本記事は、田尻 望氏の著書『無言のリーダーシップ 付加価値を生む仕組みのつくりかた』(SBクリエイティブ)の中から一部を抜粋・編集しています。
仕組みがなければ一生しんどい
忙しいリーダーこそ仕組み化に時間を使え
多くのリーダーが仕組み化に着手できない最大の理由は、「とにかく忙しすぎる」ということだ。特に、個人目標を達成しながら、部下からの相談や進捗管理、問題発生時のフォローまでこなすプレイングマネージャーは、日々やることが山積みで、土日返上で働いている人も少なくないだろう。
リーダーは、「いつかは仕組み化しなければ」と思いつつも、日々のノルマに追われ、いつの間にか「仕組みは後回し」という悪循環に陥る。
リーダーの負担を減らしつつ成果を上げていくための具体的な仕組みを紹介していく。ステップを踏んだチームでは、すでに仕組みを受け入れ、運用していく土壌が育っているはずだ。どれも比較的取り入れやすいものなので、あなたのチームで活用できるか検討してみてほしい。
「都度相談」に疲弊するリーダーたち
どんなにリーダーが優秀でも、日々の細々としたトラブルや相談ごとがゼロになることはない。部下から「質問があるんですが……」「ちょっといいですか?」と声がかかるたびに、「いま答えないと部下が困るし……」とリーダーがその場で答え、一緒に問題を検討する。そのやり取りが、いつの間にか30分、1時間と長引くことも珍しくない。
部下からすれば、「都度相談」は気がラクかもしれないが、それが当たり前になると危険だ。「質問をすればリーダーが答えてくれる」という受け身の姿勢が定着し、リーダーの負荷が高止まりすることになる。
期間を決めたマイクロマネジメントなら効果的だが、私が現場で見てきた限り、だらだら続く「都度相談」を引き受ける面倒見のいいリーダーは、長期的には疲弊してしまう。せっかくステップを踏んだのなら、部下がそのステップを逆戻りしないように、次は、自走を仕組み化していくことが重要となる。
仕組みで質問を集約する ―FAQドキュメントやフォーラムの導入
「都度相談」を脱却するためには、仕組みを使って部下の質問や相談をまとめて対応できる仕組みを構築する工夫が有効だ。具体的な仕組みの例を挙げてみよう。
① FAQ(よくある質問)ドキュメント
●部下がよく質問する内容をリーダーや先輩がまとめ、「まずはここを見て」とルール化
●FAQを更新可能なファイルや社内Wikiに置き、誰でも編集・追加しやすくする
② 週1回の質問タイム
●「毎週○曜日の朝30分(または昼休み前、夕方など)は“質問コーナー”」と決める
●部下はその時間までに疑問をまとめておき、リーダーは一度に答えられる質問に答える。これも今流行りの1on1を行う有効性の一つである。
③ ITツールによるQ&Aフォーラム
●社内SNSやプロジェクト管理ツールに“質問チャンネル”を作成し、部下が投稿
●ほかのメンバーが回答することも奨励し、リーダーが常に答えなくてもいい構造にする
これらの仕組みを徹底することで、部下が同じ質問を何度もしてくる無駄がなくなる。さらに、部下同士で「これ、前のFAQに似てるから参照しよう」と助け合う動きが生まれ、リーダー不在でも対処可能となる。
質問フォーマットで「自分なりに考える」習慣をつける
質問対応の仕組み化のコツは、「質問をする前にこのテンプレに自分の考えを書いてきてね」と定めることだ。たとえば、A4一枚のシンプルなフォーマットに以下の項目を記入させる。
■どんな問題が起きているのか(ファクト)
■自分はどう考えているか(感情・仮説)
■試したこと(過去にやった対策や調べた資料)
■リーダーに質問したい具体的内容(例:「決裁をとっていいか」「優先順位をどうすべきか」など)
これにより、部下は質問前に自分で情報を整理し、ある程度の仮説を持ってくるため、リーダーは背景を一から聞かずに済む。部下も自然と自分で調べる力がつき、次第にリーダーを頼る頻度が減っていく。
「週1回の質問タイム」のメリット
「週1回の質問タイム」を採用する場合は、次のようなメリットがある。
■時間の可視化
リーダーは一気に対応できるので、自分の他タスクをブロックせずに済む
■知識の共有
同じ疑問を持つ部下がまとめて学べるため、リーダーが同じ話をくり返さずに済む
■新たな問題を発見
質問が集中する領域は仕組みが弱いことを示唆する。そこを改善すればさらに問い合わせが減る
結果として、プレイングマネージャーが「部下への対応にいつも振り回される」事態から解放される。「集中的な時間」だけで部下の困りごとをカバーできるので、自分の仕事を計画的に進めやすくなるのだ。
「無言」を目指すための答えない勇気
「無言のリーダーシップ」の観点から言えば、部下が質問してきても、リーダーが即答しないことが正解になり得る。もちろん、すべての質問を放置するわけではないが、「まず自分で取り組んでみて、どういう仮説を持ったか」を聞く姿勢は欠かせない。
部下が「自分なりにこう考えましたが、ここがわかりません」と意見を持ってくれば、リーダーは短いアドバイスで済む。一度でも自分で考えたことのほうが理解度が上がるので、再度同じ質問をしてくる可能性も低くなる。リーダーが下手に即答すると、長期的な成長機会を奪ってしまうため要注意だ。
京都府京都市生まれ。大阪大学基礎工学部情報科学科にて、情報工学、プログラミング言語、統計学を学ぶ。2008年卒業後、株式会社キーエンスにてコンサルティングエンジニアとして、技術支援、重要顧客を担当。大手システム会社の業務システム構築支援をはじめ、年30社に及ぶシステム制作サポートを手掛けた経験が、「最小の人の命の時間と資本で、最大の付加価値を生み出す」という経営哲学、世界初のイノベーションを生む商品企画、ニーズの裏のニーズまでを突き詰めるコンサルティングセールス、構造に特化した高収益化コンサルティングの基礎となっている。その後、企業向け研修会社の立ち上げに参画し、独立。年商10億円~2,000億円規模の経営戦略コンサルティングなどを行い、月1億、年10億円超の利益改善といった企業を次々と輩出。社会変化に適応した企業の中長期発展を仕組みを提供している。また、自身の人生経験を通じて、人が幸せに働き、生きる社会を追求し続けており、エネルギッシュでありながら親しみのある明るい人柄で、大手企業経営者からも慕われている。私生活では3人の子を持つ父親でもある。
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