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(写真=garagestock/Shutterstock.com)

2014年のアメリカ国民1人あたり年間医療費は9,523ドル(約107万円)に上り、同時期の日本の1人あたり医療費(32万1,100円)と比較すると、その差は3倍以上にもなります。

その背景には、日本には公的医療保険制度があり、国民皆保険体制が確立されている一方で、アメリカでは2015年時点で9.1%の国民がどの医療保険にも加入していないという制度の差が存在します。

そんな公的保険制度が一部の国民向けにしかなく、民間医療保険は内容が複雑で高額というイメージがあるアメリカで、「オスカー(Oscar Health Insurance)」というフィンテック企業が今までになかった保険商品を市場に投入し話題となっています。

保健分野のフィンテック企業の代名詞「オスカー」とは

オスカーは2012年ニューヨークで創業、2014年から医療保険の販売を開始した企業です。創業時、オスカーはグーグルやフィデリティといった大手企業から7億ドル以上の資金を集めたことでも注目されていました。

2017年2月時点で、ニューヨーク、サンアントニオ、ロサンゼルス、オレンジカウンティ、サンフランシスコでサービスを提供しており、すでに13万人以上が契約しています。

一般の医療保険と比較して、オスカーにはとてもユニークな特徴がいくつかあります。

その1つが、顧客が電話で24時間医師の診断を受けられるというサービスです。たとえ夜中であったとしても、顧客がオスカーのスマホアプリを使用して医師の診断を申し込めば、10分程度で提携している医師から電話がかかってきます。目の問題、湿疹、インフルエンザなどの一般的な症状であれば、その場で診断後、処方箋を近くの薬局に送ってもらうことも可能です。

また、顧客の健康の向上にも力をいれており、2014年には、ウェアラブル端末を製造する「ミスフィット(Misfit)」と協力し、「ミスフィット フラッシュ」というウェアラブル端末を顧客に無償配布しています。この端末は腕時計のような形をしており、歩数、消費カロリー、歩行距離、睡眠の質や長さなどを記録することが可能で、1日の歩数目標をクリアした場合に毎日1ドル、1ヵ月に最高20ドル、1年に最高240ドルを顧客に配布するという取り組みもされています。それによってオスカーは顧客が積極的に体を動かし、健康を向上できるようサポートしているのです。

加えて、インフルエンザの予防接種や健康診断などを無料で受けることもできます。オスカーのアプリには過去の通院履歴や診断結果、処方箋の情報なども記録されているため、情報の管理が容易です。

3人のケアガイドと1人の看護師からなるコンシェルジュチームも置いており、例えばどんな医師の診断を受けたらよいか迷った場合、顧客がオスカーに連絡をすると毎回同じコンシェルジュチームにつながります。毎回違う人が対応するただのコールセンターとは異なる安心感もオスカーが支持されている理由の1つでしょう。

オスカーには、自己負担の上限額が異なる5つのプランが用意されており、上限を超えた分はオスカーが支払うシンプルな仕組みになっています。そして、保険料の見積もりから加入まですべてオンラインで完結します。

1つの具体的な事例を見てみましょう。

以下のように、ニューヨーク在住、36歳、収入5万ドルで契約者のみをカバーする見積もりをオスカーのサイトで出してみたところ、一番月額料金が低いプランで月424ドルでした。収入が少ないと補助金が出るようですが、日本よりもかなり高額な印象です。

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医師の役割や、仕事内容に与える影響

日本にオスカーのような企業が現れるのはまだ先かもしれませんが、もし実際に現れた場合には医師の働き方に大きな変化をもたらすことは間違いないでしょう。

平成28年度の診療報酬改定では「かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所」の施設基準が新設されたり、2017年1月からセルフメディケーション税制が施行されたり、2018年から総合診療医の専門医教育が始まったりと、実際に病院へ行く患者数を減らし、大病院の医師がより緊急度の高い重篤な患者に集中できるようにしたり、医療費そのものを削減するための動きが近年日本においても見られています。オスカーのようなシステムが広がれば、症状が軽い患者は電話で医師の診察を受け、薬を近くの薬局で受け取れるため、その動きは加速度的に進むのではないでしょうか。

電話やアプリを使うことで、地理的に離れた人の診断も可能になります。地域の垣根がなくなることで医師同士の競争が激化する可能性があります。単純な症状をアプリで診断する医師と、より重症の患者を実際に病院で診断する医師の間で給与などの格差も生まれてくるでしょう。

ただし、電話での診断は危うさも含んでいます。重篤な疾患の見逃しを起こさないように、医師はより精度の高い問診スキルを磨いていく必要性に迫られるでしょう。

IBMのAI「Watson(ワトソン)」が医療業界でも存在感を増しつつあります。フィンテックの力を上手に使いこなすことで、将来的には医療の質を向上させつつ、医師の負担を軽減できる、そんな未来も近いのかもしれませんね。(提供: DR‘S WEALTH MEDIA