本記事は、島 青志氏の著書『頭がいい人の思考のコツ 考えるスイッチ』(総合法令出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

頭がいい人の思考のコツ 考えるスイッチ
(画像=Bartek/stock.adobe.com)

世界の一流はアートを学んでいる

最近ではよく知られるようになったことですが、革新的な起業家や事業家たちの多くが、アートを学び、ビジネスに活かしています。
スティーブ・ジョブズがスタンフォード大学を退学した後に、こっそり大学に潜り込んで、カリグラフィ(文字芸術)を学んでいた話は有名です。このときのことを彼は、「科学では捉えきれない、伝統的で芸術的な文字の世界に魅了された」と振り返っています。
マイクロソフトのサティア・ナデラCEOは詩を読むことを趣味にしています。「長い文章でしか表現できないと思われることも、詩によって本質を捉えることができる」と述べており、「最高のプログラムコードは詩のようなもの」と表現しています。
ナデラがマイクロソフトのビジネスで目指しているのは、単なる技術革新ではなく、芸術作品のように人々の心に響くような美しい体験を提供することだとも述べています。

こうしたアートとビジネスの融合は、ジョブズやナデラに限ったことではありません。
ロックミュージシャンだったバルミューダ創業者の寺尾玄。芸術大学を卒業後にAirbnbを立ち上げたブライアン・チェスキーとジョー・ゲビア。そして英国の芸術大学を卒業して、サイクロン掃除機や羽根のない扇風機などを発明したジェームズ・ダイソンも、アートとの深い関わりを持ち、その経験を活かしています。
彼らは皆、アートを通じて新しい視点で物事を捉え、独自の価値を生み出しています。アートは既存の枠にとらわれず、創造的に問題を解決する力を育てます。
アートを学ぶことは、ビジネスの世界でも大きな力を発揮します。技術や論理だけでは解決できない問題に、新しい視点や創造的な解決策をもたらしてくれるからです。革新的な事業家たちがアートに触れ、その経験をビジネスに活かしているのは、決して偶然ではありません。アートによって培われた感性と創造性が、彼らの成功を支える大きな力になっています。

アート思考とは人間が人間らしく考えること

アート思考は、自分視点で想いを実現しようとする思考です。
ではアーティストとは、どのような人を指すのでしょうか?
スティーブ・ジョブズは、社員たちの前で、「僕たちはエンジニアじゃなくてアーティストなんだ」と何度も繰り返し言っていたそうです。アップルを、上司や顧客から言われたことを単に再現するエンジニア集団ではなく、夢を持ち続け、夢を実現する組織にすることを目指していました。
二十世紀を代表する画家のパブロ・ピカソは、「子どもは誰でもアーティストだ。問題は大人になってもアーティストでいられるかどうかだ」と語っています。そのピカソですら、晩年になって、「やっと子どもらしい絵が描けるようになった」のだそうですが。

これは、ビジネスパースンにとっても、同じかもしれません。
あなたが子どもの頃は、どんな夢や目標を持っていましたか?
また一方で、大人になった今の夢や目標は何でしょうか?
もちろん、子どもの頃に思い描いたことと、大人になった今や、これからのことが違うのは当然のことです。問題なのはそれが、あなた自身が思い描いているものなのかです。
例えば、ビジネスに関して私たちが考える目標では、営業目標とか前年比何%増の売上や利益などが頭に浮かびませんか?「お金や利益を考えることは良くない」と言いたいのではなく、ここで問いたいのは、「それはあなた自身の目標ですか?」です。
こういうのは多くの場合、上司や顧客など自分以外の人が設定した目的や目標です。もちろんそれは大事なことですが、一方でそこに「あなた自身」が自分のために定めた目的や目標はあるのかが問題です。
他人が定めた目的や目標のために行動するのは、AIやロボットでもできます。また訓練された動物にも可能です。しかし、自分で自分自身のために目的や目標を設定することを「夢を持つ」と言ってもよいと思いますが、これはこの地球上で人間にしかできないのです。
こうして考えると、アート思考は、「人間が純粋に人間らしく考えることである」といえます。しかし、「子どものように絵を描く」ことがピカソですら難しいのと同じで、私たち人間(特に大人)にとって、「人間らしく」は意外と難しいことなのかもしれません。

自分の内面から生まれる目標とは

大阪大学の延岡健太郎教授は、アート思考を「クリエーターのアイデアや感情、信念、哲学を表現すること」と定義しています。自分の内面から湧き出る感情や信念を表現することが、アート思考の本質です。
ここで重要なのは、自分の内側から生まれる目標です。自分自身の夢ややりたいこと、そして「何のために生きているのか」、「生きる意味とは何か」といった根源的な問いに向き合うことです。
アート思考は、既存の枠にとらわれない自由な発想を引き出し、革新的なアイデアを生むための基盤となります。自分の夢や目標を見つめ直し、それを実現するために行動することが、社会に新しい価値を提供し、結果的にイノベーションを引き起こすことにつながるからです。アート思考は、私たち一人一人の創造力を引き出し、未来をより良くしていくための大切な要素となります。

延岡教授は、アート思考を活用している企業として、自動車会社のマツダを挙げています。マツダは、「CAR as ART」をテーマに、車を単なる移動手段としてではなく、芸術作品として捉えるデザイン哲学を標榜しています。このアプローチは、ほかの自動車メーカーとは一線を画し、マツダを世界的にもユニークな存在として際立たせています。
マツダのデザイン理念は、「魂動(こどう)」という言葉に表れています。魂動デザインは、静止していても動きを感じさせる、生命力溢れる造形を追求するものです。具体的には、ボディの曲線や光と影のコントラストを活かし、日本の美意識を反映させたシンプルで洗練されたデザインを実現しています。
マツダはこうしたアプローチによって、車の美しさを追求するだけでなく、ドライバーに感動を与えることを目指しています。その結果、国内外で高い評価を受け、デザイン賞も多数受賞しています。最近では、二〇二〇年に、MAZDA3が世界でもっとも優れたデザインに与えられるワールド・カー・デザイン・オブ・ザ・イヤーを受賞しました。この賞は一年間に世界で発表される百車種以上から、最高のデザインが選ばれるもので、魂動デザインとしては、二〇一六年のロードスターに続いて二台目の受賞です。ちなみに日本車では、これまでマツダ以外の受賞はありません。

日本の自動車業界では長らく、「今どのような車が流行っているのか」を基準とした車づくりが主流でした。しかしそれでは「ユーザーに合わせて、商品としてはこの程度で抑えておいたほうが良いと考えてしまい、突き抜けたものが出にくい」(「アート思考のものづくり」日本経済新聞出版)がマツダの考えです。「お客様のニーズや市場データを分析するが、それで車は開発しません。自分たちが理想だと考える哲学に基づいて車をつくります。市場分析ではなくて、高い志を掲げて提案したものでないと感動は生みません」(同)

マツダの「クリエーターのアイデアや感情、信念、哲学を表現」の理念が、多くの自動車ファンの心をつかみ、同社の存在感を世界に示しているのです。

デジタル資産とWeb3
島 青志(しま・せいじ)
イノベーションデザイナー。ブルーロジック株式会社代表取締役。慶應義塾大学大学院SDM研究所研究員。
広告業や会計事務所など多様な業界を経て、株式会社SALT(現ブルーロジック株式会社)にて代表に就任。
アート思考、デザイン思考、システム思考を基盤に、経営理論や最新の脳科学研究を統合した「イノベーションデザイン」を研究し、企業コンサルティングや社員研修を通じて実践的なアプローチを提供している。
三思考統合コンサルティング企業として、企業のDX導入、組織変革、イノベーション創出支援を手がける。AIや生成型モデルの活用による効率化・価値創出、地域振興、アジャイル型開発支援など、多岐にわたるテーマで活動。

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頭がいい人の思考のコツ 考えるスイッチ
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