hanko
(写真=PIXTA)

オンライン送金、モバイル決済、仮想通貨での決済、クラウド家計簿など、金融とITを融合した技術革新「フィンテック」が注目を集める中、ネット銀行以外の銀行でも印鑑の使用を取りやめる動きが出てきています。

押印の代わりに生体認証?

2016年5月にとある大手銀行グループが口座開設や住宅ローンなどの手続きで、印鑑を不要とすると発表しました。現在、一つの手続きで10ヵ所以上印鑑を押す場合があるので、印鑑が不要になれば申込者も、確認する側の事務作業もスムーズになることでしょう。

同行では印鑑使用の廃止を含めて業務全般を見直せば、今後4年間に事務作業を2割減らせると見込んでいます。その人員を他のグループ銀行に振り分けて、営業の強化につなげる狙いがあるようです。安全面については、2015年の秋以降に一部の支店で印鑑を使わない口座開設が試験的に行われ、問題がないことが確認されています。

すでに口座を持っている場合も、印鑑不要の手続きを希望すれば切り替えに応じてもらえるようです。反対に「印鑑を使って手続きしたい」という場合は、書類でも対応してもらえます。

そこで気になるのが、印鑑の代わりになるものです。同行の場合は、手形・小切手取引や貸出取引といった例外を除いて、印鑑の代わりに指の静脈を利用した「生体認証」などで本人確認を行えるようにするとしています。

また、別の大手銀行では、印鑑を一切使わずに口座開設や住所変更など各種の届けができるよう、サインだけで本人確認を行う「サイン認証」を導入する予定だと発表しています。

事前にユーザーの手書きサインを電子データとして登録し、取引の際に専用端末にサインをすると、登録されているサインのデータ(距離、方向、筆圧など)と照合して本人確認を行う仕組みになるのだそうです。

そもそも、日本ではなぜ印鑑が重視されているのでしょうか。日本ほど印鑑を使う国はないと言われるほど、世界の中でも屈指の印鑑文化が根付いています。押印された書類しか認めない公共機関や企業も珍しくありません。

印鑑の歴史をひも解くと、紀元前5,500年にまで遡ります。古代メソポタミア文明で印鑑が誕生したという説が有力で、中東から地中海沿岸に広がり古代中国から日本に伝わったとされています。日本最古の印鑑として知られている「漢委奴国王印」にはじまり、701年には大宝律令の制定時に官印が導入されています。時代を経た今も廃れることなく続いてきた印鑑文化ですが、現在も印鑑が用いられている背景には印鑑登録・証明といった制度の存在があります。