本記事は、角川 総一氏の著書『決定版 為替が動くとどうなるか』(明日香出版社)の中から一部を抜粋・編集しています。

日本株と米株では為替に対する反応は逆?
円高が進めば日本株安。為替相場が株価に与える影響について私たちはこんな風に反応するのが常です。
確かに円高でトヨタの売り上げは減り、株価は下落、というイメージがおおむね正しいことは説明したとおりです。
では、米国株についてはどうでしょう。おそらく多くの人は「米国も同じじゃないの」と反応されると思うのですね。
では改めて、円相場と日本株、米ドル相場と米国株の関係を検証しておきましょう。

まず日本株と円相場について。ここではドル円相場ではなく、より総合的な円の強弱を表す実質実効為替レートを用いてあります。図に見る通り、たしかに円高時には株価下落、円安時には株価上昇という傾向が明らかです。
しかし、米ドル(実質実効為替レート)と米国株式との関係は必ずしもそうではありません。数ヵ月~半年程度の短期的なタイムスパンでは米ドル高⇒米株安、米ドル安⇒米株高、という場面もありますが、中~長期で見ると15年余の間に大幅にドル高が進行するとともに、米国株も大幅高です。日本株と米国株では、自国通貨の上げ下げとの関係が異なるのです。
といえば容易に想像される通り、その大きな理由は日米の貿易収支の違いです。
米国は最近だと、毎年のように8,000億~1兆ドルもの巨額の貿易赤字です。これに対して、日本は2021年後半からは原油価格の高騰を受け輸入超過(貿易収支赤字)になることも多くなりましたが、それ以前はほとんど貿易黒字というのが常でした。
つまり日本の産業は米国に比べ、輸出企業が軸となっているので自国通貨安⇒株高になりやすく、米国は総じて輸入企業の活動が勝っているため、逆に自国通貨高⇒株高になりやすいのです。
このことは、こと米国株投資においては株高時にはドル高であるためダブルで収益が得られる一方、株が下がるとドル安も進行していることが多いため、損失がより膨らむ可能性が高いことを示唆しています。

市場介入
世界主要各国の為替レートは、市場での需給バランスに委ねるのが基本。つまり、政府や金融政策当局が介入することを控えるのが原則です。しかし、時には一定の政策目的のもとで外国為替市場に介入することがあります。これが市場介入です。
市場介入を行う理由は2つ。1つは、市場に任せておくと、需給バランスに大きなギャップが生じ、相場が必要以上に大きく動くことで、経済活動に支障をきたしかねないからです。この時、相場の乱高下を避けるために中央銀行が市場に出動します。「平衡介入」あるいは「スムージングオペ」とも呼ばれるものです。
2つ目には、経済実態から見て為替相場の水準が適切ではないと判断したときに行われる介入があります。これは介入により特定の水準に為替相場を誘導するものです。
実際に介入するのは中央銀行ですが、あくまで政府の代理人として(政府の依頼を受けて)介入します。住宅建設における設計者と施工者の関係に似ていますね。介入のために用いられる資金は政府が管理している外国為替資金特別会計(外為会計)です。
日本の最近の例だと、2024年の6~7月には何度かに分けて数兆円規模の市場介入(ドル売り・円買い)がありました。これは経済実態に照らして円安が行き過ぎているという判断に基づくものでした。しかし、円安の阻止を意図した市場介入はこれまであまり例はありません。多くの場合は、行き過ぎた円高にブレーキをかけるための円売り・ドル買いが一般的だったのです。
なお、日銀は東京市場のほか、海外市場で介入を行なうこともあります。この場合、その国の通貨当局に介入の実施を依頼する委託介入というかたちがとられます。
また、一国の中央銀行が単独で行なう市場介入だけではなく、各国の中央銀行が互いに協調し合うことがあります。これはとくに協調介入と呼ばれます。
海外では、この市場介入の実態については事後的にも公表されないのが普通ですが、日本では、1ヵ月ごとに介入額の総額が公表されるほか、4半期ごとに財務省から「外国為替平衡操作の実施状況」のデータがHP上で公開されます。
なお、こうした政府、中央銀行による介入は一時的な効果はあるものの、中期的な為替相場のトレンド(うねり)を変えるほどの力はない、との見方が今日では優勢です。
ただし、一時的にせよ市場介入は為替相場には相当の影響を与えるわけですから、金融機関など為替担当者は時に応じてその可能性について注意を怠たることはできません。
いよいよ介入が実施されそうだとなると、もっとも有力なシグナルとなるのは日銀によるレートチェックです。介入しようとする水準で取引注文を出して売り、買いレートを提示させます。そしてその後注文をキャンセルします。この段階まで進むと、「市場介入間近し」となるのです。
なお、わが国が相応の介入を行うに際しては、前もって非公式に米国の了解を得ることになっていることは公然の秘密です。

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