本記事は、島 青志氏の著書『頭がいい人の思考のコツ 考えるスイッチ』(総合法令出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

頭がいい人の思考のコツ 考えるスイッチ
(画像=Rafal_Rutkowski/stock.adobe.com)

デザイン思考とは何か

Krebs Cycle of Creativityで、デザインの役割は、旅客機の例でいえば、乗客が利用できる形にすることだと述べました。
旅客機とは、空を飛んで乗客を目的地に安全に早く運ぶ。一度に数百人の乗客を乗せることができる。そういった機能を持っているものですよね。
その機能の実現のため、デザインで必要なことは、例えば全体の形を流線型にして余計な空気抵抗を抑えるとか、機体を丸く内部を大きくすることで、丈夫かつ多くの乗客を運べる形にすることなどが挙げられます。

デザインと機能の関係について、前章のVTSIでも触れた、コーヒーカップでも考えてみましょう。細かい違いはあっても、コーヒーカップはなぜこういう形ばかりなのでしょうか。丸いのは口に当てて飲みやすいからですね(直線だと口の横からこぼれます)。言い換えると、こぼさずに飲みやすい機能として、丸い形を採用しています。そして色が白いのは黒色のコーヒーを美味しく見せるため。取っ手は指を入れてカップを安定させるのにもっとも良い形になっていますし、ソーサーが湾曲しているのもカップを安定させ、こぼれた飲み物が机を汚さない機能を実現する形状になっています。

この例からわかるように、優れた製品デザインとは、それぞれの機能がもっとも効果的に実現できる形状や色彩のこと。これが、「デザインは機能に従う」考え方です。
この考え方は、工業デザイン(インダストリアルデザイン)の発展とともに広まり、デザインの方法に関しても、デザイナーの感覚やセンスに頼るのではなく、科学的なプロセスで進める手法が確立されます。
具体的には、ポアンカレやパトリックらの創造的思考のプロセスや、第二次世界大戦中の新兵器開発(マンハッタン計画など)で発展した、プロジェクト管理やエンジニアリングの手法などが基礎となって、デザインプロセスが作られました。そして二〇世紀の工業発展や経済成長を支えたのです。
一九六二年に出版されたモリス・アシモフの『Introduction To Design(デザイン入門)』では、次のデザインプロセスが紹介されています。

「問題の定義」問題を明確化し、解決すべき課題を特定する。
「概念設計」複数のアイデアを発想し、基本的な解決方法を提案する。
「詳細設計」概念を具体的な形に落とし込む。
「製造と試験」実際に製品を製造し、性能や品質を確認する。
「フィードバックと改善」実際の使用結果を元に改良を行う。

頭がいい人の思考のコツ 考えるスイッチ
(画像=頭がいい人の思考のコツ 考えるスイッチ)

アシモフのデザインプロセスは、「問題の定義」から始まっていますね。デザインは、何らかの問題に対して、創造的思考で解決に導くためのプロセスであると考えることができます。旅客機なら「どうすれば遠い場所に早く快適に行くことができるか」という問題を解決するプロダクトです。またコーヒーカップは、「どうすればコーヒーを心地よく飲むことができるか」という問題を解決するための製品であるといえます。

ここからデザイン思考は、問題解決の思考法につながっていきます。
アシモフらのデザインプロセスは、その後も進化し続け、IDEOや英デザイン協議会などのデザイン思考フレームワークへと発展しました。さらに二〇世紀末になると、「製品やサービス」とそれを使う「人間」との関係性に、関心が寄せられます。
デザインとは、製品の機能の表現ばかりでなく、製品を使う人へのメッセージであり、製品と人の間の関係性を構築するものである、という考え方への変化です。
認知学者のドナルド・ノーマンは、この考え方に基づき「人間中心デザイン」を提唱しました。

頭がいい人の思考のコツ 考えるスイッチ
(画像=頭がいい人の思考のコツ 考えるスイッチ)

例えば、写真のようなドアのデザインを考えてみてください。ドアには握って開け閉めする取っ手があります。おそらくこの取っ手をつかんだ人の多くは、手前に引っ張ってドアを開けようとするはずです。この取っ手のデザインは、「このドアをつかんで引っ張ってください」というメッセージであり、「人が引っ張ってドアを開けるために存在している」意味を持っています。
しかし、このドアにはPUSH(押す)の表示があります。デザインのメッセージと、言葉のメッセージが整合していません。これが四角い板型の形状だったら、何も考えなくても押すのではないでしょうか。
実際に私自身、考え事をしながらこのドアに手をかけたときとか、今でも間違ってガタガタ鳴らしてしまいます。
デザイン業界では、こういうドアを「Noman’s Door」と呼ぶそうです。

頭がいい人の思考のコツ 考えるスイッチ
(画像=頭がいい人の思考のコツ 考えるスイッチ)

また写真のようなゴミ箱もよく見かけると思いますが、投入口の形がそれぞれ、「ここはカンやペットボトルのゴミ箱です」「ここには一般ゴミを入れてください」とメッセージを発しています。ここでも投入口のデザインが意味を持っています。
もし、この投入口の形と、その上の文字(「一般ゴミ」「カン・ビン・ペットボトル」)が合っていなかったら、皆さんも混乱しますよね。
このようにデザインとは、製品やサービスと人間との間のメッセージのことであり、その関係性を築くための意味を表現する存在であるのが、ノーマンの考えたことです。
彼は『誰のためのデザイン?』(日本語版:新曜社)の中で、「良いデザインとは、良いコミュニケーションのことである」と述べています。
そしてこのことは、製品やサービスだけでなく、ビジネスや地域社会など様々な事象でも同じことがいえます。その対象が持つ「意味」や関わる人たちとの「関係性」に着目して、問題解決を図るのが、現在のデザイン思考の考え方です。

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島 青志(しま・せいじ)
イノベーションデザイナー。ブルーロジック株式会社代表取締役。慶應義塾大学大学院SDM研究所研究員。
広告業や会計事務所など多様な業界を経て、株式会社SALT(現ブルーロジック株式会社)にて代表に就任。
アート思考、デザイン思考、システム思考を基盤に、経営理論や最新の脳科学研究を統合した「イノベーションデザイン」を研究し、企業コンサルティングや社員研修を通じて実践的なアプローチを提供している。
三思考統合コンサルティング企業として、企業のDX導入、組織変革、イノベーション創出支援を手がける。AIや生成型モデルの活用による効率化・価値創出、地域振興、アジャイル型開発支援など、多岐にわたるテーマで活動。

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