2020年4月の総選挙では圧倒的な勝利を収めた韓国与党民主党(DP)だが、ここに来て党首である文在寅(ムン・ジェイン)大統領の支持率が30%台に低下するなど、「追い詰められた感」が増している。2022年5月に次期大統領選を控えた現在、文在寅政権にとって理想とはほど遠い現状を打破する上で、対日米関係の改善・強化が重要な課題の一つとなりそうだ。唐突ともいえる反日姿勢の軟化や米国との協力関係強化など、最近の文在寅大統領の動きから、その真意と今後の日米中へのスタンスが垣間見える。

国内外で四面楚歌の文在寅政権

米中板挟みで追い詰められる韓国・文在寅大統領 反日姿勢の軟化の真意と対米中関係の行方
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2020年の総選挙では、16年ぶりにDPが単独で議席の過半数を獲得するほどの人気を誇った文在寅政権だが、同年後半から状況は一転した。国内における新型コロナの再拡大や住宅価格の高騰に加え、度重なる側近の法相スキャンダルとそれを巡る検察との対立が激化している。そして「韓国版トランプ外交」の烙印を押された外交スタイルなど、文在寅政権に対する国民の信用が著しく低下した。

韓国リアルメーターが2021年1月上旬に実施した世論調査によると、文在寅大統領の支持率は6週間連続で就任後最低水準の30%台に落ち込み、不支持率は60%台に達した。また、DPに対する国民の支持率が29.3%に低下したのに対し、主要対立候補である「国民の力(旧未来統合党)」の支持率は33.5%へ上昇し、文在寅政権の存続を脅かす勢いで世論が急変している。

現時点(2021年2月8日)において、文在寅大統領が次期大統領選に出馬するか否かは明らかになっていない。しかし、不名誉な世論を覆してDPが勢力を維持し続けるためには、強力な戦略が必要となる。

日韓関係を改善して「対北朝鮮融和政策」を進める意図

その戦略の一環が、2017年の就任以来、国内外から判を受けてきた外交姿勢の変化なのだろう。

最も世界を驚かせたのは、頑なだった対日姿勢に軟化の兆しが見えてきた点だ。文在寅大統領は2021年1月18日の新年記者会見で、「過去の歴史は過去のも歴史。未来志向的な発展は、それなりに実行して行くべき」と発言した。「日韓合意はあり得ない」と繰り返し述べて来た慰安婦問題についても、日本政府に賠償を命じた1月の判決に「困惑している」と言及した。さらに2015年の日韓合意に関しては、「両国政府間の公式合意」として認めた。

憑きものが落ちたかのような豹変ぶりに、各国のメディアや専門家はその真意が「南北関係の進展に根差すもの」と見ている。文在寅政権は対北朝鮮融和政策を成功させる上で、日米の協力が必須だと考えており、南北関係を進展させることで国民からの信頼を取り戻すという、一石二鳥の意図があるようだ。

対米電話協議「日米韓三カ国の協力関係の発展」に合意

日韓関係の改善、そして朝鮮半島問題解決のカギを握っているのが、米韓関係の強化である。メディアが報じた韓国政府関係者の証言によると、北朝鮮は韓国より米国との対話を重視している。そのため、米韓関係を強化し、なんとか米国に動いてもらわなければならないのだ。

ところがバイデン大統領は、「日韓の対立が継続する場合、北挑戦との対話も含め、韓国に協力することはあり得ない」と報じられるほど、日韓関係の悪化に不満をもっている。つまり、日本との関係の修復は、今の韓国にとって必須の課題というわけだ。報道を裏付けるかのように、2月4日に行われたバイデン政権発足後初の電話による米韓協議では、日韓関係の改善および日米韓三カ国の協力関係を発展させることで、両国首脳が合意した。

中米板挟みの韓国 いつまで中立姿勢を維持できるか?

しかし、ここで韓国にとって別の問題が浮上する。米中の対立関係だ。現時点において、韓国は米国・日本・オーストラリア・インドが発足させた対中国圧迫協議体「クアッド(Quad)」への参加を拒否している。しかし、バイデン大統領は日米韓の結束を同盟関係レベルにまで統合することを検討しているという。

「中国も米国も、韓国にとって同じぐらい重要な国」と発言するなど、中立の姿勢を維持している文在寅大統領だが、米国の新政権誕生を機に、圧力が増す可能性は十分に考えられる。実際、文在寅大統領が1月下旬、習近平国家主席との電話会談の際、中国共産党創立100周年への祝辞を述べたことに対し、次期米上院外交委員長のロバート・メネンデス上院議員は、「文在寅政権への失望と懸念を露わにした」と朝鮮日報は報じた。いずれ文在寅政権は、どちら付かずの態度に終止符を打つ決断に迫られるかも知れない。

とはいうものの、米国も他国同様、国内のコロナ対応策や経済の立て直しに追われている上に、イランの核合意など他の重要課題も山積みの状態だ。日韓関係や対北朝鮮問題が頭痛の種であることは間違いないが、文在寅大統領が描いた通りに物事が進む保証はない。

次期大統領候補の支持率に関する世論調査では、「共に民主党」代表の李洛淵(イ・ナギョン)氏、与党の李在明(イ・ジェミョン)京畿(キョンギ)道知事、尹錫悦(ユン・ソギョル)検事総長が、「3強」として勢力を増している。任期完了までの残された期間、文在寅大統領の奔走はまだまだ続きそうだ。(提供:THE OWNER

文・アレン琴子(オランダ在住のフリーライター)