本記事は、田尻 望氏の著書『無言のリーダーシップ 付加価値を生む仕組みのつくりかた』(SBクリエイティブ)の中から一部を抜粋・編集しています。
「付加価値」を最大化する仕組みへ
その仕組みは「付加価値」を生むか?
仕組みを使って自立的なチームをつくると、リーダーは日々の細かい指示や確認から解放され、部下は思考・行動の自由度が上がる。だが、それだけではまだ十分とはいえない。次に待っている課題は「付加価値をどう最大化するか」である。
たとえば、営業チームであれば、新規顧客を獲得するだけでなく、客単価やリピート率をどう上げるかも大きなテーマだ。開発チームなら、新製品の機能だけでなく
“ユーザーが感動する仕組み”を提供できるかがカギになる。
この「付加価値を最大化する仕組み」について深掘りし、「知識×技術×感動」の観点から、仕組みをどのように磨き上げていけばいいかを解説する。王道ルートを超えた新たな成長曲線を描くには、感動や驚きをどう生み出すかという視点が必要不可欠だ。
「メタ仕組み」 ―仕組みを改善する仕組み―
仕組みが付加価値を生み出すためには、リーダーが「○○をやれ」「××を変えよう」と一方的に指示を出すのではなく、現場が自発的に気づき、チームで修正するフローが理想的である。そのためには、次のようなステップが考えられる。
① 定期的な“改善会”
月1回、1時間だけでも「業務フローで気づいた改善点」を集めるミーティングを開催。リーダーは“聞く側”に回る。
② 提案テンプレート
提案したい人は事前に「問題点」「提案内容」「期待される効果」を記入し、会議で発表する。
③ 迅速な承認・検証
提案がまとまったら、検証のための試験運用期間や担当者を決める。失敗しても責めないルールを敷くと、提案が活発になる。
こうして仕組みを改善する仕組みが動いていれば、リーダーが細かく口出ししなくても、チームが自主的にルールやプロセスを更新し、効率化や付加価値向上を図ってくれる。この「メタ仕組み」の構築こそ、組織が強くなる原動力だ。
なぜ「付加価値」が再現しにくいのか?
―ある老舗工房の話― 「付加価値」への期待と落差
リーダーのJさんは、最近話題の「付加価値」に関するセミナーを受講し、「顧客から熱狂的な支持を得るには、商品に独自のストーリーや感動を加えればいい」という講義に、強いインスピレーションを受けた。講師は地方の老舗工房が、一人当たり月50個しかつくれない手づくりの民芸品を「高級路線」に転換し、従来の3倍の価格で売り出して成功している事例を紹介していた。
「ただの民芸品を、どうしてそんな高値で売れるの?」という疑問に対し、「職人のこだわりや伝統の技術をうまく打ち出せば、いくらでも付加価値は高められるんです」と講師は力説していた。
Jさんは「うちの製品やサービスでも、同じように独自の価値を打ち出せるかも」と胸を躍らせた。
しかし、セミナーから戻って実際に自社の商品を見直すと、「自分たちの商品にはどんな独自性があるのか? そもそも職人技でもないし、ストーリーも弱い……」「付加価値を高めるといっても、具体的に何をすればいい?」という疑問にぶち当たった。
社員たちも「職人芸とか言われても、うちは普通の工場ラインでつくっているだけだし」と乗り気ではなく、結局この付加価値戦略は頓挫してしまった。
このように、「付加価値のつくり方」と称される事例をそのまま模倣してもうまくいかない現実が、あちこちにある。この章ではまず、付加価値の再現難度の高さの理由を解き明かし、どう仕組み化すれば付加価値を量産できるのか解説していく。
成功事例の「構造」を見なければ再現できない
たとえば、先述の老舗工房の話は、何世代も続く技術や地域の文化的背景、伝統的な素材の調達ルートなど多くの前提があるからこそ成り立つ「付加価値戦略」かもしれない。それを単に「価格を3倍にして限定販売すれば、うちも売れるはずだ」と表面だけ真似しても、大抵は失敗する。
なぜなら、製品・サービスが生まれる構造や前提がまるで違うからだ。そこで必要になるのが、自社の強み・弱みを把握し、他社の成功法のどこを転用できるかを見極めるという作業だ。
■どんな素材や工程が独自性の源泉なのか
■“感動”をよぶストーリーを生むために、どの程度の取材やマーケティングが必要か
■既存客に対するアプローチはどう変えるか
こうした要素を一つひとつ仕組みとして整理しなければ、「付加価値を高めよう」と意気込んでも、ただ手間ばかり増えて利益が上がらないという結果になりがちだ。
また、「付加価値には感性が大事。センスがないと厳しいのでは?」と思う人もいるかもしれない。実際、カリスマ経営者や天才肌のクリエイターによって斬新な製品やサービスが生まれ、成功した例は数多く存在する。しかし、それを組織として量産し、再現性を高めるには「センス×仕組み」の両面が必要だ。
■センス:顧客が「おおっ!」と驚くアイデアやデザイン力、直感的な発想
■仕組み:誰でも真似できるように、情報共有・検証・改善を可視化する枠組み
この両方がそろってはじめて、常に付加価値を最大化し続けるチームが生まれることになる。
京都府京都市生まれ。大阪大学基礎工学部情報科学科にて、情報工学、プログラミング言語、統計学を学ぶ。2008年卒業後、株式会社キーエンスにてコンサルティングエンジニアとして、技術支援、重要顧客を担当。大手システム会社の業務システム構築支援をはじめ、年30社に及ぶシステム制作サポートを手掛けた経験が、「最小の人の命の時間と資本で、最大の付加価値を生み出す」という経営哲学、世界初のイノベーションを生む商品企画、ニーズの裏のニーズまでを突き詰めるコンサルティングセールス、構造に特化した高収益化コンサルティングの基礎となっている。その後、企業向け研修会社の立ち上げに参画し、独立。年商10億円~2,000億円規模の経営戦略コンサルティングなどを行い、月1億、年10億円超の利益改善といった企業を次々と輩出。社会変化に適応した企業の中長期発展を仕組みを提供している。また、自身の人生経験を通じて、人が幸せに働き、生きる社会を追求し続けており、エネルギッシュでありながら親しみのある明るい人柄で、大手企業経営者からも慕われている。私生活では3人の子を持つ父親でもある。
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