(写真=PIXTA)

キムチと言えば、韓国人にとってなくてはならない国民食のイメ―ジが強いかもしれないが、ここ最近、異変が起きている。「口に合うキムチがない」「一日一食食べるかどうか」……。こんな調子で若者を中心にキムチ離れが進行し、摂取量がこの激減しているのだ。背景には食生活の欧風化や中国産増加による味の劣化などが指摘されているようだが、かの国の若者は、もうキムチを食べなくなってしまうのだろうか。

キムチ専用冷蔵庫は普及率80%

キムチは朝鮮半島で生まれた乳酸菌発酵食品。7世紀に寒い冬の保存食として野菜の塩漬けが始まり、その後、ニンニクやサンショウなどの香辛料を加えるようになり、日本から唐辛子が伝わった16世紀ごろに現在のキムチの原型ができたとされる。

日本でも焼き肉や丼物の付け合わせとして人気だが、はっきり言って韓国ではレベルが違う。韓国観光公社によると、飲食店ではメニューになくても当たり前のように出てくるし、無料でお代わり可能なところが多いという。ポピュラーな白菜のほかにネギやからし菜を漬けたものなど180種類はあるといい、家庭でもキムチ専用冷蔵庫は普及率80%という。

朝鮮半島では毎年、晩秋になる家族が集まってと一年分のキムチを漬ける「キムジャン」という習慣があり、「よいキムチを作れる女性はよい妻となれる」という言葉があるほど、家庭の味を象徴するものでもある。

同公社のウェブサイトには「素晴らしいご馳走を前にしても、まずキムチを食べようとする韓国人。どんなに時代が変わって食の好みが変化したとしても、韓国人の食卓にはキムチが絶対に欠かせません」と記されている。ところが今年7月、韓国の公共放送局KBSがこうした伝統と文化が崩れつつあることを示す衝撃的なデータを伝えた。

韓国人のキムチ消費量減少、輸入量増加

政府系機関「世界キムチ研究所」が今年6月に発表した「2015年度キムチ産業動向」によると、2015年度1年間の韓国内のキムチ消費量は1600万6000トン。1人1日あたり約62.9グラムだった。2010年は同約71.4グラムだったことから、5年間で11%も減っている。

同研究所が1905人を対象に、1年間でキムチを食べた回数について尋ねたところ、「一度も食べなかった」と答えた人は2.5%に上ったという。その理由として「パン類など西洋式食事が増えたため」「朝食を食べなかったり米飯を食べなかったりするケースが増えたため」などが挙がったが、日本でも同じ経緯があるので、特段、驚くことはない。

しかし、「特異なにおいや食後の美観上、私生活に負担になるため」という理由が挙がったのは特筆すべきことかもしれない。伝統の味覚について「特異」、歯に付着した唐辛子やニンニクのにおいを「私生活に負担」と言うのは、時代の変化の表れなのかもしれない。

キムチの輸出入にも変化が生じている。ここ数年、輸出が減り、輸入が増えているのだ。輸出は2010年に2万9672トンだったのが、2015年には2万3112トンと22%も減少。一方、輸入は19万2936トンから22万4124トンと16%増えた。驚くべきことに、2000年の輸入は473トンしかなく、2015年のなんと474分の1だ。

注目したいのが、輸入のほぼ100%が中国産であることだ。当然、価格は安い。国民食とされる食材で、価格の高い自国産と、価格の安い中国産では、その味の差は歴然。流通量がかつての474倍ともなれば、さすがに「あれ、なんか最近のキムチ少しおかしいぞ」となる。こうした味の劣化も、韓国人のキムチ離れの一因になっているのかもしれない。

若者の反応は辛辣 韓国の食文化に変化

こうした報道を受け、中国情報サイト「Record China」は7月7日に配信した「韓国のキムチの消費量が減少、輸入量は増加=ネットは納得」という記事の中で、韓国内のネットユーザの反応をさまざま紹介している。いずれも韓国の食文化に変化が生じたことを示す内容だ。

「韓国人はキムチをたくさん食べなければならないという強迫観念を捨てるべき」
「キムチより優秀な発酵食品は多い。見た目もよくないし…」
「昔と違い、今は食べ物が豊富。家でキムチを漬けても余ってしまい、どうせ捨てることになるから、食べたいときに食べたい分だけ買ったほうがいい」……。

また、日本でも大阪・ミナミで韓国人の若者から拾った声を産経新聞のニュースサイト「産経ニュース」の「関西の議論」(8月25日配信)で紹介している。

「キムチがなくても暮らせる。(キムチを)好きが7、嫌いが3くらいでは。本国のキムチは中国産が多く、まずい」(24歳女性)
「一日に一食、食べるかどうか。食べるときでも1切れか2切れ」(22歳女性)
「辛いのは好きだけど、口に合うキムチがない。タクアンが好き。キムチは好きだけどなくてもいい」(21歳男性)
……といった具合だ。

ただ、発酵食品であるキムチは栄養価が高く、低カロリーで健康に良いことは間違いない。韓国観光公社は「米国の健康専門雑誌『ヘルス』は、スペインのオリーブオイル、日本の納豆などとともに、韓国のキムチを世界5大健康食品に選定しています」と紹介している。私もそうだが、納豆よりもキムチが好きだという日本人も多い。韓国国民には、若者のキムチ離れや安い中国産に負けることなく、伝統の味を守ってもらいたいものだ。(飛鳥一咲 フリーライター)

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