民泊解禁,ホテル市場,供給過剰
(写真=PIXTA)

民泊ビジネスが活況を呈している。現時点では、旅館業法の認可を取得していない民泊の多くは「闇民泊」と呼ばれる違法状態にあるが、民泊の収益性の高さと、悪質な経営者以外は取り締まられていないことなども民泊ビジネスの活況を後押ししているようだ。

しかも5月19日の「規制改革に関する第4次答申」、6月2日の「日本再興戦略2016」等により、Airbnbに代表される民泊(インターネットを通じ宿泊者を募集する一般住宅、別荘等を活用した宿泊サービスの提供)に関する法案が今年度中に提出され、全面解禁される見込みになったため、その動きは加速している。

既に多数のコンサルタントが生まれ、頻繁にセミナーが開かれ、関連業者も多く起業している。数多く誕生した民泊代行サービスの中の一部のサイトをみると、そこに登録すると最大手のAirbnbはもちろん、欧米系や中国系などの民泊サイトへの登録・翻訳や、鍵の受け渡しを含めた物件管理・清掃やトラブルにも対応し、民泊法案成立後は政府への物件登録も代行するなど、何から何までワンストップで対応してくれる場合もあるようだ。

収益性の高さに加え、この利便性の高さもホスト(空き物件の保有・賃借者)による登録を進ませる理由だろう。民泊法案では、旅館業法で定められている認可は不要で、政府への登録はネットでの届出だけで済む。

報道によると、2015年にAirbnbを利用した訪日客は138万人に達し、中国系などの民泊サイトも急増していることから、全体の民泊利用者数はAirbnbの倍程度と言われている。これらが違法ではなく合法になったら、その利便性と収益性から、民泊登録数はかなりの数にのぼる可能性がある。全国には居住可能な空き家が820万戸以上あるのだから、潜在的な民泊物件数は非常に多い。

ただし、現時点では多くの不動産会社等は民泊ビジネスへの進出にさほど積極的ではない。現時点では違法状態で法制度が整っていないこともあるのだが、次に大きな理由と考えられるのが、民泊開業による周辺住民とのトラブルの可能性だ。

ホテルが住居専用地域に建設できないことから分かるように、居住と宿泊は水と油と言ってよいほど親和性が低く、特に同じマンション内での近隣トラブルは避けがたい。問題なのは民泊の存在が、マンション内の他の住民にほとんど何のメリットももたらさないことだ。

加えて、民泊法案では180日を上限とする日数制限がかかる見通しのため、宿泊施設として利用できない残りの期間の運用に問題が残る。もちろん、個人宅での外国人受け入れや、所有するマンション・戸建ての空き家活用であれば、180日であっても大きな問題はないはずだ。

すでに海外の大都市では、民泊への規制強化も始まっており、日本での民泊法制化でも、そうした海外における規制動向も参考にすることになるだろう。さらにテロや犯罪の発生への危惧もあると思われる。

その上で懸念されるのが民泊の全面解禁による宿泊施設の供給過剰問題だ。民泊の解禁は、2020年に訪日外国人4千万人を目指す政府目標を達成するために生じる、宿泊施設不足対策という側面もある。しかし、本当に国内の客室数は大きく不足するのだろうか。

政府目標から逆算すると、2018年中に2015年末比で訪日外国人旅行者数は1千万人の増加が見込まれる。2016年から2018年の開業済み及び開業予定のホテル客室数は43,500室に達するという。計画未公表のホテルやゲストハウスなどを含めるとさらに多くの供給があるだろう。日本人の延べ宿泊者数が現在と不変なら、これらのホテルや宿泊施設の開業により全国で8~9百万人の訪日外国人の受入れが十分可能と思われる。

つまり、現在見込まれているホテル供給計画等で、当面のホテル需要目標のかなりの部分をまかなえる可能性があり、ホテルや民泊供給の多い都市では、民泊解禁が宿泊施設の過剰をもたらす懸念が出てきた。

民泊の法制化は、違法状態の解消に加え、現在、所得税を納めていない民泊経営者への課税をも意図したものと思われる。しかし、同時に民泊の完全解禁は宿泊施設の供給過剰をもたらし、ようやく上昇しはじめたホテル従業者の賃金を再び引下げ、高品質のサービスに影響を与える可能性もある。

民泊の法制化では、例えば当初は特定地域からの解禁や、戸建てやホームステイ型に限定した段階的な解禁など、何らかの激変緩和措置の検討も必要ではないだろうか。

竹内一雅(たけうち かずまさ)
ニッセイ基礎研究所 金融研究部 不動産市場調査室長

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