本記事は、島 青志氏の著書『頭がいい人の思考のコツ 考えるスイッチ』(総合法令出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

頭がいい人の思考のコツ 考えるスイッチ
(画像=KEVINDWI/stock.adobe.com)

三つの思考法の融合

アート思考、デザイン思考、システム思考の三つの思考法について、それぞれ解説してきました。
これらの思考法は単独で使っても効果があります。何か実際に起こった問題や課題を解決するとき、例えば顧客からの具体的な要望に応える、ニーズに対応した製品やサービスの構築では、デザイン思考やシステム思考を使う。自分自身の想いやチームのパーパスやビジョンを考えるときはアート思考を活用するなどです。

しかしながら、チームや組織、あるいは自分自身の問題や課題を解決するには、組織や自分自身の「本質」を掘り下げたうえで、その問題や課題にあたって、最終的な解決手法に落とし込む必要があります。こういうときは単独で考えるだけでなく、統合的にこれらの思考法を駆使することが必要です。
三つの思考法を融合して考える」ことが身につけば、「まず自分の想いをアート思考で」とか、「ここは顧客中心にデザイン思考で考えよう」「社会視点に立ってシステム思考を使う」など、いちいち意識しなくても、自然と「アイデア力」「創造力」が身につき、またそれが顧客や社会にとって有用なイノベーションとなるように「仕組み」を構築することができるようになるでしょう。
もちろん最初のうちは、意識的に行う必要があります。
三つの思考法のそれぞれの関係性を解説した後、これらの思考法を融合して考えるためのプロセスについて述べます。
そして最後に、実例で三つの思考法を使った課題解決の方法について述べようと思います。

アート思考とデザイン思考

アート思考は自分視点であり、デザイン思考は顧客視点であることを何度か述べてきました。これも繰り返しになりますが、どちらが正しいとか、どちらが上であるかではありません。常に両方の視点を持つことが必要です。
ミラノ工科大学のロベルト・ベルガンディ教授は、著書『突破するデザイン』(日経BP社)の中で、イノベーションを行うには、顧客視点の「問題解決」や「ソリューションの提供」のための「問題解決のイノベーション」だけでなく、「意味のイノベーション」が必要であると述べています。
問題解決のイノベーション」とは、すでに存在している問題を解決するためのアイデアが対象になります。例を挙げると、自動車で目的地にもっと早く到着するにはどうするか。
それが「車のスピードが足りない」問題であれば、エンジンの馬力を上げてスピードを上げる。あるいは「道路が渋滞していてスムーズな走行ができない」問題なら道路を整備して渋滞を減らすなどの問題解決手段が考えられます。

一方の「意味のイノベーション」は、取り組むべき問題自体を再定義します。そのためには今までにないビジョンの創造が関心の対象になるのです。「どのように(How)」の問いだけでなく、「なぜ(Why)」の追求も必要になります。人々が製品やサービスを使用するための新しい理由を提案するのです。
早く快適に目的地に着くのなら、「空飛ぶ車」の手段も考えられますね。すぐに問題解決に取り組むのではなく、いったん「車を再定義」してみる。車とは何か。エンジンやタイヤを有して、地上(道路上)を早く移動するものの意味から、「目的地に早く快適に到達ためのモビリティ」の意味の再定義です。

変わり続ける世界の中で物事の「意味」も絶えず変化し続けます。意味を考えること、つまり「なぜ(Why)」の追求は、顧客視点に加え、自分視点も必要になってきます。

デザイン思考とシステム思考

デザイン思考とシステム思考を併せて考える必要性について述べましたが、ここでは、IDEOフレームワークの「創造」ステップに絡めて述べようと思います。
デザイン思考では「問題定義」を行った後に、その定義された問題解決を「創造」のステップで行います。手法としては、数人集まってアイデアを出し合うブレインストーミングを行うことが多いですね。
ここでやりがちなのは、ブレインストーミングでいきなり「問題解決手法のアイデアを出し合ってしまう」ことです。
もちろん、簡単な問題ならそれでも構わないのですが、そもそもデザイン思考のような手法が必要な問題は、複雑で厄介な問題であることが多いものです。そのような問題を解決に導くためには、まず「問題の構造」を把握する必要があります。そのためには、システム思考の手法が有効です。
ここでは「ニューヨークの犯罪」の事例で説明しましょう。
この問題は言うまでもなく、「ニューヨークの重大犯罪の多さ」です。重大犯罪をどうすれば減らすことができるか、その解決を導くためには、何をすればよいのかが問題です。すぐに思いつくのは「どうすればニューヨークの犯罪を減らすことができるか」をみんなで考えることになります。
やってみるとわかると思いますが、「警官を増やす」とか「法律や規則を厳しくする」など、いろいろなアイデアは出ると思います。しかしすでに取り組んでいるアイデアだったり、よく聞くアイデアであったり、なかなか「今までにない凄いアイデア」は出ないものです。
そこで、この事象の構造を表す因果ループ図を書いてみることから始めます。

ニューヨークの犯罪を解決した事例で説明しますと、「割れ窓理論」によれば、ある地域で「犯罪行動」が多いのは、その場所が「犯罪がうまくいきそうな感じ」だからで、「割れた窓ガラス」に象徴される街が汚れている状態、乱れた状態なのが原因としています。
そしてこの問題の解決手法としては、窓ガラスを割るなどの「軽微な犯罪を取り締まる」ことが考えられ、実行されました。この問題解決のプロセスでわかることは、ブレインストーミングなどで考えるべき箇所は、「犯罪がうまくいきそうな感じ」なところです。
つまり、「重大犯罪」が増えているのは「犯罪がうまくいきそうな感じ」が大きくなっている、増え続けているのが原因なのですから、ここを抑えることができれば、犯罪は減ることになります。

そこで、ここは犯罪者の気持ちになって…… と言いたいところですが、「犯罪者の気持ち」になるのは難しいと思います。ですが、誰でも「子どもの頃のいたずら」のようなちょっとした悪いことなら経験があるでしょう。そこで考えられるテーマとして「どんなときに悪いことしちゃいそうか」や「今までイタズラしたときの状況」でブレインストーミングを行ってみます。
このような「誰もが思い当たりそうなこと」や「誰もが経験したようなこと」にテーマを落とし込むと、ブレインストーミング自体が盛り上がります。「人が見ていないとき、悪いことしちゃうよね」とか、「散らかった場所だと物を盗んでもわからなそうだよね」「きれいに整頓された場所だと悪いことしづらい」などは、「そうそう」と実感を持って受け入れられそうです。
こういうのをインサイト(気づき)といいます。
ブレインストーミングでは、問題の解決手法そのものではなく、解決につながるヒントやちょっとしたアイデア、共通するようなこと、問題と似た出来事に出会って気づいたことのようなインサイトをたくさん集めることによって、問題解決やイノベーティブなアイデアが出やすくなります。

デジタル資産とWeb3
島 青志(しま・せいじ)
イノベーションデザイナー。ブルーロジック株式会社代表取締役。慶應義塾大学大学院SDM研究所研究員。
広告業や会計事務所など多様な業界を経て、株式会社SALT(現ブルーロジック株式会社)にて代表に就任。
アート思考、デザイン思考、システム思考を基盤に、経営理論や最新の脳科学研究を統合した「イノベーションデザイン」を研究し、企業コンサルティングや社員研修を通じて実践的なアプローチを提供している。
三思考統合コンサルティング企業として、企業のDX導入、組織変革、イノベーション創出支援を手がける。AIや生成型モデルの活用による効率化・価値創出、地域振興、アジャイル型開発支援など、多岐にわたるテーマで活動。

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