ADB
(写真=PIXTA)

ADBとAIIB--。経済ニュースから流れてくるのを、見聞きしたことがある方もいるのではないでしょうか。

ADBは「アジア開発銀行(Asian Development Bank)」、AIIBは「アジアインフラ投資銀行(Asian Infrastructure Investment Bank)」のことです。

どちらの名前にも「A=アジアの(Asian)」、「B=銀行(Bank)」が含まれており、似たような名前ですが、いったいどこが違うのでしょうか。

AIIBの設立背景には世界銀行とIMF(国際通貨基金)の存在がある

ADBの設立目的は、アジア・太平洋における経済成長および経済協力を助長し、開発途上加盟国の経済発展への貢献です。一方のAIIBの設立目的も、アジアの発展途上国へ融資しインフラの整備を支援することです。

1966年に設立され、日米が主導するADBに対し、AIIBは2014年に中国の主導で設立されました。なぜ中国は、ADBと似た目的を持つ機関を新たに設立したのでしょうか。

1つには米国主導の既存の国際金融システムに対抗する機関を創設するためだと言われています。米国が世界の覇権国家となったのは、世界銀行とIMF(国際通貨基金)を中核とした国際金融システムを中心的に構築したことも大きく関係しています。

米国の世界への影響力は、新興国の台頭、多極化の進行にともなって弱まってきています。AIIBの創設は、多極化を象徴する出来事として見ることもできます。

ADBの融資スピードは遅い?AIIBは迅速な融資を目指しているが・・・

中国がAIIBを設立したもう1つの理由として、ADBの融資スピードが遅いことが指摘されています。

ADBは融資する際には査定が厳しいと言われています。例えば、返済力や事業が環境に悪影響を与えないか否かなどのチェック項目を厳しく審査しており、そのために融資までに1年半以上もかかることがあるようです。

中国主導のAIIBは、ADBよりも早く資金を貸し出すことで、アジアのインフラ整備需要にスピード感を持たせ、機動的に対応しようとしていると考えられていますが、実際はAIIBの融資案件は中国が推進している案件への融資が中心となりそうです。

現在、中国はシルクロード開発、「一帯一路」構想を推進しており、この計画を迅速に遂行していくためには中国が主導権を握るAIIBによる融資が必要になると考えられます。

実際、AIIBの最初の単独融資案件はこの「一帯一路」構想の重点地域であるバングラデシュの送電網整備事業となっています。

日本や米国は、AIIBへの参加に慎重?

これまで日本や米国はAIIBへの参加に慎重な態度を示してきましたが、その理由として、中国の影響力が強く反映された組織であること、さらに組織運営や意思決定の過程が不透明なことが挙げられています。

しかし、日本がこのままAIIB不参加であるならば、アジアでのビジネスチャンスに乗り遅れるのではないかという産業界からの心配の声もあります。またAIIB側としても、日本がAIIBに参加するならばAIIBの信用力の向上にもつながり、日本が持つ国際開発金融のノウハウも得られるため、参加を歓迎する態度を見せています。

米国に関しては、これまでの方針から転換する可能性があります。
次期大統領のトランプ氏の政策顧問によると、トランプ氏の大統領就任後にAIIBに参加する可能性があると語っています。

日本がADBにこだわる理由とは

安倍首相は、官民の資金を総動員しアジア地域での良質なインフラ開発を促進する構想を発表しています。日本とADBの支援額を現在より30%増やし、今後5年間で1,100億ドル(約12兆円)にするというもので、これはAIIBに対抗する意思を読み取ることもできます。

ADBは国際金融機関であるのに、なぜ日本はここまで影響力を保とうとするのでしょうか。それは日本が世界銀行やIMFを取り仕切っている米国の同盟国であり、アジアにおける国際的な発言権を維持したいと考えていることがあげられます。

ADBは67加盟国・地域からなり、うち48がアジア・太平洋の国・地域である中で、日本は最大の出資国です。出資比率は2015年12月末現在で15.624%となっており、出資比率2位は米国となっています。歴代総裁は全員が日本人であることも、ADBにおける日本の影響力の大きさを物語っています。

今後は協調・補完路線を目指すか

今後アジアのインフラ整備には莫大な資金が必要となると予想され、ADBとAIIBが協調して融資していくことが求められていくでしょう。

2016年6月、ADBとAIIBは、2016年6月に、パキスタンの高速道路建設に対して協調融資を行うことを決めています。

このように、ADBとAIIBが政治的な思惑や対立を乗り越え、補完関係を構築しながら、アジアの一層の発展に貢献できるかが今後のポイントではないでしょうか。(提供: お金のキャンパス

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