「確定拠出年金」―「カクテイキョシュツネンキン」
金融業界で働いている人にこの言葉を投げかけて、実際に営業側でテンションの上がる人は、誰一人いないだろう。
先日ベンチャー企業に勤める、とある独身の顧客からこんなことを相談された。「毎年社会保険料は上がるし所得税は取られる一方で、上手に節税しながらお金を増やしたいのだけど、○○証券と△△銀行に行ったら、証券会社はNISAを活用して株式や投信運用、銀行も個人年金保険を勧めてきたけど、どう思う?」
今回はすでにNISAを活用し、生命保険会社の個人年金保険にも、所得控除額限度まで加入している、彼のような悩みを持つ人に最も知ってもらいたい制度、「個人型確定拠出年金」について、考えてみよう。
営業マンが、言わない、知らない制度
日本版401Kとも呼ばれるこの制度が発足された2001年10月から、すでに14年以上が経つのだが普及率は決して満足なものではない。
約4年前の2012年3月に、以前までは主流のひとつだった企業の適格退職年金制度が廃止になった。そのタイミングで一気に普及するかと思われたのだが、実際のところは本制度の本国である米国と比べてみると、人口比率で1:3差があるにしても、1/15以下の加入者数なのだからいかに少ないかが分かる。
加入者数が少ないということは、当制度が周知されていないことだと考えてもいい。なぜなら、当制度を知っていれば、「加入したくなる」はずの年金制度だからである。どうして加入したくなるかの仕組みは、簡単に3つ。
●掛け金が上限まで全額、所得控除できる
●運用益が非課税
●将来の受取時に、退職所得控除や公的年金控除が使える
ということだ。
これは、積立をしている最中は所得税、住民税を引き下げる効果があり、また株や投資信託の利益に対して20.315%の税金を払わなくていいため、複利運用効果を最大限享受でき、更に受け取るときにも公的年金と同じ優遇制度を使えるため、「もっとも税金の関与を受けにくい資産運用方法」と考えていい。
【確定拠出年金について詳しく知る】
個人型確定拠出年金で重要な「金融機関選び」、その違いとは?
しかし、実は筆者自身が、保険の営業販売をしてきた間、顧客に当制度を案内した事は一度もない。もちろん勧誘できる商品として、自身のラインナップの中には無かったからだが、それ以前に当制度について知らなかったからである。FP資格を保有していながら、なんとも恥ずかしい話である。もっとも、金融機関にとっておいしくない商品、制度情報を、社員教育の場を用いて説明されるはずもないので、当然といえば当然なのだが…。
金融機関には、不都合な制度
ではなぜ、金融機関が当制度を積極的に勧めないのだろうか。それは、ズバリ金融機関にとっては「おトクではない」「儲けが少ない」からである。
金融機関は慈善団体ではない。営利を目的とした企業である。ここで言っておきたいのだが、商売人の家に生まれ育った筆者は、なにも「金融機関が儲ける」=「悪」とは思わない。儲けをしっかり出してもらわないと、経済そのものが好循環にならないのだから。問題は、「よく知らない、教えない」という姿勢だ。
さて、金融機関の儲けとは、いわゆる「手数料」が大きな枠を占めるだろう。同じ投資信託でも、一般で販売されているものに比べ、DC用は割安に抑えられていることが多い。また、当制度は大原則として、60歳までは途中で資金を引き出したり、解約したりすることができない。
昨今は少なくなったとは言うものの回転売買や、当然に新規販売で手数料を稼ぎたい金融機関からすると、年間の管理手数料では割に合わない、「不都合な制度」なのだ。もし、顧客が将来の不安を鑑みて相談に来たのならば、CMやパンフレットなどで、目にしたことのある、耳にしたことのある個人年金保険や、投資信託など手数料の良い商品を勧めるのは、仕方がない。
顧客は誰でも、ニーズに合わせて自身に有利な制度から順に活用したいもの。マネープランは、その方法やニーズが多岐に渡るため、決めるのは難しい。商品や制度が多いからこそ、大まかな枠組みで、「私にとって、一番いいプランは何か」を、シンプルに、愚直に知りたい。
当制度は、現在はまだ、企業年金などのない会社員や、個人事業主などに限られた制度ではあるが、専業主婦やその他の会社員、公務員にも、2017年1月より、法改正により加入権が広がることになる。この機会に、積極的に、「確定拠出年金」について、調べてみてもらいたい。
佐々木 愛子 ファイナンシャルプランナー(AFP)、証券外務員Ⅱ種、相続診断士
国内外の保険会社で8年以上営業を経験。リーマンショック後の超低金利時代、リテール営業を中心に500世帯以上と契約を結ぶ。FPとして独立し、販売から相談業務へ移行。10代のうちから金融、経済について学ぶ大切さを訴え活動中。
FP Cafe
登録FP