本記事は、田尻 望氏の著書『無言のリーダーシップ 付加価値を生む仕組みのつくりかた』(SBクリエイティブ)の中から一部を抜粋・編集しています。

無言のリーダーシップ 付加価値を生む仕組みのつくりかた
(画像=hiro/stock.adobe.com)

目標までのルートを最低1つは持っておく

自信がないリーダーほどやり方にこだわる

紹介する手法やフレームワークは、私が長年のマネジメント経験から培ってきたものだ。実際のビジネス現場で有効性を確認してきた方法論を、みなさんにお伝えしていく。

目標を達成するためのルートは大抵複数あり、時には無数に存在する。しかし、私の経験では、そのルートが1つも見えていないリーダーほど、自分で決めた1つのルートに固執するという現象が起こる。たくさんの選択肢を示し、組織をフォーカスに導けるほど、すごいリーダーと言える。

たとえば、「半期で新規顧客を30社獲得する」という目標に対して、若手社員が「SNSで一気に集客しましょう!」と斬新な提案をしてきたとき、あなたならどう思うだろう?「SNS? そんなに甘くないだろう」と冷めた気持ちになるリーダーが多いのではないだろうか。

ただ理想を言えば、「時間の無駄だ」と即断はしないでほしい。せっかくの部下の意欲を削いでしまうし、チーム全体の創造性を下げる恐れもある。もちろん、SNS施策が失敗し、リソースを浪費するリスクがあることも事実だ。
こういう状況で、目標まで確実にいけるルートを1つでも持っているリーダーは強い。期間と成果に条件を設け、いつでも安全ルートに戻れる状態で部下にチャレンジさせることができるからだ。

たとえば、「SNS作戦、面白いね。ただダメだったときのために、私が考えたテレアポ中心のルートを保険にしておこう。期限は2週間。その間にSNSでどれだけ見込み客が得られるか検証しよう」と枠を決めるのだ。そうすれば、リーダーは失敗をコントロールできるし、部下も期間内は自由に動ける。その結果、もしSNSが期待したほどの成果を出せなくても、速やかに安全ルートに戻り、半年目標は守ることができる。
一方、SNSが思いのほか当たれば、安全ルート+SNSルートの合わせ技で、予想以上の成果を上げられるかもしれない。

近年のビジネス環境では、リーダー一人の発想だけに頼ることは危険だ。メンバー各々が現場で感じたヒントや外部環境の変化に対応し、ベターな方法を提案してくれることは歓迎しなければならない。「このプランしかない」と鎖につなげば、その可能性が死んでしまう。

逆に、リーダーが「大丈夫、最悪この道を使えば目標にたどり着ける」と落ち着いて構えていれば、部下は余裕を持って新しいルートにチャレンジできる。失敗への恐怖が抑えられ、斬新なアイデアが出てくるかもしれない。

では、目標まで確実にいけるルートをどう見つけたらよいのか。カギは、「問題解決型」の目標達成ルートだ。

目標達成の2ルート ―「問題解決型」と「目標達成型」―

「問題解決=目標達成」の思考法

私が現場で観察・分析してきた目標達成のルートには、「問題解決型」と「目標達成型」の2タイプがある。「年間1,000万円の売上アップ」という目標を達成するために、「まず月××万円、週〇〇万円……」と数字をブレイクダウンする考え方は「目標達成型」の典型だ。組織の習熟度によっては、これも良いリーダーシップと言える。

一方、「問題解決型」は、「売上アップ」という最終目標を阻む具体的な問題に注目する。「目標を達成するためには、これらの問題を解決する必要がある」「これらの問題を解決すれば、自ずと目標は達成できる」という考え方だ。

「目標達成型」が悪いわけではないが、本書では「問題解決型」の考え方を推奨する。なぜなら、「目標達成型」には、主に次のような難点があるからだ。

■途中で雲行きが怪しくなったとき、「もっと数字を上げろ!」という精神論に陥りやすい
■思考停止で数字だけを追いかけてしまう
■「なぜ走っているのかわからない」「目標達成までの成功体験が少ない」ため、メンバーの心が折れやすい
■目標達成の不確実性が高い

性弱説で考えれば、「できれば走りたくない」と思うのが人間心理である。ただ数字を割り振られるだけではモチベーションを維持しにくい。また、最終目標を達成するまでのほとんどの期間は、切迫感が先にきて仕事の達成感を抱きにくい。「なんで走っているかわからないけど、達成しないとまずいから走る」という受動的動機づけになりがちである。

「問題解決型」の目標達成とは?

最終目標を阻む具体的な問題に注目する「問題解決型」は、「なぜ目標を達成できないのか?」という視点によって目標をブレイクダウンしていく。ただ数字を割り振るだけでは、その数字をどう達成するかの戦略が部下に一任されるが、「問題解決型」の場合、目標達成までの道筋をリーダーが部下に示すようなイメージだ。

たとえば、「なぜ売上1億円に届かないのか?」→「既存顧客のリピート率が低いから」→「商品導入後のサポートが後回しになりやすいから」→「より緊急度の高いタスクを片づけているうちに一日が終わってしまうから」とブレイクダウンしていく。最終的に「では、どうする?」→「既存顧客へのサポート頻度をチームで統一し、実績を報告する」という具合に、具体的な対策まで落とし込むことがポイントだ
「なぜ売上1億円に届かないのか?」の答えは1つではないはずだ。いくつも候補を挙げていくなかで、費用対効果や部下と自分の工数を考慮し、何を優先的に実行するかを決めることが可能になる。

具体的な対策によって問題を解決するたびに小さな成功が積み上がり、最終的には目標に到達する。部下は「まずこの課題をクリアすればOK」という明確な短期ゴールを設定しやすく、小さな成功体験を早い段階で得られるため途中で息切れしにくい
また、部下が目標を“自分ごと化”しやすいという点も「問題解決型」のメリットといえるだろう。数字だけを示されるよりも、自分に関する具体的な問題を目の前に差し出されたほうが当事者意識を持ちやすいからだ。

もしあなたのチームで、離脱する部下が多い、全体的に張りつめた空気がある、目標を達成できるか常にヒヤヒヤしている、などの状況が常態化している場合には、目標達成ルートを見直してみてほしい。そうすることで、数字をブレイクダウンするだけでなく、具体的な問題を部下に提示できているかどうかが確認できるだろう
このように、目標達成を阻む具体的な問題を部下に提示するためには、リーダーが部下の仕事の構成要素、ひいては目標達成要因の構成要素を分析して言語化しておくことが必要なのである

リーダーになると、マネジメント手法をインプットすることにシフトしがちだが、部下の仕事や自組織の目標達成要因の構成要素を洗い出し、自分のなかで言語化しておくことのほうが、結果的にマネジメント能力を高めることにつながるのである。

無言のリーダーシップ 付加価値を生む仕組みのつくりかた
田尻 望(たじり・のぞむ)
株式会社カクシン 代表取締役CEO
京都府京都市生まれ。大阪大学基礎工学部情報科学科にて、情報工学、プログラミング言語、統計学を学ぶ。2008年卒業後、株式会社キーエンスにてコンサルティングエンジニアとして、技術支援、重要顧客を担当。大手システム会社の業務システム構築支援をはじめ、年30社に及ぶシステム制作サポートを手掛けた経験が、「最小の人の命の時間と資本で、最大の付加価値を生み出す」という経営哲学、世界初のイノベーションを生む商品企画、ニーズの裏のニーズまでを突き詰めるコンサルティングセールス、構造に特化した高収益化コンサルティングの基礎となっている。その後、企業向け研修会社の立ち上げに参画し、独立。年商10億円~2,000億円規模の経営戦略コンサルティングなどを行い、月1億、年10億円超の利益改善といった企業を次々と輩出。社会変化に適応した企業の中長期発展を仕組みを提供している。また、自身の人生経験を通じて、人が幸せに働き、生きる社会を追求し続けており、エネルギッシュでありながら親しみのある明るい人柄で、大手企業経営者からも慕われている。私生活では3人の子を持つ父親でもある。

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無言のリーダーシップ 付加価値を生む仕組みのつくりかた
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