◆5月の人民元相場(対米ドル)は基準値・市場実勢ともに下落した。米国で早期利上げ観測が再浮上したことから、人民元は米ドルに対してじりじりと下落する展開となった。
◆人民元と他通貨が変化方向の面で同調する傾向は5月も続いた。中国人民銀行は、バスケット構成通貨に対する安定を重視しており、ユーロや日本円などの対米ドルレートの動きを参考にした為替レート調整を継続している。2月までとは値動きに明らかな相違が見られる。
◆6月の人民元(市場実勢)は、これまでのボックス圏(1米ドル=6.4~6.6元)を維持する可能性が高いものの、ボックス圏を下に抜けるリスクも否定できず、波乱含みである。
5月の動き
5月の人民元相場(対米ドル)は基準値・市場実勢ともに下落した。前回レポートでは「5月の人民元(市場実勢)は1米国ドル=6.4~6.6元のレンジで横ばい」と予想したが、米国で早期利上げ観測が再浮上したことから、人民元は想定したレンジ内ながらも米ドルに対してじりじりと下落する展開となった。
市場実勢(スポット・オファー、中国外貨取引センター)は、第一営業日(5/3)に付けた1米ドル=6.4990元が当月高値、最終営業日(5/31)に付けた同6.5910元が当月安値と月間安値引けで、前月末比1.7%の元安・ドル高となった。
他方、基準値も市場実勢とほぼ同様に、5/3に付けた1米ドル=6.4565元が当月高値、5/31に付けた同6.5790元が当月安値と月間安値引けで、前月末比1.8%の元安・ドル高となった(図表-1)。
なお、米ドルに対しては日本円の方がより大きく下落したことから、人民元は日本円に対しては上昇、5月末は前月末比1.9%元高・円安の100日本円=5.9246元で取引を終えた(図表-2)。
一方、世界通貨の動きを見ると、5月18日に米国で公表された4月の米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事要旨で早期利上げ観測が再浮上したことから、前月までの米ドル高修正の動きが一転して米ドル全面高の展開となった。
日本円は米ドルに対して前月末比3.5%下落、ユーロも同2.8%下落したほか、マレーシア(リンギット)が同5.4%下落、韓国(ウォン)が同4.4%下落するなど新興国通貨も軒並み下落した。こうした通貨環境下で、人民元は相対的に小幅な下落率に留まったため、米ドル以外に対しては人民元の割高感が増す結果となった(図表-3)。
また、人民元と他通貨が変化方向の面で同調する傾向は5月も続いた。中国人民銀行は、バスケット構成通貨に対する安定を重視しており、構成通貨の中でシェアの大きいユーロや日本円などの対米ドルレートの動きを参考にした為替レート調整を継続している。
図表-4に示したように変動性(ボラティリティ)こそユーロや日本円よりも小さいものの、変化の方向性はユーロや日本円と同調するようになってきており、2月までとそれ以降では値動きに明らかな相違が見られる。
今後の展開
さて、6月の人民元(市場実勢)は、これまでのボックス圏(1米ドル=6.4~6.6元)を維持する可能性が高いものの、ボックス圏を下に抜けるリスクも否定できず、波乱含みである。米国では3日に5月雇用統計、14-15日にはFOMCと、利上げの有無が最大の焦点となる。また、6-7日には米中戦略・経済対話、23日には英国で欧州連合(EU)離脱の是非を問う国民投票も控えている。
米雇用統計がコンセンサス並みの結果となり、英国民投票の結果を見極めるため米利上げが見送られることになれば、人民元はボックス圏を維持する可能性が高い。仮に英国のEU離脱が決まっても、英ポンドは米ドルに対して下落しそうだが、ユーロがどう動くかは読みきれず、相対的に影響の小さい日本円は逆に上昇しそうなことから、人民元は上下どちらにも動きづらい。
また、米雇用統計がコンセンサスを上回る好結果となり、英国のEU残留が決まり不透明感が払拭されることになれば、市場は「米利上げが今後も定期的(四半期に1度)に実施される」との見方を強めて、6月下旬にはそれを織り込みに行くだろう。
他方、中国では過剰設備・過剰債務の整理で景気回復が遅れるため、利上げは当面視野に入らない。従って、米中金利差は大幅に縮小する方向となり人民元は下落し易くなるため、6月下旬以降には元安波乱の可能性がある。
三尾幸吉郎(みお こうきちろう)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部
上席研究員
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