(本記事は、二神雅一氏の著書『思考のリミッターを外す「非常識力」 日本一不親切な介護施設に行列ができる理由』ユサブルの中から一部を抜粋・編集しています)

高齢者の退行現象を促進するふたつの問題

退行現象
(画像=wavebreakmedia)

医療体制の問題、リハビリに対する過度な依存に続く寝たきり問題の3つ目は、介護領域の問題です。

2000年に介護保険ができました。これにより、「介護問題を社会全体で支援・解決しよう」という方向性が打ち出されました。

では、介護保険施行以前はどうだったか?

福祉の制度内で介護は行われていましたが、充分なものではなく、主に女性が担っていたのです。特に「妻や娘。息子の嫁の仕事」のように考えられていました。核家族化によって多少は薄らいでいると言え、今もこの価値観は色濃く残っていると思っています。

例えば、夫の両親のどちらかが倒れたとします。その場合、介護をするのは息子の嫁であることがほとんどでした。

倒れた両親と同居している場合は特にそうですが、お嫁さんは甲斐甲斐しく倒れた人を介護します。部屋を掃除し、食事を作り、体を拭き、動作を介助し……すると「できた嫁だ」と喜ばれます。

しかも、やればやるほど“いい嫁”度はアップしていきます。両親だけでなく近所からも認められ、充足感と存在価値が高まります。

さらに、お嫁さんは過去に育児の経験があったりもします。あとで説明しますが、介護には育児の経験が通用してしまう部分があり、お嫁さんはますます献身的にお世話をするようになります。当然、いい嫁度もさらにアップします。

一方、倒れた人の側で考えてみましょう。

一般的に、体に不自由が発生すると、人間は体だけではなく精神的にもダメージを受けます。それまで何でもできていた自分を100とすると、今の自分は全盛期の60%や40%くらいの人間だと思うようになってしまいます。

精神的ダメージは避けられないものなので、無意識に自分を守る防衛本能が働きます。急に甘えるようになったり、わがままになったり、「自分にはできないんだから助けてくれて当然じゃないか」と依存的な考え方になります。それが「退行現象」と言われるものです。

こうした「退行現象」に、先ほどの「できた嫁」が登場すると、お嫁さんには「自分がやらないと」という使命感と、女性特有の「母性」がありますから、必然的に介護される側の退行現象と結びつき、ここにも共依存の関係が生まれてしまうのです。療法士とのケースとは立場が違うだけで、同じ種類のものです。

依存の反対語は「自立」です。この共依存関係が続けば、自立とは真逆に、お互いが進んで依存関係をエスカレートさせるようになり、自然と介護される側はできることがどんどん減っていき、寝たきり状態に近づいていくのです。

私が「これではいけない」「こんなところに自分は通いたくない」と考えた、一般的なデイサービスやデイケアという通所型の介護サービス。前述したように、その内容はまるで園児たちが喜びそうな内容ばかりです。

これらのサービスを提供している根拠は、いったい何でしょう?

なぜ、通ってくる高齢者たちに歌を歌わせたり、子どもが喜ぶような飾りつけで所内を彩る必要があるのでしょうか?

このようなことになってしまった背景には、デイサービスの職員に、保母さん(今の保育士)の資格を持つ女性が多かったことが挙げられます。

介護士の資格は比較的新しく、以前の老人ホームなどの介護施設は保母さんたちが働き手となって支えていたのです。確かに、介護経験はないけれども育児の経験を持つ女性も「お世話をする」という観点で見れば介護もできそうな気がします。

しかし、経験則を持って自分でやる方法を知っている高齢者と、これからそれを学んでいく乳幼児とはまったく違うのです。ところが、寝たきりになったり認知症になった高齢者に対して「赤ちゃん返り」と称してお世話をする光景は、とても違和感があります。

それを象徴するように、自分よりも遥かに年上の高齢者を「〇〇ちゃん」とか、あだ名で呼んだりするひどい対応もよく見かけます。

これはあくまでも私の仮説ですが、介護保険制度以前からこうした女性たちが、決して悪気があったわけではなくても、育児の延長とも思えるようなお世話型介護を蔓延させてしまったことが今の介護施設の原型だと考えています。そして、そこに病的退行によって依存を起こした高齢者がピッタリとマッチしてしまい、さらに助長してしまった。

私は女性の仕事を軽視したり、これまでの努力を否定するつもりは毛頭ありませんが、前述の「できた嫁的サービス」や保育的な「お世話型介護」は、お互いの依存によって寝たきりを助長しているように思えるのです。

「過剰なサービス」が寝たきり高齢者を作る

4つ目の問題として、もう少し“人”の部分を深掘りしてみます。

介護保険制度が誕生してから、民間の営利法人でも介護サービスを提供できるようになりました。ここの問題点は次に触れるとして、サービスを受ける側がまったく意識せずに寝たきりの道を進んでしまっていることも、問題のひとつとして挙げられます。

現状の介護保険制度では、認定を受けた人は本人の要介護度に合わせた介護サービスを一部自己負担で受けることができます。そのときに、どんなサービスを受けるべきか、本人では判断がつかないことをプラン立ててくれる専門家がいます。

それが「ケアマネジャー=介護支援専門員」です。

本来であれば、ケアマネは利用者さんの介護度合いと本人の状態を見て望ましいプランを提案する役割を果たす仕事です。しかし一部の優秀な人を除いて、多くのケアマネがただの“御用聞き”になってしまっている現状があります。

そして、この御用聞きの状況を助長しているのが利用者さん側の意識の問題でもあるのです。

介護保険サービスは契約サービスで、利用者さんは基本的に介護保険料を払い、サービス利用の際は(1〜3割の)自己負担額を払います。つまり、お金を払ってサービスを買っているのです。そのときに消費者としての「権利意識」が生まれます。要するに“お客さま”になるのです。

自分には保険を使う権利があり、サービスを選択する権利がある。

確かに、ケアマネが立てたプランを決定(採用)するのは利用者さんです。法的にも決定権は利用者さん側にあります。利用者さんが「もっと追加してほしい」と言えば、ケアマネはなかなか逆らいづらいですし、それでも仕事としては成立してしまうのが現状です。

本来ケアマネは、利用者さんの要望に対して、課題を解決するための複数のプランを提示して、どのプランを選択すればどういうことが起きると予測できるのか(予後予測と言います)を伝えて、利用者さんに的確な自己決定を促すことが必要なのです。

こうしたことを考えずに、要望を聞き入れてプランを立ててしまうと、それはもうただの“御用聞き”でしかなくなるのです。

問題はケアマネだけに原因があるのではありません。お客さま化した利用者さんの意識にも問題があります。

例えば、お風呂に入れてもらう入浴サービスがありますが、今は苦労してでも自分で入れるのに、サービスに頼ってその状態に慣れてしまうと、やがて自力では入れなくなってしまいます。それを想像できていないのです。

お金を払っている人間として、少しでも楽になるオプションを追加してしまう。それが本当に必要ならいいのですが、過剰に楽な道を選んでしまう。結果、知らず知らずのうちに(ケアマネと利用者さん+事業者)が寝たきり高齢者を作ってしまうのです。

食べ放題でついつい料理を取り過ぎてしまうのと同じです。料理を取り過ぎてたくさん食べてしまうことが肥満や成人病につながるとは思い至らないのと同じように、寝たきり高齢者や認知症になるかもしれないという事態をまったくの“他人事”だと思ってしまっているのです。

確かに経験のないことを利用者さんが想像することは難しいものです。しかし、プロであるケアマネはそうなってしまうことを予測できなければなりませんし、職業上、知っているはずなのです。知っているのであれば、否定されてでも事実を伝えきる努力をするべきです。その義務を果たしてこそ真のプロと言えるのではないでしょうか。

「いい嫁サービス=いいサービス」の勘違いが生む弊害

介護事業者として、ここまで外部に「寝たきり大国ニッポン」の責任を押しつけてきましたが、5つ目の問題点は、私たち介護事業者の責任です。

2000年4月に介護保険制度がスタートした瞬間から、介護業界は“戦国時代”に突入しました。制度を国中に行き渡らせるために、民間の営利企業へ一斉に介護事業が開放されたからです。

制度施行以前も行政から民間企業へ委託されているところはありましたが、その数ではとても対応しきれないと考えたのです。それよりは最初から開放して市場原理を活用し、たくさんのサービスを競争させて、世間から選ばれる会社になってもらう──戦国時代と言うのも、あながち間違いではないと思っています。

ただ当時の記憶を辿ってみますと、介護保険のスタート直後から、前述の「いい嫁型」「お世話型」そして、何でもして差し上げる「御用聞き型」の介護事業者が一気に増えました。

加えて本人以外(家族)の食事を作る、本人には関係のない場所を掃除する、などまるで介護保険の財源を使って家政婦を派遣するような、至れり尽くせりな介護サービスをアピールする事業者まで現れたほどでした。

私はちょうど自社を株式会社創心會へと組織変更し、いよいよ本格的に介護にリハビリを取り入れたサービスを提供し始めたころで、こうした周りの状況をとても危惧していました。これでは、寝たきり高齢者を大量に作りかねない。しかも、本来の保険制度の目的から外れてしまっていました。

そしてやはり、これはすぐに問題になりました。右記のことを国は「不適切な介護」として1年目から問題視したのです。

繰り返しお伝えしていますが「いい嫁型」「お世話型」「御用聞き型」サービスは、そのときは楽でも習慣化すれば高齢者の機能低下、果ては寝たきりに直結します。にもかかわらずそのようなサービスが増えたのは、介護制度の仕組みも関係していると考えられます。

利用者さんの要介護度が上がる(=もっと介護が必要な状態になる)と、同様のサービスを提供しても必然的に介護報酬が上がります。事業者の売上は介護報酬なので、利用者さんの要介護度が上がったほうが儲かってしまう仕組みになっているのです。

まさか、同業の方が儲けるために利用者さんをわざと悪化させるようなことはしていないでしょう。しかし、仕組み上では良くするためのインセンティブが働かなくなってしまっているのも事実です。だから、こうした課題を解決しようとする方向になかなか関心が向けられないのではないかと思うのです。

事業者は選ばれるために至れり尽くせりを提供し、利用者さんは楽になるのでそれを選んでしまう。結果的に「選ばれやすいサービス=いいサービス」という勘違い意識が生じ、自立支援とは真逆な介護サービスが横行し、結果として寝たきり大国が加速してしまうのです。

思考のリミッターを外す「非常識力」 日本一不親切な介護施設に行列ができる理由
二神雅一(ふたがみ・まさかず)
株式会社創心會(そうしんかい)代表取締役、作業療法士、介護支援専門員。1965年、兵庫県西宮市生まれ。中学より松山市で育つ。愛媛十全医療学院・作業療法学科を卒業。後、作業療法士として香川県と愛媛県の病院で4年間勤務。その後、訪問リハの会社などに転職し、30歳で独立。岡山県倉敷市にて「創心会在宅ケアサービス」を設立する。介護保険制度が開始された2000年に「株式会社創心會」に組織変更。

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