の知り合いとのネットワークを築く
ネットワークは顧問先開拓にももちろん役立ちますが、それだけではありません。独立後のスキームを検討する上でも、ネットワークからの情報は確実に役立つはずです。
では、どうやって強固なネットワークを築くか。そのカギを握るのは、あなた自身のヒューマンスキルです。
士業といえば専門知識を有したプロであり人づきあいが悪くても許される……というのはもう昔の話です。士業もクライアントの利益のために働くサービス業であるという認識がないと開業し、拡大・成長していくのは困難でしょう。
会社員のうちにローンなどは契約をしておく
独立すると、今まで当たり前のようにできたローン契約は厳しくなります。ローンは極力、独立前に組んでおきましょう。
資格で独立する際の注意点
資金繰りは独立前に計画を立てる
起業する人のうち、金融機関から融資を受けることができるのは2割程度とされています。独立する前に事業計画を立て、できれば銀行にも相談して融資可否についても確認しておくのが賢明です。情報豊富な金融機関と関係を作っておくことは、独立後のスキーム構築にも役立つはずです。
事前に独立することを伝えておく
独立直後はクライアントがおらず、売上や資金繰りに苦労することが予想されます。それらをクリアするためには少しでも早く仕事を得て売上を作ることが大切ですが、顧問契約を結んだとしても入金されるのは数カ月後になります。早期に売上をたてるためには、独立前から周囲やクライアントになってくれそうな企業などに声をかけておき、開業後すぐ契約を結んでもらえる状態を作っておくことが理想です。もちろん、独立間もない実績が乏しい士業事務所に仕事を依頼する人は多くないので、仕事からの人間関係や信頼がものをいうのは言うまでもありません。
業務過多による過労に注意
企業に勤めていれば、仕事は複数人で分担して行い、長時間残業は会社が規制したりオーバーすれば産業医の面談を受けたりします。独立すれば個人事業主ですから、外注しない限りすべての仕事は一人で行い、業務時間の把握、残業規制などは個人の裁量になります。いかにセルフマネジメントするかがとても大切なのです。
時代のトレンドに敏感になる
AIの到来を待つまでもなく、IT化とBOP(アウトソーシング)の波は士業を席巻しています。例をあげると、社労士の社会保険業務や税理士の記帳・決算業務はクラウドによるIT化とアウトソーシングが急速に進んでいます。このトレンドに乗れない、例えば税理士なら記帳・申告書作成を代行するだけの昔ながらの「街の事務所」は確実に淘汰されるでしょう。
逆にAIとの共存や、AIが及ばない範囲の専門性を高めて自身の特徴にできれば、足し算ではなく掛け算レベルで顧問先を増やせます。アンテナを高くして情報を集め、強みを活かしていく姿勢を保ち続けましょう。
独立できる資格は自分にあったものを
トッカン 特別国税徴収官、税務調査官・窓際太郎の事件簿……いずれもドラマの人気シリーズですがあなたはと興味がわきますか?もし違うなら、税理士はやめておいた方が良さそうです。また、興味がわいたとしても、ドラマはあくまでドラマ。現実と異なる点は多々あります。印象だけで資格取得や転職を目指すと、現実とのギャップに戸惑うかもしれません。
どんな資格を選ぶにせよ、仕事は華やかでやりがいに満ちているときだけでなく、単調で苦しく、ときに修羅場を迎える時もあります。
資格取得の目的や将来のキャリアプランを踏まえ、まずは自分と向き合うことからはじめましょう。
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