(本記事は、二神雅一氏の著書『思考のリミッターを外す「非常識力」 日本一不親切な介護施設に行列ができる理由』ユサブルの中から一部を抜粋・編集しています)
これからの日本で私たちはどう生きるべきか
「地域包括ケアシステム」という言葉をご存知でしょうか。約800万人の団塊の世代が75歳となる2025年は、国民の3人に1人が65歳以上、5人に1人が75歳以上という「超・超高齢社会」になり、医療や介護の需要は今よりさらに高まり、社会保障費の急増が予想されています。これがいわゆる2025年問題です。
国は、この問題を「地域包括ケアシステム」という仕組みを構築することで解決を図ろうと、様々な法整備や改革を推し進めてきました。
一言で言うと、たとえ重度の要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援ができる包括的な支援・サービス提供体制を作ろうということです。
そう聞くと、「素晴らしいケアシステム」のように聞こえるかもしれませんが、実のところ、この成否は我々の意識改革、覚悟にかかっていると言っても過言ではありません。
これから先、どのように生き、どこでどのように死んでいくのか。まさに生き様・死に様を自分で決める必要も出てくるのです。
これまで、病気や介護などの問題は、国全体で支えるという考え方のもと、「国民皆保険制度」(1961年)が整備されてきました。しかし、この制度が作られたときには、これほどにまで高齢化の進行や病気や介護の中身が多様化していくことが、あまり想定されていませんでした。
今や日本は、社会保険制度ができた当時の社会構造とはまったく違う世界へと変化してしまっています。当然、当時の社会保障の仕組みがそのまま通用するはずがありません。社会保障費が足らない、制度の存続が危ない、という状況になっているのです。
これまで、社会保障政策は国によってすべてがコントロールされていました。しかし、制度に必要な資金が欠乏したことで「国はもう面倒見きれなくなりました。これからは自分たちで何とかしなさい」と地方の自治体に投げてしまったのです。それが「地域包括システム」の実態です。
これまでの国の保険制度を利用して一律一様に守ってもらえた仕組みから、地域の特性に応じて、地域住民も一体となって、互いに支え合う仕組みを構築していかないといけなくなったのです。
「非常識力」が理想の未来をデザインする
さて、国は「地域包括ケアシステム」の構築に関わる法整備などの準備を着々と進め、2025年ももう目前に迫ってきました。
しかし、何とか乗り越える目処をつけたのも束の間、ようやく見えた峠の先に、新たに厄介な峰が大きくそびえ立っていました。それが2040年問題です。
高齢者人口がピークに達し、約4000万人になります。85歳以上が高齢人口の3割を占め、「高齢者の高齢化」が進み、困窮化、孤立化、認知症などの問題が深刻化します。
必要とされる社会保障費は今より1.6倍になると推計され、一方で、支える側となる現役世代は2040年までに約1000万人近く急減します。これによって世代間不均衡が極限に達します。
さらに、我々の医療・介護業界は深刻な働き手不足になります。2040年に必要とされる医療・介護の担い手は、約1060万人になる見込みで、今より200万人以上も足らないのです。
労働人口が急減する時代にあって、我々の業界だけ200万人も増やせるとは到底考えられません。現在、すでに介護施設を新築したけれども職員が採用できずにオープンできない、という事例があちこちで起き始めています。
これまでの問題は、急激な高齢化によって増える社会保障費の急増、それによってお金が足りなくなるというものでした。今後は、たとえお金があったとしても医療や介護の担い手の不足によってサービスが受けられなくなるという問題が生じてくるのです。
少し暗い話になってしまいました。
ちょっと視点を変えて「高齢社会」を見てみましょう。
図1をご覧ください。高齢世代の人口比率を表すものです。これまでは確かに高齢者の人口が急増していましたが、今後は高齢者の数はそれほど増えないことがわかります。高齢化率が高まってくる原因は、若い世代の減少によるものだということが見えてくるでしょう。
図1
私たちは長寿を願い、衛生環境や栄養状態、医療を進歩させてきました。こうした環境が整ってくると社会は必ず高齢化します。人生100年時代を想定し、人口が安定する社会になったときの高齢化率は、40%程度で推移していく形がスタンダードになります。今は、私たちが目指してきた長寿社会に成熟する前の大変革期にいると言えるのではないでしょうか。
図2を見れば、その変化の様子がわかると思います。
図2
また、その変革期を乗り越えれば、人口構造は一定の割合のまま長く続いていくことが見て取れます。
つまり、この人口構造に合った社会を創り上げることができれば、この先、100年、理論上では1000年先も安定した社会が続くということになります。
高齢社会と言えば、高齢者ばかりがあふれた暗い未来を想像しがちですが、そうとは限らないのではないでしょうか。
見方を変えれば、その常識を打ち破る新しい「非常識力」を発揮し、理想の未来をデザインできる可能性があふれているとも考えられます。そして私は、そこに喜びとワクワクを感じます。
例えば、地域包括システムは、構築するための法整備が整ったとはいえ、まだ構築されたわけではありません。
国は地方自治体に投げたと述べましたが、逆の見方をすれば、これまでの一律一様の制度の枠にとらわれず、地域の特徴を生かした社会保障の仕組みづくり、街づくりに参画し、挑戦することが可能になったとも考えられます。
不足する医療・介護の労働力を補い、業務効率を上げるのにIT・AI・ロボットなどの分野も大いに活躍が期待されます。健康寿命を延ばすことで社会保障の負担を減らせるような、新たなヘルスケア産業も脚光を浴びるでしょう。
高齢者が3分の1を占める人口構造の中、しかも人生100年の時代が来ようとしている現在、「65歳で引退して悠々自適の年金暮らし」というのは現実的ではありません。むしろ、「高齢者」の概念や「就労」の価値観を変えるような──例えば、故・堺屋太一氏が提唱していた「年金兼業型労働」なども、一般的なものになるかもしれません。
人口遷移論の65歳以上のラインを、70歳~75歳に引き上げると、さらに安定した構造に見えてくるのではないでしょうか。
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