本記事は、谷崎 真吾氏の著書『家の売り方大全』(あさ出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

Businessman, real estate agent holding a calculator, presenting a price quote to a client for a house
(画像=Wasan / stock.adobe.com)

複数の不動産会社に売却を依頼するのはNG行為

一般媒介の物件は不動産会社にとってリスクが大きい

不動産売却の際に結ぶ媒介契約は3種類あり、そのうちの1つが「一般媒介契約」です。簡単に言うと、複数の不動産会社に同時に家の売却を依頼できる売却の契約方法の一つです。売主としては「多くの不動産会社に頼めば早く売れるんじゃないか」と思うかもしれませんが、この一般媒介契約には、不動産会社にとって少々厄介な一面があります。その理由の一つが、不動産会社の収入が仲介手数料という成果報酬で成り立っている点にあります。

不動産会社が物件を売るためには、広告を出したり写真を撮影したり、内覧の準備をしたりと、様々なコストがかかります。しかし、これらの販促費用は物件が売れて初めて回収できるものです。仮に多額の販促費をかけた物件を、他の不動産会社が先に売却してしまった場合、これまでかけた費用が回収不能になるだけでなく、仲介手数料も一切得られません。このため、不動産会社は一般媒介契約の物件に対して売却活動を渋るケースがあるのです。

他社が売るだろうと考え販促を避ける恐れも!

さらに、一般媒介契約にはもう1つの注意点があります。それは、「複数の不動産会社が同時に販促活動を避けるリスク」です。例えば、5社に同時に売却を依頼した場合を想像してみてください。依頼された5社のすべてが、「どうせ他の会社が売るかもしれない」と考え、積極的な販促を控えたらどうなるでしょうか。結果的に誰も本格的に動かず、売れるはずの物件が放置されてしまう状況に陥ることもあるのです。

もちろん、売れやすそうな物件であれば、会社も積極的に販促活動を行うことがあります。しかし、少しでも「売れにくい」と判断される物件では、不動産会社は「他の会社が先に売ったら無駄になる」「とりあえず最低限の情報だけ載せておけばいいか」と考えがちです。こうして、情報はデータベース上に掲載されるだけで、具体的な活動に結びつかないまま時間だけが過ぎてしまうのです。

不動産会社は意外と無知な人だらけ

不動産のプロは意外と少ない

「不動産会社なのだから、みんなプロフェッショナルでしょ」

多くの人がこう思いますよね。しかし、実際にはそうとも限らないのです。

当社が2024年5月に、20代から50代の不動産会社に勤めている人たちにアンケートを取ったところ、「社員が十分な教育を受けている会社」は全体のわずか24.8%しかありませんでした。つまり、不動産会社の4社に3社は十分な教育を受けておらず、「実はそこまで詳しくないかもしれない」というのが現実なのです。

多くの不動産会社は少人数で経営されており、業務も多忙なため、社員を丁寧に教育する時間や体制が整っていません。実際にアンケートによると、仕事の中で抱える悩みの第1位は、「社員に対する教育」との回答が返ってきました。

家の売り方大全
(画像=家の売り方大全)

さらに、昔ながらの考え方も影響しています。不動産業界では「自分で成果を上げれば給料が増える」という歩合制が現在も一般的で、他の社員をライバル視する文化が根強く残っています。その結果、社員同士で知識やノウハウを共有する機会が少なく、新人が体系的な教育を受けることが難しい状況が続いているのです。

昭和時代の文化が知識不足を招く

もちろん、すべての不動産会社が頼りにならないというわけではありません。何年不動産業界に携わっているかによって、知識やスキルには差がありますし、4社のうち1社は十分な研修を受けていると言えます。ただ、あなたが思っている以上に「なんとなく働いている」人が多いことを理解しておくことは重要です。

特に新人社員を教育する際、「とりあえず現場に出て覚えろ」「俺の背中を見て学べ」という昭和スタイルが未だに根強く残っています。そのため、売主や買主が「プロに任せている」と思っても、実際には物件のことを詳しく知らなかったり、市場動向に疎かったりする担当者に当たる可能性もあるのです。

資格がなくても仕事ができてしまう

また、不動産業界では、必ずしも資格が必要というわけではありません。そのため、業務に必要な専門知識が不足している社員がいることも珍しくないのです。

国家資格である「宅地建物取引士」(宅建)の資格を持っていなければ、契約時に必要な重要事項説明を行うことはできませんが、会社全体としては、社員数5人につき1人の有資格者がいれば不動産業を行うことが可能です。このため、宅建資格を持たない知識不足の社員が、売主や買主の対応をするケースも少なくありません。

結果として、不動産会社が、売主や買主が期待するほどの知識やスキルを持っていない場合もあるのです。

「プロに任せておけば安心」と考えるのではなく、売主自身も基本的な知識を身につけることが、納得のいく売却を実現するための第一歩です。

少しでも情報を蓄え、正しい判断ができるようになれば、不動産会社に依存しすぎることなく、自分の家を最適な方法で売り出すことができるようになります。

家の売り方大全
谷崎 真吾(たにざき・しんご)
株式会社ウィルステップ代表取締役/株式会社SMILE’s取締役。
広島県生まれ。大学卒業後に総合不動産会社へ入社し、中古住宅の仕入と販売に従事。
中古住宅とお客様の特性や行動心理を徹底的に分解・分析し、赤字事業部を半年で黒字化。
その後も安定して成果を上げ続け、会社創立以来最年少の事業本部長に就任。九州地域ナンバーワン企業、株式上場へ大きく貢献。
2021年に不動産コンサルタントとして起業し、同年に株式会社ウィルステップを設立。2023年には株式会社SMILE’sを立ち上げ、リフォーム事業を展開。
現在は、これまで中古住宅売買に3,000件以上携わってきた実績とノウハウを活かし、中古住宅事業への新規参入支援、営業社員の教育、リフォームプロデュースなど幅広く行っている。
著書に『売れる営業がお客様に会う前にやっていること 初対面の7秒で絶大な信頼を勝ち取る』(日本実業出版社)がある。
家の売り方大全
  1. 不動産会社に売却を依頼する時のNG行為とは
  2. 家を「売りたい人」「買いたい人」不動産会社が優先するのはどっち?
  3. 信頼できる担当者かを見極める4つのポイント
  4. リフォームしていないことがメリットになる?
  5. 家探ししている人は不動産ポータルサイトを利用している
  6. 不動産売却で絶対に言ってはいけない一言とは
ZUU online library
(※画像をクリックするとZUU online libraryに飛びます)