本記事は、田尻 望氏の著書『無言のリーダーシップ 付加価値を生む仕組みのつくりかた』(SBクリエイティブ)の中から一部を抜粋・編集しています。

無言のリーダーシップ 付加価値を生む仕組みのつくりかた
(画像=corund/stock.adobe.com)

数字を問われると「詰められている」と感じる心理

なぜ数字が「責められる道具」になるのか?

営業会議や月次報告の場で、リーダーが「今月の売上はどうなっている?」と聞いた途端、部下の表情がこわばる。こうした場面は多くの組織で見られる。

本来、数字は現状を客観的に把握し、改善策を探るための道具でしかない。しかし、「数字=追及」という誤った認識が根付いてしまっているせいで、ここぞというときしか数字について言及できないというチームは意外と多い。
ある企業の営業部門では、リーダーが毎週売上の進捗を細かくチェックしていた。

「今週の受注数は?」と問うと、部下は「えー、あと数件いける予定です」と言葉をにごす。リーダーは「予定じゃなくて、確実な数字を言ってくれる?」と語気を強める。すると部下は、「見込み客の動向がまだ不透明でして……」とさらに防御的になる。
リーダーとしては非常に腹立たしい状況だが、部下からすれば「いまの数字をそのまま報告したら失望される」「来週にはもう少し数字が良くなるかもしれないし……」といった思いで必死なのだ。これをくり返していると、次第に正直な報告が減り、数字のごまかしや責任回避の動きが生まれる。この悪循環を断ち切るためには、チーム内で、数字の建設的な扱い方を共有しておく必要がある。

「数字は道具」という共通認識をつくる

チームの現状をいつ何時も正確に把握するために、「数字は責めるためのものではなく、問題を早期発見し解決するための道具」という共通認識を、チーム内に根付かせることが重要だ。たとえば、次のようなアプローチをとると、数字へのネガティブな印象を減らすことができる。

① 「現状+原因分析+対策提案」を記載する報告フォーマットを共有
ただ売上数値を記載するのではなく、「なぜこの数字になったのか」「次はどうすれば改善できるのか」を部下が伝えられるフォーマットを用意する。ある種の「言い訳」や「これから頑張ります」を最初から言わせてあげることで、次回以降の改善策に意識が向きやすくなるのだ。
たとえば、月次報告のテンプレートに、次のような項目を追加するだけでも、数字を扱う抵抗感が減る。

■今月の売上:〇〇円(目標対比△△%)
■主な要因:新規顧客の獲得ペースが鈍化/リピート率が予想より低い
■次のアクション:紹介キャンペーンを開始する/リピート顧客向けの特典を強化する


② リーダーの問いかけを「詰める」から「支援する」へ
たとえば、部下が売上低迷を報告したときに、リーダーがどのような問いかけをするかで、会話の流れが大きく変わる。

× 悪い例
「なぜ売上が伸びていない? 言い訳はいいから理由だけ教えて」

〇 良い例
「なるほど、今回はそういうやり方をしていたんだね。いまのやり方を続けて数字は上向きそう? それとも別の手を考えたほうがいい?」

リーダーが最初から「数字が足りない=部下の努力不足」と決めつけるのではなく、「この状況をどうすれば打開できるか?」を一緒に考える姿勢を持つことで、部下は「数字を正直に出しても、改善策を考える場になる」と安心する。

③ 「目標未達でも、そのプロセスを評価する」文化をつくる
目標が達成できなかったときに、「なぜ達成できなかった?」と責めるだけでは、数字に対する抵抗感が高まってしまう。
そこで、「今回は目標に届かなかったけど、プロセスとして〇〇は良かったね」「このアクションは継続しつつ、別の手も考えてみよう」と、数字だけでなくプロセスにも言及することで、「正直に現状を伝えても、リーダーは建設的に対応してくれる」と感じるようになる。

④ KSFをチーム内に共有する
KPI(活動指標)KGI(最終目標)だけでは「数字を達成しろ」というプレッシャーが大きいわりに、具体的にどうすればいいかが不透明になりやすい。そうならないために、KSF(Key Success Factor=成功要因)を明確にしておくことがポイントだ。リーダーが数字を語るときは、意識的に「何を改善すれば数字が動くか」を示さなければならない。

例:新規顧客獲得数をKPIとする場合のKSF
KSF1:ターゲットリストの精度を上げる(過去データのクリーニングを徹底)
KSF2:アプローチ頻度を増やす(1件につき複数回の接触で関係性を築く)
KSF3:初回商談で潜在ニーズを1つ以上引き出す

これらのKSFを部下が意識して行動すれば、KPI(新規○件)やKGI(売上○円)を自然と達成しやすくなる。「ただ数字を見ろ」ではなく「この成功要因をどこまで実践できたか」を重点的にチェックすることを前提にすれば、部下は数字をよりポジティブに、「道具」として捉えられるようになる。

「正直な数字」でなければ意味がない

チームの数字に責任を持つリーダーにとって、「数字が足りない」という報告を部下から聞くとついイライラしてしまう気持ちもわかる。目標達成がプレッシャーになっているからこそ、「なんでできないんだ!」と詰めたくなるものだ。
ただし、リーダーにとって重要なことは、部下に正直な数字を報告してもらい、建設的な対策を練ることである。
あるIT企業では、「数字が悪いのは別に問題じゃない。重要なのは、そこから何を学び、どう改善するかだ。問題があったら一刻も早く教えて。必ず一緒に解決策を考えるから」と全体会議でリーダーが宣言した途端、部下はネガティブな数字でも余すところなく伝えるようになった。
それだけでなく、「実は、〇〇の市場が最近冷え込んでいて、従来の売り方だと厳しくなっている」と、自分なりの課題を積極的に話すようになったという。

「数字が足りない=ダメなこと」とするのではなく、「数字は現状を把握する指標にすぎず、問題を解決するための出発点にすぎない」と捉える。こうしたマインドセットをリーダー自身が持ち、部下と共有することで、いつ何時も正確な数字を言い合えるチームになる。

無言のリーダーシップ 付加価値を生む仕組みのつくりかた
田尻 望(たじり・のぞむ)
株式会社カクシン 代表取締役CEO
京都府京都市生まれ。大阪大学基礎工学部情報科学科にて、情報工学、プログラミング言語、統計学を学ぶ。2008年卒業後、株式会社キーエンスにてコンサルティングエンジニアとして、技術支援、重要顧客を担当。大手システム会社の業務システム構築支援をはじめ、年30社に及ぶシステム制作サポートを手掛けた経験が、「最小の人の命の時間と資本で、最大の付加価値を生み出す」という経営哲学、世界初のイノベーションを生む商品企画、ニーズの裏のニーズまでを突き詰めるコンサルティングセールス、構造に特化した高収益化コンサルティングの基礎となっている。その後、企業向け研修会社の立ち上げに参画し、独立。年商10億円~2,000億円規模の経営戦略コンサルティングなどを行い、月1億、年10億円超の利益改善といった企業を次々と輩出。社会変化に適応した企業の中長期発展を仕組みを提供している。また、自身の人生経験を通じて、人が幸せに働き、生きる社会を追求し続けており、エネルギッシュでありながら親しみのある明るい人柄で、大手企業経営者からも慕われている。私生活では3人の子を持つ父親でもある。

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無言のリーダーシップ 付加価値を生む仕組みのつくりかた
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