大英帝国の統治が生んだ「オフショア」
本書では直接的には触れませんでしたが「パナマ文書」も英国の金融の歴史を学ぶと理解できます。
問題の「オフショア」ですが、これは英国の大英帝国時代の植民地統治のための仕組みであり、これが英国の金融システムを支えてきたわけです。英国の首都ロンドン。実はロンドンには二人の市長が存在します。1人は大ロンドン市の市長であり、これは選挙で選ばれた市長です。
そして、もう一人の市長はロンドンの中の治外法権の自由都市「シティ・オブ・ロンドン」(通称シティ)の市長で、様々なギルドの重鎮から選ばれる一年任期の名誉職なのです。
もともと、英国は世界各国に植民地を持っていました。そして、その植民地には英国女王が任命した領主が存在し、領主が自由な自治を行っていたわけです。
今も大英連邦の諸国にはその歴史が息づいています。独立国となったオーストラリアやカナダですら、この片鱗が残っているわけです。
オーストラリアやカナダには地域の領主を意味する「総督」が存在し、外交儀礼上の地域の最高責任者は首相ではなく「総督」なのです。ですから、国家のトップはNO2を意味する首相なのです。そして、未だに他国の外交官が赴任した場合、総督に任命状をお届けするわけです。
「パナマ文書」に中国人が多い理由とは?
そして、この仕組を利用したのが「オフショア」であり「タックス・ヘイブン」だったわけです。
英国の自治領に、「匿名で取引でき税金がかからない地域」を作り、ロンドンのシティの金融機関が世界中から資金を集め巨大な手数料ビジネスを行ってきました。
また、このような地域は英国領の一部ですから、英国の金融ルールが適用される仕組みになっており、英国の金融機関にとっては安全な地域でもあったのです。もともとは英国の貴族のための仕組みを新興貴族ともいえる富裕層が利用したのが今回の問題の本質といえるわけです。
そして、今回のパナマ文書で中国人やその関係者が多い理由もここに起因します。
かつて、英国の植民地の一部であった自由都市香港も英国の金融とアジア戦略の要でありました。しかし、香港は返還期限のある租借地であり、期限到来に伴い中国に返還されました。この際、多くの香港人特に富裕層は、これを恐れ英国の他のタックス・ヘイブンに資産を移したわけです。
この手助けをしたのがHSBCを中心とした英国の銀行であり、この現地代理人が今回文書の流出したパナマの法律事務所だったわけです。そして、この時の記録(設立に関するパスポートデータや資金移動など)がパナマ文書ということなのです。
このように歴史を学ぶと本質的なものが見えてくるわけです。
渡邉哲也(わたなべ・てつや)経済評論家
1969年生まれ。日本大学法学部経営法学科卒業。貿易会社に勤務した後、独立。複数の企業運営などに携わる。内外の経済・政治情勢のリサーチ分析に定評があり、さまざまな政策立案の支援から、雑誌の企画・監修まで幅広く活動を行なう。著書に、『中国壊滅』『ヤバイ中国』(以上、徳間書店)、『「瑞穂の国」の資本主義』『世界の未来は日本次第(共著)』(以上.PHP研究所)など多数。近著に『日本人が知らない世界の「お金」の流れ』(PHP研究所)がある。(『
The 21 online
』2016年05月25日公開)
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