(本記事は、岩田昭男氏の著書『キャッシュレスで得する!お金の新常識』=青春出版社、2018年7月15日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

「借金」を嫌う国民性

これまで、日本人の現金信仰は根強いものがあると感じてきました。

小切手が広く使われていたアメリカなどとは違って、キャッシュ(現金)大国の日本に クレジットカードをそのまま導入しても、誰も使わない……。

そこで利子をつけずに1回払いで「非常にお得ですよ」と信販売会社は宣伝したものの、顧客は増えませんでした。「借金になるから」というのがその理由です。

クレジットカードを利用してから実際に引き落とされるまで、一括払いの場合は最長で約 60日弱あります。これをユーザンス、あるいはグレースピリオドといいます。

本来はあなたが自由にできる優雅な期間、返済の猶予期間といった意味です。

ある講演会で、このユーザンスの話をしたことがあります。

「こんなに長い間、支払いを猶予してもらえるんですよ」と話しても会場は一向に盛り上がりませんでした。話し終えたあとの参加者は、「そんなに長い間借金をしていたら、返せるものも返せなくなるからいやだよ」といっていました。

クレジットカードを持ちたがらなかった本当の理由

キャッシュレスで得する
(画像=slyellow / Shutterstock.com)

こうした日本人の国民性もあって、クレジットカードの市場はなかなか大きくならなかった。「敵は本能寺にあり」ではないが、われわれにとって共通の敵は「現金」ではないか、というカード会社同士の共通認識がクレジットカード業界の中に生まれました。

クレジットカードを持つ歯止めが利かなくなり、最後はカード破産に至るなど、そんなことが、クレジットカードの問題点として指摘されることがあります。

こうしたクレジットカードの負の部分が、普及を阻んでいたということもあるのかもしれません。

日本ではお金を汚いもの、不浄なものと考える人も多く、クレジットカード会社=金貸しというイメージがいまだにあります。

この2つが組み合わさって、信販会社といっても所詮は金貸し、そこから借金をするなんてとんでもないことだという考えを持っている人がいまでも多くいます。

日米欧の金融資産構成比較に見る、日本人の現金志向

クレジットカード社会のアメリカは“先楽後憂”です。

たとえば引っ越しとなると、後先考えずにクレジットカードで新しい家具などを欲しいだけ買いそろえ、リボルビング払い(毎月一定額を支払う返済方式)なので全部でいくらになるかなどは気にしないのです。

日本人は手元にあるお金や貯金などがいくらかを考えた上で最小限必要なものだけを買います。

ここに両国民のお金の考え方には大きな違いがあります。日本人は現金がなければ安心できない。よくいえば堅実なのです。

日本人とアメリカ人のお金に対する考え方の違いは、日銀の統計「資金循環の日米欧比較」(2017 年8月18日)にもはっきりと表れています。

日本は金融資産の半分以上(51.5%)が現金・預金なのに対して、アメリカの現金・預金は13.4%でしかありません。ユーロ圏の国でも現金・預金の割合は日本に比べるとかなり少ないです。

アメリカは資産の半分近くを株式などの投資に振り向けていますが、日本は15%そこそこで、欧米に比べて“現金志向” が際立っています。

こうした国民性も、キャッシュレス化が進まない要因のひとつであることは間違いありません。

地域で変わるキャッシュレスの浸透度

西と東、都会と地方ではクレジットカードや電子マネーに対する考え方に違いがあります。東京、千葉、神奈川、埼玉の首都圏はキャッシュレスが最も進んだ先進地域です。

講演の最初に、会場に来ている方に「どんなカードをお持ちですか」と必ず聞くと、大阪ではあまり手を挙げる人はいないが、東京や埼玉のときはたくさんの人たちが競って手を挙げます。

とくに電子マネーに対する反応が強く、なかでもSuicaやPASMOといった交通系電子マネーの名前はよく挙がります。

定期や切符の代わりに毎日使っているので身近だからよく知っているのです。

主婦はnanacoかWAONを持っていることが多いです。近くにイトーヨーカドーがあればたいていnanacoを持っているし、イオンの店があればWAONを持っています。

こういう状況なので、首都圏ではキャッシュレスといえばすぐにピンときます。SuicaやPASMOの普及のおかげ、とくにSuicaの影響は大きいです。

地方の人はSuicaのような圧倒的な強さを持った電子マネーがなく、まだあまり身近に感じていないため、キャッシュレスといわれても地方では半信半疑のところがあります。

地方にも根づきはじめたキャッシュレス生活

しかし、地方にもキャッシュレス生活が少しずつ根づきはじめています。

2010年くらいから電子マネーのメリットやキャッシュレス化について話す時間が増えました。

ちょうどそのころ、静岡県富士市で地域のみなさんに話す機会がありました。

会場に来てくださった女性がとても元気に見え、なぜだろうと思って話を聞いてみると、郊外にイオンのショッピングモールができてWAONが使えるようになって便利になった、それがうれしいのだといいます。

それから、家計の節約にもなるといいます。

給料日に次の月に使うお金をWAONに移しておく、いわゆる袋分けのやり方で、必要なお金を別の財布に分けておくと、家計を上手にやりくりできて赤字になることもなく、助かっているといいます。

これを聞いて私も驚きました。クレジットカードはちょっと大きな買い物に使うので、日常生活からは少し遠い感覚があるツール。

電子マネーは毎日の買い物や通勤にこまめに使うので身近な感じがします。

それで一生懸命に自分で使い方を考え、電子マネーが地域の人々の生活の中にしっかり根づいているのです。

これから日本のキャッシュレス化がどのように進んでいくかは、こうした日本各地で暮 らす人々が自分の暮らしにどれだけキャッシュレスの決済手段を取り入れていくかによっ て大きく変わってくるでしょう。

キャッシュレスで得する
岩田昭男(いわた あきお)
消費生活ジャーナリスト。NPO法人「消費生活とカード教育を考える会」理事長。 1952年。早稲田大学第一文学部卒業、同大学院修士課程修了。月刊誌記者などを経て独立。流通、情報通信、金融分野を中心に活動する。クレジットカードについては30年にわたり取材を続けている第一人者で、「岩田昭男の上級カード道場」で情報発信を続けるほか、All About(オールアバウト)の「クレジットカード」のガイドを務めるなど、幅広く活躍中。おもな著書に『Suicaが世界を制覇する』(朝日新書)など多数。 ※画像をクリックするとAmazonに飛びます