本記事は、田尻 望氏の著書『無言のリーダーシップ 付加価値を生む仕組みのつくりかた』(SBクリエイティブ)の中から一部を抜粋・編集しています。

無言のリーダーシップ 付加価値を生む仕組みのつくりかた
(画像=2UTS/stock.adobe.com)

どの問題を優先的に解決すべきか ―「変数」「定数」の考え方―

「これは無理」という前提を分解する

「問題解決型」で目標を達成するためには、部下のどの問題が目標を阻み、どの問題を優先的に解決すべきかを見定めなければならない。

リーダーから見て、もう少し伸ばせそうな数字やスキルがあったとしても、「客単価はこれが限界です」「これ以上の顧客体験はコスト的に厳しい」などと現場の声として言われてしまうと、どこから着手すべきか決めかねてしまうこともある。

そこで私がマネジメント経験から有効性を確認してきた概念が、変数と定数だ。

■変数:工夫次第で改善・強化できる要素
価格設定、営業手法、サポート体制、人材教育、提案内容、マーケティング施策など
■定数:努力や教育ではどうにも変えられない要素
法的規制、業界の制限、企業の存在意義を根本から変えるなど

たとえば、部下の「客単価」を丸ごと定数扱いにして諦めていたが、実は「顧客との対話が少なくニーズを深掘りできていない」「追加オプションを提案していない」などのクリティカルな問題を見抜ければ、「客単価」は変数になりうる。変数を増やせるかどうかが、リーダーの腕の見せどころだ。
ただし、商品の価格や仕様などは、いちチームリーダーからすれば定数となる場合が多いので、「定数に文句を言っても仕方がない」と割り切る姿勢もときには必要になる。

基本的にリーダーは、「変数をいかに増やすか」「インパクトのある変数はどれか」という視点で優先的に解決する問題を見定めていくとよい
私の会社でも目指す目標に対して、そのままの単価(つまり商品価値)では、目指すのは〇億円まで、それ以降は商品企画の責任などと切り分けて考えることがよくある。全員が100%の力を振り絞って論理的に達成できる目標に設定できるかが、定数と変数の最も力が出るフォーカスになる。

「教育の7段階」で変数を増やす

では、どのようにすれば変数を増やし、改善していけるのか。先ほどの「客単価」を例に考えてみよう。
たとえば、「この部下の客単価をもっと上げられないものかな」と思ったら、次の尺度で部下の段階を見極め、順を追って7段階目までサポートするのだ。

① 気づいていない:知らないことすら知らない
② 知らない:自社製品のアップセル方法を把握していない
③ 知る:成功事例や他社のアップセル事例を学ぶ
④ わかる:なぜアップセルが有効か、どんな理屈で付加価値が高まるか把握する
⑤ 行う:小さな顧客案件で提案してみる
⑥ できる:何度か実践し、実際にうまく提案できる状態になる
⑦ 教えられる:ほかのメンバーに指導できるレベルに達する

部下が7段階の途中で止まっているのであれば「客単価」は定数、7段階目まで到達しているのであれば「客単価」は変数の可能性が高い。

「客単価」が変数であることがわかったら、部下の段階に応じて次の段階に進めるようサポートをするのだ。
そうすれば、「アップセルなんて無理」と思っていた部下も、「そんなアップセルの方法があったのか!」「たしかに小規模案件で試せばいいかも」と動き出すことができる。

部下の段階や状態を測る尺度を持ち、それに応じた適切な指導方針を知っておくことで、チームの変数を増やしていくことが可能だ。ここではリーダーが“背中を見せて示す”ということがあってもおかしくない
「無言のリーダーシップ」とは、究極的には個人が組織の目標に向かって自走できる仕組みを構築し、必要最小限の介入で最大の成果を引き出すマネジメントスタイルである。
これまで説明してきた問題解決の手法はすべて、この「無言のリーダーシップ」を実現するための土台となる。

無言のリーダーシップ 付加価値を生む仕組みのつくりかた
田尻 望(たじり・のぞむ)
株式会社カクシン 代表取締役CEO
京都府京都市生まれ。大阪大学基礎工学部情報科学科にて、情報工学、プログラミング言語、統計学を学ぶ。2008年卒業後、株式会社キーエンスにてコンサルティングエンジニアとして、技術支援、重要顧客を担当。大手システム会社の業務システム構築支援をはじめ、年30社に及ぶシステム制作サポートを手掛けた経験が、「最小の人の命の時間と資本で、最大の付加価値を生み出す」という経営哲学、世界初のイノベーションを生む商品企画、ニーズの裏のニーズまでを突き詰めるコンサルティングセールス、構造に特化した高収益化コンサルティングの基礎となっている。その後、企業向け研修会社の立ち上げに参画し、独立。年商10億円~2,000億円規模の経営戦略コンサルティングなどを行い、月1億、年10億円超の利益改善といった企業を次々と輩出。社会変化に適応した企業の中長期発展を仕組みを提供している。また、自身の人生経験を通じて、人が幸せに働き、生きる社会を追求し続けており、エネルギッシュでありながら親しみのある明るい人柄で、大手企業経営者からも慕われている。私生活では3人の子を持つ父親でもある。

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