(本記事は、岩田昭男氏の著書『キャッシュレスで得する!お金の新常識』=青春出版社、2018年7月15日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

中国の消費生活を変えた銀聯カード

すべての権力が共産党政府に集中する共産主義国家の中国が、経済改革を行って市場経 済に移行したのは1980年代の初めです。

国民の経済活動、消費が活発になるのもこのころからで、2000年代に入ると急激な経済成長を遂げました。

中国初のクレジットカード、銀聯カードが誕生するのが2002年。とはいっても本質は銀行口座と結びついたキャッシュカードだったのです。そのキャッシュカードに銀聯ブランドがついてデビットカードとして買い物ができるというものでした。

銀聯とは中国銀聯のことで、中国政府の主導で中央銀行である中国人民銀行が中心となって設立された銀行間決済ネットワークです。

このネットワークに参加した中国や香港、マカオの金融機関が銀聯カードを支えています。

クレジットカードとキャッシュカードの違いは何かというと信用力を測れるかどうかで、当時中国にはまだ国民の信用力を測れるものさしがまったくなかったため、キャッシュ カード(デビットカード)からのスタートになりました。

スマホ決済によって一躍キャッシュレス社会に

キャッシュレスで得する
(画像=TY Lim / Shutterstock.com)

ところがスマートフォンが登場したことによって事態は一変しました。

中国では顔写真つきの身分証がなければスマホを買うことはできないので、スマホがIDの役割を果たしだしたのです。その結果、クレジットカードに必要な信用情報がスマホの電子決済サービスではいらなくなったといわれています。

現在、中国の人口は約14億人です。

都市部では誰もがスマホ決済で買い物をし、老人と子ども以外はスマホ決済が浸透しています。街の店先には大きなQRコードがついたボードのようなものが置かれていて、スマホでそれを写し取り、金額を入力すれば支払いは完了、銀行口座からすぐさまお金が引き落とされます。

ネット通販大手アリババ(のグループ企業のアント・フィナンシャル・サービスグループ) が提供するスマホ決済サービスのアリペイと、ソーシャルメディア最大手のテンセントのウィーチャットペイの利用者を合計すると13億人(延べ人数)を超え、中国のスマホ決済総額は日本のGDP546兆円をはるかに上回る660兆円に達します。

何しろウィーチャットペイの利用者は8億人を超えるともいわれ、利用できる店舗は100万店を数えます。LINEペイも利用者は日本や韓国を中心に4000万人にのぼりますが桁が違います。

アリペイも負けてはいなません。アクティブユーザー数は5.2億人を超えるといわれ、日本を含めた世界の20カ国以上でサービスが利用できます。

ちなみに、中国では顔認証技術が実用化され、実際の市民生活で使われています。たとえばIDカードなしでオフィスに入ったり飛行機に搭乗したりできるのです。

店内の顔認証の端末に自分の顔を読み取らせ、商品を選んだらスマホで決済するだけと いう小売店舗もあります。

いずれはスマホでの決済も必要なくなるといわれていますが、そうなれば、まさに究極のキャッシュレス決済となるでしょう。

アメリカに渡った若い起業家たちが最新のテクノロジーとシステムを学んで中国に持ち 帰ったことが、現在のスマホ社会、キャッシュレス社会を生み出しています。

利用履歴で信用度をはかるクレジットスコア

アメリカはクレジットカード社会で、利用履歴を集めてそれに点数をつけており、これをクレジットスコアといいます。

アメリカにはいくつかの信用情報機関があって、そこにクレジットカードを利用して支払った家賃や電気料金などの決済履歴をはじめさまざまな個人情報が集まるようになって います。

信用情報機関は、返済遅延の有無、クレジットカードの利用回数や金額、職歴などの集めた情報を総合的に判断して、返済能力の点数づけを行います。これが個人の信用度を測るものさし、すなわちクレジットスコアになるのです。

金融機関はクレジットスコアの点数を見て、点数の低い人にはローン金利を高くし、点数の高い人に対しては逆に金利を低くするといったサービスを行います。こういった信用度の低い人々に提供した住宅ローンが、あのサブプライムローンです。

2008年に世界経済を襲ったリーマン・ショックの元凶ともいわれるものですが、これにアリババの経営トップが目をつけ、多少アレンジしてアリペイに取り入れています。2015年から始めた「芝麻(ゴマ)信用」がそれです。

アリペイに蓄積された利用履歴をもとに点数がつけられ、利用者は1,劣る(350~549)2,普通(550~599)3,良好(600~649)4,優秀(650~699)5,極めて優秀(700~950)の5段階にランクづけされます。

点数は、アリペイの支払い履歴で集まる信用情報や政府が提供するデータ、それに基本 的な情報である学歴、職歴、資産、人脈、行動などをもとに決められ、毎月発表されます。

学歴が高く資産が多ければ当然点数は高くなりますが、どんな人と付き合っているか、マナーを守っているかなども評価の対象になります。

アリペイのゴマ信用で中国人のお行儀がよくなる?

マナーの評価でいうと、たとえば中国はシェアリングエコノミーが盛んですが、レンタルで借りた自転車を時間内にきちんと返しているかどうかが点数に反映されます。

クレジットカードは主に経済力が審査の対象でしたが、日常の生活態度や素行まで評価されるわけで、これによって中国人のお行儀も少しはよくなるだろうといわれているほどです。

ゴマ信用の点数が高いと、家賃の割引やローン金利が優遇されるなどの特典もあるとい われています。

ゴマ信用の点数の高さが社会的なステータスになっているともいわれ、点数アップに躍起になる人も現れました。これこそ、キャッシュレス社会がもたらす大きな変化といえます。

キャッシュレスで得する
岩田昭男(いわた あきお)
消費生活ジャーナリスト。NPO法人「消費生活とカード教育を考える会」理事長。 1952年。早稲田大学第一文学部卒業、同大学院修士課程修了。月刊誌記者などを経て独立。流通、情報通信、金融分野を中心に活動する。クレジットカードについては30年にわたり取材を続けている第一人者で、「岩田昭男の上級カード道場」で情報発信を続けるほか、All About(オールアバウト)の「クレジットカード」のガイドを務めるなど、幅広く活躍中。おもな著書に『Suicaが世界を制覇する』(朝日新書)など多数。 ※画像をクリックするとAmazonに飛びます