(本記事は、岩田昭男氏の著書『キャッシュレスで得する!お金の新常識』=青春出版社、2018年7月15日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

始まりはアメリカの富裕層からだった

クレジットカードは、いつごろ、どこで生まれたのでしょうか。

クレジットカードの原型は、100年ほど前にアメリカの石油会社、航空会社、ホテル、 百貨店が発行した顧客カードといわれています。

それはいま私たちが使っているクレジットカードとは大きく異なるものでした。

第二次世界大戦の混乱期を経て、超大国となったアメリカでは、1950年代に入ると現在国際ブランドと呼ばれるクレジットカード会社が相次いで産声を上げました。。

まず、1950年にニューヨークのビジネスマン、医師など100人が会員となり、レストランを加盟店とする富裕層のためのダイナースクラブを発足させました。

クラブの会員となると名前や会員番号が書かれた会員証(手帳型の紙製カード)が渡され、加盟店になっているレストランを利用することができたのです。これが世界初のT&E(Travel&Entertainment)のクレジットカード会社の誕生といわれています。

マスターカードとVISAの誕生

(画像=Svetlana Larina / Shutterstock.com)

その翌年の1951年には、同じくニューヨークにあるフランクリン・ナショナル・バンクという銀行がクレジットカードの発行を開始します。

そして58年には、アメリカン・エキスプレスとバンク・オブ・アメリカがクジレットカード事業に参入しました。

アメリカン・エキスプレスは、1850年に幌馬車で貨物を運ぶ運送業者として創業。

後に郵便為替業務や旅行サービス業に進出し、初めてトラベラーズ・チェック(海外旅行 者用の小切手)を発行した会社としても知られています。

バンク・オブ・アメリカは、アメリカ西海岸のカリフォルニア州に本拠を置く銀行で、 現在、世界最大のクレジットカード会社であるVISAの前身。

66年にはカリフォルニア州以外のほかの銀行が同社のバンカメリカードを取り扱うことを許可するライセンス業務を開始しました。

これに対して、同年アメリカ東海岸の銀行が集まって、インターバンク・カード・アソ シエーション(ICA)を設立。これが後のマスターカードです(79年にICAはマスターカード・インターナショナルInc.となる)。

一方、バンク・オブ・アメリカは70年にナショナル・バンク・オブ・アメリカードInc.(NBI)を設立し、そのNBIが74年にインターナショナル・バンク・カード・オーガニゼーション(IBANCO)を設立して国際カード業務を開始します。

さらに77年になるとIBANCOはVISAインターナショナル・サービス・アソシエーションに名称変更し、カード名もバンカメリカードからVISAに変えました。

巨大化する国際ブランド

こうして70年代末にVISAとマスターカードの2大国際ブランドが誕生し、クレジットカード業界の盟主の座を争いました。

2006年にはマスターカード、2007年にはVISAが株式会社に改組し(それぞれマスターカード・ワールドワイド、VISA・ワールドワイドとなる)、直後にIPO(新規株式公開)を行い、米株式市場に上場しました(VISAは2008年)。

これによって両社は名実ともに膨大な会員を抱える世界的な大企業となった。

しかし、現在は会員数、取扱高などでVISAがマスターカードを圧倒して一強体制を築き上げ、盟主の座を不動のものにしています。

クレカの支払いにも小切手がよく使われるアメリカ

アメリカのクレジットカードの歴史を細かく見てきましたが、キャッシュレスの決済手段として、実はクレジットカードに先行するものがありました。

それは小切手です。

小切手は株券や国債などと同じ有価証券で、当座預金の残高に応じて振り出すことがで きるものです。つまり、自分の当座預金の残高以上の金額を小切手に書き込むことはできません。

小切手を受け取る側は、自分の名前を裏書きして銀行に持ち込めばすぐに券面に記載されている額のお金に換えることができます。

日本では主に企業間の取引に使われ、個人で小切手を利用することはほとんどありませんが、アメリカでは電気などの公共料金や家賃の支払いに日常的に小切手が使われています。

日本人なら「銀行振り込みや自動引き落としを利用したほうが便利なのではないか」と素朴な疑問を感じるかもしれません。

インターネットが普及したIT時代に、なぜいまでも小切手が幅広く使われているのかというと、アメリカでは日本に比べて銀行の手数料が非常に高いことがひとつの理由でしょう。日本なら数百円ですむ振込手数料がアメリカでは1,000円以上になるからです。

しかし、何よりもアメリカでは古くから小切手が人々の暮らしの中に根づいて いたことも大きいです。

小切手はいまから350年以上も前にイギリスで使われるようになったといわれていますが、アメリカでもクレジットカードが登場する前から、小切手はキャッシュレスで後払いという誰もが気軽に使える決済インフラとして定着していたのです。

日本では、クレジットカードでの支払いは銀行の口座引き落としを利用した自動振り替 えとセットになっています。

ところが、アメリカでは、クレジットカードを利用した消費者が、カード会社から送られてきた請求書を受け取ったあとに、小切手に支払う金額を書いて、それをカード会社に郵送して支払いをすませることが多いです。

こうしたかたちでクレジットカードが普及したいまでも小切手が併用されているのです。

また、クレジットカードの支払い方法について、日本では一括払いが 多いのに対して、アメリカのクレジットカードはほぼすべてリボルビング払い、つまり分割払いになっています。

この違いも、小口に分けた小切手による支払いにつながっているのかもしれません。

さらには、銀行に対する信用度が日本ほど高くないのも理由のひとつかもしれません。 銀行で不正が行われるのを恐れて口座引き落としを避けるのです。

こうしたさまざまな理由で、アメリカではいわば“小切手文化”の土壌があり、その上に、富裕層の利便性向上や銀行の新たな収益源としてクレジットカードが考案され、一般の人々の間に普及していったのです。

岩田昭男(いわた あきお)
消費生活ジャーナリスト。NPO法人「消費生活とカード教育を考える会」理事長。 1952年。早稲田大学第一文学部卒業、同大学院修士課程修了。月刊誌記者などを経て独立。流通、情報通信、金融分野を中心に活動する。クレジットカードについては30年にわたり取材を続けている第一人者で、「岩田昭男の上級カード道場」で情報発信を続けるほか、All About(オールアバウト)の「クレジットカード」のガイドを務めるなど、幅広く活躍中。おもな著書に『Suicaが世界を制覇する』(朝日新書)など多数。 ※画像をクリックするとAmazonに飛びます

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