本記事は、角川 総一氏の著書『決定版 為替が動くとどうなるか』(明日香出版社)の中から一部を抜粋・編集しています。

為替相場を動かす要因
その1
貿易取引
為替相場は、異なる通貨を交換するときに使われるレートです。いや、異なる通貨の売り、買いの需給バランスによってその都度決まるものである、といったほうがいいでしょう。つまり需給バランスの原則がものをいう世界です。
ではもともと、いろいろな通貨の売り買いの強さは、どのような要因によって決まるのでしょうか。ここではごく大雑把に、その要因を挙げておくことにします。
まず1つは、貿易に伴うものです。
これはいうまでもありません。たとえばわが国では、産業に必須の原油はほとんど国内では生産できません。かといって、これに代わる代替燃料(天然ガスや石炭など)もほとんど生産できません。
となれば、原油などのエネルギー源は海外から買うほかないのです。
輸入に伴う需要の発生
たとえば、サウジアラビアの企業Q社から原油を買いたいとしましょう。
この場合、わが国の輸入企業T社は輸入代金を支払わなければならないのですが、その場合たいてい先方の国の企業は「米ドルで支払ってくれ」と要望します。であれば、日本の輸入企業は米ドルを手に入れて、それを支払う必要があります。

つまり、日常的には円で経済活動を行っているT社は、手持ちの円を米ドルに換えて、それを支払うことになります。
ここで、円を売って、米ドルを買いたい(米ドルに換えたい)という需要が生まれます。
輸入に伴う動き
一方、逆に輸出を活発に行っている企業の場合はどうでしょうか。
日本のH社は、米国向けに自動車を輸出しています。輸出先の米国のW社からの支払いは、おおむね米ドルで行われます。
しかし、そのお金を日本の本社、工場で使おうとすれば、円でなければなりません。このため、米国のW社から受け取った米ドルを売って円に換える(=円を買う)ことになります。

このように、企業が日常的に貿易(輸出入)を行うことによって米ドルについては、売りと買いの両方のニーズが発生するわけです。
最も基本的なところで為替相場(以上の例だと米ドルと円の交換比率)を決めるのがこれです。これが、為替取引の動機の1つである「貿易取引」です。

長期的に見るとおおむね「日本の貿易黒字増→円高」「黒字減→円安」の関係が認められます。
一貫して貿易黒字を稼いでいた2010年ごろまでは円高基調が続いていたのに、その後貿易赤字に転じたことで円高の流れは一巡、その後は相当急速に円安が進んでいることが明らかです。
なお、このほか個人が海外旅行に行くときには、円を外貨(米ドル、ユーロや韓国ウォン、豪ドルなど)に交換した上で国外に持ち出します。また海外(現地)で現地通貨が不足すれば、現地の両替商で円を売って現地通貨に換えることもあります。
逆に外国人が日本に観光旅行に来るときには、外貨を売って円に換え、その円で日本国内でいろいろな買い物をすることになります。
こうした旅行に伴う円と外貨との取引は「サービス収支」に分類されます。
為替相場を動かす要因
その2
資本の取引
貿易取引や、海外旅行などに伴うサービス取引と並んで昨今とても重要な為替取引ニーズが、資本取引に伴うものです。
これも大別すると2つに分けられます。
1,投資のための外貨売買
1つは、投資あるいは投機目的のための外貨の売り買いです。たとえば日本より米国、ユーロのほうが金利が相当に高いとなれば、私たちはその高い金利を求めて「円を売る」とともに「米ドル、ユーロを買い」ます。
このようにしてユーロ、米ドルを手に入れてその外貨でドルやユーロ現地の債券などの高金利の資産や株式を買います。
以上のような証券の取得あるいは売却などを通じた通貨の売り買いは、近年では活発に行われています。これらの投資、あるいは投機を目的にした資金は極めて敏捷に動くのが特徴です。
つまりちょっとしたニュースにも敏感に反応しながら円、米ドル、ユーロ、豪ドル、カナダドル、英ポンドといった通貨の間を日夜駆け巡っているのです。

2,買収のための資本取引
次に、日本の企業S社がたとえばカナダにあるJ社を買収するケースを考えてみます。
この場合、いろいろな方法があるのですが、代表的なものは公開買い付けです。つまり、J社の株主が持っている株を、ある価格を提示したうえで買い集め、J社の過半の株式を保有すればS社はJ社の経営権を握れるわけです。
このような場合、普通カナダドルで既存の株主から株を買い取るわけですから、そのためにはカナダドルが必要です。この場合は、当然円を売って、カナダドルを買うことになるのです。
以上のような取引が為替相場に対して与える影響は、近年に至り、とても大きくなってきました。

※画像をクリックするとAmazonに飛びます。
- 円高と円安を決めるのは何か? 為替相場の仕組みを読み解く
- 1ドル=150円の裏にある真実、外貨を主語にすれば見える世界
- 円安の光と影、誰にとって得で、誰にとって損なのか
- ビッグマックでわかる為替相場の本質
- お金の価値はどう測る? 物価・為替・金利の3つのものさし
- 世界が揺らぐとき、なぜ円は選ばれるのか?
- 為替介入の舞台裏、市場を揺さぶる本当のシグナル