トランプ大統領,インフラ投資
(写真=Olya Steckel/Shutterstock.com)

トランプ氏は選挙公約として、今後10年間で1兆ドルのインフラ投資拡大を主張してきた。具体的な投資先などは明らかにされていないが、老朽化した交通インフラをはじめ投資拡大への期待が高まっている。

米国の交通・水道インフラに対する公的支出額(2014年)は、4,160億ドル(GDP比2.4%)となっており、物価を調整した実質ベースでみると2003年をピークに減少基調となっている(図表1)。インフラ投資の予算が削減された結果、必要な補修費用も捻出できていない状況となっており、公共インフラの「質」の低下が問題視されている。

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実際、世界経済フォーラムが発表する国際競争力ランキングのうち、インフラに関するランキングで米国は11位と、主要先進国の中で低い順位に留まっている(図表2)。このため、国際競争力を維持する観点からも、産業界を中心にインフラ投資の拡大を求める声が根強い。

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トランプ氏の主張するインフラ投資は、年間平均1,000億ドル(GDP比0.5%)が見込まれていることから、現在の交通・水道インフラの公的支出額の2割超に相当する規模となる。さらに、金融危機後の景気対策として実施された公共投資支出は、2009年からの5年間で2,700億ドルに上ったが、最も支出額が大きかった2010年でも1,000億ドルを下回っており、その規模の大きさが分かる(図表3)。

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インフラ投資は、短期的な需要増加に加え、長期的な成長率を押上げる効果が期待されている。金融危機時に実施された経済対策とその効果に対する分析結果は、公共投資支出が個人や法人に対する減税などに比べて乗数効果でみた短期的な経済効果が最も高いことを示している(図表4)。さらに、インフラ投資は、インフラの効率的な活用を可能とすることから、生産性の改善が見込まれ、長期的な成長率を押上げる効果も期待できる。実際、IMFは米国に対して、潜在成長率を押上げるためにも、インフラ投資を拡大すべきとしている。

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オバマ政権は、これまで2年連続で議会に対して大幅なインフラ投資拡大を求めたものの、共和党が過半数を占める議会は、財源問題などを理由に規模を大幅に縮小させてきた経緯がある。今回、共和党のトランプ氏が大統領に選出されたことで、民主党の大統領より議会との調整がスムーズに行くとの楽観的な見方もでている。もっとも、インフラ投資拡大に伴い財政状況の大幅な悪化が見込まれる場合には、財政均衡を目指している議会共和党の賛同を得ることは難しいだろう。

一方、トランプ氏のインフラ投資計画は、未だ不透明な部分が大きいものの、同氏の側近で次期商務長官への就任が決まっている投資家のウィルバー・ロス氏などが中心となって10月にまとめたインフラ投資案では、税制優遇策によって民間資金を活用することに加え、成長率の加速に伴う税収増によって、財政赤字を増加させることなくインフラ投資の拡大が可能としている。

しかしながら、財政赤字が増加しないとの楽観的な見通しに対する懐疑的見方は多い。さらに、インフラの利用料が見込める有料道路や空港・港湾などでは、民間資金の活用が期待できるものの、利用料が徴収できない一般道路の補修費用などをどうやって捻出するのかと言った疑問の声も聞かれる。トランプ氏がどのようなインフラ投資の具体策を提示してくるか、その動向が注目される。

窪谷浩(くぼたに ひろし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 主任研究員

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