あまり知られていないかもしれませんが、実は日本マクドナルドホールディングスやサッポロホールディングス、松竹などの大企業が不動産事業で売上をあげています。今回は、これらの企業の実態に迫るとともに、不動産事業が本業を補てんするリスクヘッジとして適している理由や、隠れ不動産会社の見つけ方を解説します。

目次

  1. 1. 実は不動産事業で儲けている企業5選
    1. 1-1. 日本マクドナルドホールディングス株式会社
    2. 1-2. サッポロホールディングス株式会社
    3. 1-3.松竹株式会社
    4. 1-4.日本郵政株式会社
    5. 1-5.富岡製糸場の経営母体・片倉工業株式会社
  2. 2.老舗企業にひそむ隠れ不動産会社
    1. 2-1.出版社
    2. 2-2.鉄道会社
    3. 2-3.新聞社
    4. 2-4.テレビ局
  3. 3.隠れ不動産会社の見つけ方
    1. 3-1.決算短信
    2. 3-2.会社四季報
    3. 3-3.隠れ不動産会社に投資するメリット
  4. 4. 不動産賃貸業が大企業のリスクヘッジに適している理由
  5. 5. 不動産投資が本業のリスクヘッジになるのは会社員も同じ

1. 実は不動産事業で儲けている企業5選

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(画像=Ken Felepchuk/Shutterstock.com)

大手不動産会社といえば「三井不動産」「三菱地所」「住友不動産」などがあげられるかと思います。しかし、それらの会社以外にも不動産事業で収益をあげている企業があるのです。本業が不振でも不動産事業の収益が下支えすることもあり、土地持ち企業の業績動向には注目すべきものがあります。そんな土地持ち企業のなかから、不動産事業に特色を持つ5社を紹介します。

1-1. 日本マクドナルドホールディングス株式会社

コロナ禍のなかでも外食産業の勝ち組といわれるマクドナルドには、直営店の他に「フランチャイズ店」があります。フランチャイズ店からの収入としては、以前は「ロイヤリティ(売上の一部)」しかありませんでした。利益が大きくなった理由のひとつに、土地を取得してフランチャイズオーナーに貸す不動産事業を主軸にするようになったことも挙げられます。

マクドナルドの2020年12月期貸借対照表を確認すると総資産は約2,330億円です。そのうち有形固定資産の合計が約916億円で固定資産が総資産の約39.3%を占めていることが分かります。比較対象としてモスバーガーの母体である株式会社モスフードサービスの2021年3月期第3四半期貸借対照表を確認すると、総資産約649億円に対して有形固定資産は約109億円であり固定資産の割合は総資産の約16.8%です。

日本マクドナルドホールディングスの2020年12月期の業績は、売上高が2,883億3,200万円(前年同期比2.3%増)、当期純利益が201億8,600万円(同19.6%増)と好調です。同社の今期時点の土地資産は193億8,600万円で、前年度同期比6%増加しています。

1-2. サッポロホールディングス株式会社

サッポロビールで有名なサッポロホールディングスも、実は不動産事業で利益をあげている企業の一つです。2020年12月期のセグメント別情報を確認すると、売上収益4,347億2,300万円のうち酒類事業や食品・飲料事業の売上収益は4,112億8,800万円でした。不動産事業の売上収益が232億6,200万円で、不動産事業の占める割合は約5.7%です。不動産事業の比率はそれほど高いわけではありません。

ところが、各セグメントの営業利益を見ると状況は一変します。新型コロナウィルスによる飲食店時短営業の影響を受け、酒類事業が48億6,100万円の赤字、食品・飲料事業が169億2,100万円の赤字と大きく落ち込んだのに対し不動産事業は118億9,200万円の黒字となり、ほかの事業の営業赤字を半分程度補う結果となりました。

1-3.松竹株式会社

映画や演劇の制作・興行を手掛ける松竹も不動産事業によって大きな利益をあげています。2021年2月期第3四半期の決算短信によると、映像関連事業と演劇事業の売上高は新型コロナウィルス感染防止対策による入場制限の影響もあり、映像関連事業が226億4,000万円(前年同期比46.1%減)、演劇事業が44億800万円(同79.4%減)と大幅に落ち込みました。一方で不動産事業の売上高は88億7,000万円をあげ、前年同期比1.9%増と堅実な決算となっています。コロナ前は売上高に占める不動産事業の割合は低い数値でしたが、全体の売り上げが落ち込んだことにより、32.7%まで上昇しています。

また、セグメント利益では、映像関連事業が21億4,500万円の赤字、演劇事業が27億1,700万円の赤字に対し、不動産事業は40億8,300万円の黒字となりました。赤字部門のマイナスを84%程度補い、業績の下支え効果を大いに発揮しています。

1-4.日本郵政株式会社

日本郵政グループは2018年に日本郵政不動産を設立しました。グループの不動産事業を専門的に行う会社で、保有する膨大な不動産をどのように活用するか今後の展開が注目されています。日本郵政グループの不動産事業営業収益は、2017年度285億円、2018年度330億円、2019年度350億円とうなぎ上りで伸びています。今後2023~2025年にかけ、東京・大阪・名古屋の大都市圏を中心に再開発計画を予定しています。自社保有不動産の開発事業のほかに、共同事業参画のための収益物件の取得も行い、第2の収益柱に育成したい考えです。

1-5.富岡製糸場の経営母体・片倉工業株式会社

老舗の繊維メーカー片倉工業は、世界遺産に認定された富岡製糸場の経営母体としてクローズアップされています。繊維業はかつて日本の基幹産業でした。メーカーは広い工場用地を保有していますが、多くは地方にあるため、あまり不動産が注目されることはありません。

そのなかで片倉工業は繊維メーカーで首都圏に大規模な土地を保有している珍しいケースといえます。さいたま新都心にある商業施設「コクーンシティ」は同社の大宮製作所跡地の再開発計画によって建設されました。同社はコクーンシティの施設管理を行っています。同社の事業内容はすでに繊維メーカーから不動産と医薬品事業を柱として大きく変身しています。2020年12月期のセグメント利益では、繊維事業が2億7,400万円に対し、不動産事業は36億9,100万円と利益の大半を不動産で稼いでいるのが実情です。

2.老舗企業にひそむ隠れ不動産会社

社歴の長い老舗企業のなかには不動産を事業に活用している隠れ不動産会社が存在します。なかには不動産事業が会社の屋台骨を支えている企業もあり、改めて不動産を持つことの重要性を認識させる結果になっています。

2-1.出版社

出版社では、「週刊少年マガジン」の発行元である講談社が広告収入の減少を不動産事業で補っています。講談社の本社は東京都文京区音羽にありますが、風格ある本館ビルの並びに新館の高層ビルがそびえ立っています。2020年11月期の決算では、広告収入が55億2,200万円で前年同期比6.8%減少したのに対し、不動産収入は31億7,300万円で0.4%増加しています。講談社ではデジタル関連分野の売り上げが紙媒体を上回っており、時代の流れを感じさせます。やはり流行に左右されない不動産の収入は安定収益源として魅力的です。

2-2.鉄道会社

鉄道会社はいかにも土地を持っていそうです。しかも駅に隣接していればほとんどが駅前立地と考えられます。東洋経済オンラインが2014年に発表した「土地をたくさん持っているトップ500社」のなかで、鉄道会社は2位のJR東海を筆頭に、JR東日本(4位)、阪急阪神ホールディングス(9位)、西武ホールディングス(10位)、JR西日本(13位)、近畿日本鉄道(14位)、東京急行電鉄(16位)、東武鉄道(17位)と、上位20社のうち8社を占めています。

2位JR東海の2021年3月期第3四半期のセグメント利益を見ると、新型コロナウィルスの影響で業績は大きく落ち込みました。主力の運輸業は882億1,400万円の赤字、流通業は103億2,500万円の赤字と壊滅的な打撃を受けています。唯一不動産事業だけが115億1,900万円と黒字を確保し、流通業のマイナス分をカバーした形です。

2-3.新聞社

新聞社は全国紙であればかなりの歴史があります。例えば朝日新聞社の設立は1879(明治12)年です。
最近は新聞社も出版社と同じく広告収入は減少の傾向にあり、インターネット広告に押されているのが現状です。朝日新聞社の2020年4~9月期のメディア・コンテンツ事業の売上は1,242億2,500万円で116億1,300万円の赤字となりました。これに対し、不動産事業の売上は140億5,900万円で24億2,900万円の黒字を記録し、今では会社の屋台骨を支える存在になっています。

2-4.テレビ局

テレビ局はかつて広告メディアの中心でしたが、近年はインターネットに広告費で逆転されています。2019年のシェアはテレビが26.8%(衛星放送含む)に対し、インターネットは30.3%という数字になっています。東京キー局各社はテレビ事業の不振を不動産事業で補っている状態です。なかでも東京の一等地、赤坂に不動産を保有するTBSホールディングスは不動産事業への依存度が高くなっています。2021年3月期第3四半期におけるセグメント利益では、メディア・コンテンツ事業が50億2,900万円に対し、不動産・その他事業が62億9,000万円の利益を上げ、不動産で稼ぐ企業に変貌しています。

3.隠れ不動産会社の見つけ方

では、隠れ不動産会社を見つけるにはどのような方法があるのでしょうか。おもに2つの方法があります。

3-1.決算短信

決算短信は、上場企業が原則として3ヵ月に1回の割合で発表しています。決算短信にはセグメント別の営業概況が掲載されており、ここに「不動産事業」というセグメントがあれば不動産事業が一定の比重を占めている企業であることがわかります。さらに概況ページのあとには詳細な財務諸表があり、その次にセグメント情報が掲載されています。ここを見ると不動産事業が全体の利益に占める割合を計算することができます。

3-2.会社四季報

決算短信をピンポイントで見ていくのは手間がかかるという場合は、「会社四季報」でも調べることが可能です。各銘柄欄の社名の近くに「連結事業」という欄があります。ここに「不動産事業」と記載されていれば、不動産がセグメントになっていることを見て取れます。不動産事業を見つけたら、次にコメント欄を見ます。今期と来期の動向が掲載されていますので、不動産事業の現状や新たな展開があるかなどをチェックします。

3-3.隠れ不動産会社に投資するメリット

隠れ不動産会社に投資するメリットは倒産しにくいことです。新型コロナウィルスの影響で業績が悪化しても不動産事業が下支えし、赤字決算を不動産の売却で黒字化することもできます。歴史ある企業であれば、おおむね不動産の含み資産は大きいはずです。隠れ不動産の有無は株式投資の1つのヒントになるでしょう。

4. 不動産賃貸業が大企業のリスクヘッジに適している理由

経営が社会情勢に影響を受ける以上、必ずしも黒字が続くとは限りません。特に飲食店やエンターテイメント産業は、ニーズの変化や景気の影響をダイレクトに受けます。また材料費や人件費も常に変動しているため、なかなか一定の利益率を保つのが難しい側面があるのです。特に新型コロナウィルス感染症が流行して以降はその側面を強く感じた企業も多いでしょう。大企業は売り上げ規模が大きいため、経営環境が悪化した場合は赤字の規模も大きくなるという負の側面があります。

そこで必要になるのが、不動産事業によるリスクヘッジです。地代や家賃収入を得る不動産事業なら、ニーズの変化や景気の影響をダイレクトに受けず、安定収益を確保することが期待できます。また、不動産の管理にかかる費用は修繕計画などを立てておくことで、ある程度事前に予測することが可能です。収入や利益率があまり変動せず安定的に利益を確保できるのが、不動産事業の強みといえるでしょう。

5. 不動産投資が本業のリスクヘッジになるのは会社員も同じ

ここまで不動産で儲けている企業について見てきました。本業が時代の流れに左右されるのに対し、不動産が変わらぬ価値を持ち、企業業績を支えていることが改めて確認できました。

とはいえ、リスクヘッジとしての不動産投資は、大企業だけに許された専売特許ではありません。会社員や公務員などの個人であっても、本業のリスクヘッジとして不動産を保有するのは効果的です。終身雇用制が崩壊して久しい現代では、リスクに対して自分で備えておかなければなりません。会社の倒産やリストラといった事態に見舞われたとき、安定的な家賃収入を得られる不動産を保有していれば、自分や家族を守ることができます。

大企業の実例にならい、個人のリスクヘッジとして不動産投資を検討してみるのも1つの方法です。最近は会社に勤務しながら副業で賃貸経営を行う「サラリーマン大家」も増えています。不動産投資ローンを組んで購入すると毎月ローンの返済が生じますが、家賃収入と相殺できるため給与はいままでどおり生活費や貯金に回せます。ローンの支払いが終了すれば購入した物件は純資産になるので、家賃収入をそっくり貯金することもできます。老後の備えにもなる不動産投資は、個人のリスクヘッジには最適といえるでしょう。(提供:YANUSY

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