本記事は、島 青志氏の著書『頭がいい人の思考のコツ 考えるスイッチ』(総合法令出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

頭がいい人の思考のコツ 考えるスイッチ
(画像=Najmin/stock.adobe.com)

「木を見て森を見ず」から「木も見て森も見る」へ

目に見える事象を分解して、その構成要素を調べれば、物事の本質がわかるはず。これが論理的思考に代表される要素還元思考の考え方です。
水は水の分子から成り立っていて、水の分子はさらに酸素原子と水素原子から成り立っていますよね。問題は、酸素原子と水素原子をいくら調べても、あるいはさらに陽子や電子などに分解しても、水のことはまったくわからないということです。

私たちの社会も同じで、人間一人一人を細かく見ていったところで、その人が属する組織や社会の本質はわかりません。社会全体のことは社会全体として見る必要があります。
ビジネスも同様で、ビジネスを細かく分析しても、ビジネス全体の本質をつかむことはできません。
これは経済学者で、実際に株で儲けた人がいない(唯一の例外がケインズだといいます)、あるいは経営学者が実際に経営で成功した事例をほとんど聞かないことからも明らかでしょう。学者は要素還元で事象(経済や経営)を分析するのは得意ですが、だからといって全体がわかるわけではないのですね。
例えば、バフェットのように長期にわたって株で利益を上げ、事業で成功するには経済や経営という、学者が定めた分野(要素)を超えて、お金や人間、社会全体を見る目が必要で、これこそが思考法や思考の軸の本質です。

今まで何度も「全体」という言葉を使っていますが、この概念をイメージしやすいように「森」で考えてみましょう。
森は、ただ木や草などが集まっているだけではありません。木のほかに草や虫、動物、太陽、風、土など、様々な要素が関わり合って成り立っています。いわゆる生態系(エコシステム)を形成しています。
何か問題が起きたとき、ただ一本一本の木だけを見るのではなく、森全体を見渡して、どんな要素があり、それらがどうつながり、影響し合っているのかを理解することが大切です。
つまり、「木も見て森も見る」ことが求められています。
森の中で一本の木が病気になったとしましょう。要素還元的な考え方では、その木を治療するために薬を使ったり、害虫を駆除したりする方法をとるかもしれません。
しかし、木が病気になった原因が、実は森全体のバランスの崩れによるものだったらどうでしょう。土壌の栄養が足りないのかもしれませんし、周囲の生態系に変化が起こっているのかもしれません。
害虫が増えたのは、虫を食べる鳥が少なくなったからかもしれません。もしそうなら、害虫を駆除するために薬を塗ったり農薬を撒いたりしたら、鳥もますます遠ざけることになって、後から余計被害が増えることも考えられますよね。

こうした複雑な問題に対応するには、森全体を見て、木々や草花、動物たちがどのように関わり合っているのかを理解することが必要です。
単に「木を細かく見て終わる」だけの思考ではなく、「木も見て森も見る」全体と部分の両方を見ることで、複雑な問題に柔軟に対応し、問題に対処し、新しい価値を生み出すことができます。

知識を横断し束ねる思考法の役割

ではどうすれば全体的に物事を考えられるのでしょうか。
そのためには、私たちが持つ様々な知識に横串を刺して統合していくことです。
そうした教育の方法論として、アメリカで提唱され、日本でも注目を集めるようになったSTEM(科学・技術・工学・数学)教育やSTEAM(科学・技術・工学・アート・数学)教育があります。
STEMやSTEAMの教育方法は、単純に各分野の知識を強化することを目的にしているわけではありません。数学や工学、アートといった分野を横軸として、ほかの学問や領域全体に活かしていこうというものです。
STEAM教育を提唱したジョーゼット・ヤックマンは、STEAMを「Science & Technology Interpreted Through Engineering & Art, all based in Mathematics.(科学と技術を、工学と芸術で横串を刺す。そしてすべては数学に基づくものである)」と定義しました。
教育の専門家も含め、日本では多くの人はSTEAM教育を図の上のように考えているようですが、下のほうが正しい見方です。

頭がいい人の思考のコツ 考えるスイッチ
(画像=頭がいい人の思考のコツ 考えるスイッチ)

つまり、科学や技術は、数学を基盤として工学、アートを横軸にして、相互に関わり合い、学問を横断的につなげていく役割を担っていく。これがSTEM教育やSTEAM教育の狙いです。
単純に理系科目を強化しようとか、芸術教育の時間を増やそうということではありません。日本での議論を見ると、まだまだ要素還元思考から抜けられないことがよくわかります。
私が学んだ慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科でもこの「横串を刺す」考え方を基本にしています。
この大学院には学部がなく、独立した大学院ですので、いろんな経歴の人が入ってきます。様々な学部の大学生はもちろん、システムエンジニア、デザイナー、営業職、会社経営者、中央官庁の官僚、医師、学校の先生。私の同期には芸能人もいました。
同じ研究室であっても、それぞれ研究内容もバラバラです。
授業のワークショップでは、ロケットの技術者と、ウェルビーイングの専門家と、官僚と新卒の二十代の学生が同じテーブルで同じ課題解決に取り組むのが日常風景です。それでも会話も議論も成立するのは、システム工学やデザイン学、マネジメント学という思考法、横串が同じなので、どのような課題でも、全体として、統合的に考えることができるからなのですね。

デジタル資産とWeb3
島 青志(しま・せいじ)
イノベーションデザイナー。ブルーロジック株式会社代表取締役。慶應義塾大学大学院SDM研究所研究員。
広告業や会計事務所など多様な業界を経て、株式会社SALT(現ブルーロジック株式会社)にて代表に就任。
アート思考、デザイン思考、システム思考を基盤に、経営理論や最新の脳科学研究を統合した「イノベーションデザイン」を研究し、企業コンサルティングや社員研修を通じて実践的なアプローチを提供している。
三思考統合コンサルティング企業として、企業のDX導入、組織変革、イノベーション創出支援を手がける。AIや生成型モデルの活用による効率化・価値創出、地域振興、アジャイル型開発支援など、多岐にわたるテーマで活動。

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頭がいい人の思考のコツ 考えるスイッチ
  1. 木を見て森を見ずから抜け出す、全体で考える思考法とは何か
  2. なぜ合理的な人ほどアートに向かうのか? 一流が実践する思考の正体
  3. デザイン思考とは何か、機能と意味をつなぐ問題解決の技法
  4. システム思考とは何か、アイデアを実行に変える仕組みの考え方
  5. 三つの思考法を融合する、アートとデザインとシステムの実践プロセス
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