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(写真=The 21 online/寺尾 玄(バルミューダ社長))

急成長の家電ベンチャー・バルミューダの「ギャップを作る発想法」 第2回

扇風機の『GreenFan』やトースターの『BALMUDA The Toaster』など、機能とデザイン性を高いレベルで兼ね備えた家電を世に送り出して急成長を続けているベンチャー企業・バルミューダ。技術も、デザインも、専門的な教育を受けたわけではない創業社長・寺尾玄氏が持つ、商品開発に対するユニークな考え方をうかがった。

ミュージシャンの経験がモノ作りに活きている!?

私は、バルミューダを創業する前は、バンドを組んで音楽をやっていました。世間的には異色の経歴ということになるのでしょうが、会社を経営し、モノ作りをしていると、ミュージシャン時代の経験が今につながっていると感じることが多々あります。音楽もモノ作りも、「クリエイティブ」という点ではまったく同じ。表現の手段に違いがあるだけです。

そもそもクリエイティブとは何か。人によっていろいろなことを言うでしょうが、私は「工夫」のことだと捉えています。料理をしやすくするためにまな板の位置をちょっと変えるのも工夫、つまりクリエイティブな行為です。そうした工夫の中で、世界を変えるほど大きな影響力を持ったものを「イノベーション」と呼ぶ。ただそれだけのことです。

そして、人間は、元来、工夫をする存在です。

たとえば「暑いな」と感じたとき、そのままでいる人はほとんどいません。日陰に入るなど、何か暑さを和らげる工夫をするはずです。

これは「死から遠ざかる」という生存本能から生じる工夫ですが、「生きるか、死ぬか」という状況がほとんどなくなった今の日本では、工夫は「喜びを求める」ために行なわれています。

その工夫を、文化の領域で行なうものが音楽であり、産業の領域で行なうのがモノ作り。私にとってミュージシャンからの起業は、工夫をする領域を変えただけのことなのです。

人は「数字」ではなく「感覚」で判断している

その意味で、私は今も昔も同じことをやっている感覚なのですが、音楽の世界では当たり前のことが家電の世界では当たり前になっていないこともあります。

たとえば、音楽の世界では「この曲はポップか?」とよく考えます。「ポップ」とは、みんなが「これはいい!」と思う感覚のこと。ポップでない曲は多くの人から支持されず、絶対に売れません。これは家電も同じで、ポップではない家電は売れない。それなのに、家電の世界で「この商品はポップか?」と考える人はほとんどいないのです。

では、家電をはじめ、モノ作りをしている人たちの多くは何を考えているのかというと、技術のことばかり。消費電力を下げることや重量を軽くすることを考え、「○kWhも下がった」「○gも軽くなった」とアピールするのですが、私に言わせれば、それは「喜びを求める」ための工夫ではありません。どうでもいいことなのではないかとさえ思っています。

コップを買うとき、重さがどうだとか、「あのコップよりもcc多く入る」とかは、あまり気にしないでしょう。そのコップが自分の気に入るかどうかのほうが大切です。人はモノを選ぶとき、数字で表わせる技術的な価値以上に、数字では表わせないアート領域の感覚を重視しているのです。

私たちが手がけた『GreenFan』や『BALMUDA The Toaster』がヒットしたのも、他の扇風機やトースターよりポップだから。他の商品よりも、どれだけポップであるか。そのギャップが大きいことが、売れるための条件です。

ギャップがなければ、価格競争をするしかありません。

「ポップかどうか?」を考えてモノ作りができるのは、私が音楽をやっていたからこそだと思います。